2020/10/08

高野秀行『謎のアジア納豆』

『謎のアジア納豆 そして帰ってきた<日本納豆>』(高野秀行:著 新潮社:刊 Kindle版)
読了。「辺境ライター」、高野秀行さんのアジアにおける納豆についての見聞記です。
簡単に感想など。

納豆。不思議な食べ物だと思います。あたしは西の方の故郷にいるころ、納豆が食べられませんでした。しかし上京してしばらくたったある日、納豆を食べる仲間の様子を見て、自分でもちょっと興味を持って、スーパーで納豆を買ってみました。そしてそれまで食べられなかった納豆を食べられました。そしてそのことに自分で驚きました。食べ物を食べられる・食べられないってのはその土地の空気にもよるのかなと思いました。いや、貧乏暮らしでは納豆が食べられるか食べられないかはかなりQOLに関わってくるとは思いますが。インスタントラーメンより飯に納豆かけて食う方がコストは同じくらいではるかに体に良いでしょうし。
というわけで、納豆ってのは自分の中ではちょっと不思議な食べ物にカテゴライズされているのだけど。

そして、納豆ってのは日本独自の食べ物だと思っていました。そう思っている人は多いと思うのだけど。昔、韓国の人に「納豆食べられるんですか。すごいですね」って言ってしまったことがあります。本書では詳しくは紹介されてないですが、韓国にも納豆はあるようで(赤面)。

納豆を日本独自の食べ物と思い込みがちなのは「中華」に納豆がないせいかなと思います。日本でポピュラーな食材で、中華に似たような食材がないなら、それは日本独自な食材ではないかと思いこんじゃうんじゃないかと。
ただ、本書によると中国にも納豆はあるようです。ただ、メインストリームの食材ではなくて、「辺境」の食材とか。そう、本書で高野さんは納豆を「辺境食」と定義づけていらっしゃいます。

さて、本書の目次ですが。

プロローグ 日本は納豆後進国なのか?
第一章 納豆は外国のソウルフードだった!? チェンマイ/タイ
第二章 納豆とは何か
第三章 山のニューヨークの味噌納豆 チェントゥン/ミャンマー
第四章 火花を散らす納豆ナショナリズム タウンジー/ミャンマー
第五章 幻の竹納豆を追え! ミッチーナ/ミャンマー
第六章 アジア納豆は日本の納豆と同じなのか、ちがうのか
第七章 日本で『アジア納豆』はできるのか 長野県飯田市
第八章 女王陛下の納豆護衛隊 パッタリ/ネパール
第九章 日本納豆の起源を探る 秋田県南部
第十章 元・首狩り族の納豆汁 ナガ山地/ミャンマー
第十一章 味噌民族納豆民族 中国湖南省
第十二章 謎の雪納豆 岩手県西和賀町
第十三章 納豆の起源
エピローグ 手前納豆を超えて
謝辞
参考文献

となっています。アジアの納豆事情だけではなく、日本国内も取材されています。
そして納豆に関する高野さんの考察と高野さんによる実証実験も紹介されています。

紙版の方は分からないのですが、Kindle版には口絵にカラー写真もたくさん収められていて楽しいです。

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2020/06/15

村井理子『兄の終い』

『兄の終い』(村井理子:著 CCCメディアハウス:刊 Kindle版)孤独死をした兄を「終う」ことになった、その顛末を描いた手記です。

村井理子さんはツイッターでフォローしています。実はご著書は未読なのですが(汗)、時々あげられるわんこの写真が好きなのでフォローしています。そうやってツィートを拝見しているうち、新刊情報としてこの『兄の終い』に関するツイートが流れてきました。そして、その内容に「ギクリ」としました。

なぜなら私もいつか「終われなきゃならない」『兄』だからです。

そのことは時々考えます。自分にも「老い」がやって来てるのを自覚しているし、その先に死があるのだろうなとぼんやり考えます、そして死んだら誰かが終っちゃう羽目になるんだろうなと思います。そしてそれはかなりの確率で『兄』として終われるのかなぁと思います。その義理なんて1ミリもないんだけど。

なので、本書に興味を持ちつつ、読むのがとても怖い気持ちがしてました。で、手を出しあぐねていたのですが。こういう事態はそのうちほぼ確実に「降りかかる」ことですし、どうなるかちょっと心の準備もしときたいと思って読んでみることにしました。老眼が始まってるので字が大きくできるKindle版があるのはありがたいですな。

ざっと一読した程度の感想ですが、書いてみます。

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2020/06/12

ダニエル・デフォー『ペスト』

『ペスト』(ダニエル・デフォー:著 平井正穂:訳 中公文庫Kindle版)読了。1665年のロンドンにおけるペスト流行を描いたダニエル・デフォーの作品です。

私は寺山修司のファンなのですが。寺山の戯曲に『疫病流行記』という作品があります。お芝居を拝見したことがあります。『疫病流行記』、かっちょいいタイトルだと思いました。この『疫病流行記』というタイトルはこのダニエル・デフォーの著作が元ネタなのかなと。(作品の内容自体はほぼ関係ないようですが)
ダニエル・デフォーは『ロビンソン・クルーソー』の作者とか。『ロビンソン・クルーソー』も断片的にしか知らないのですが。その程度の知識しかないのですが。

んで、今、新型コロナが流行している状況なのですが(こう書いとかないと後年読み返してもちんぷんかんになるしね)、で、この、『疫病流行記』を思い出して、読んでみたいなと思いました。

この『疫病流行記』というタイトルの本は調べてみると新刊ではちょっとお高いです。う~んと思ったのですが。そして、私は老眼が始まってるので、できたら文字を大きくできるKindle版が欲しいと思ったのですが、Kindle版もないし。で、ちょっと調べてみたら、この中公文庫の『ペスト』が原題的には"A JOURNAL OF THE PLAGUE YEAR"という事で、同じ本の和訳と思われます。そしてこちらはちょいとお安い上にKindle版もあるという事で、こちらを買ってみることにしました。

調べていくうちに名言集のサイトに「ダニエル・デフォー『疫病流行記』より」としてかっちょいい台詞が紹介されていました。
「疫病患者の出た家の扉は、すべて釘づけにされた。そして釘づけにされた扉の中では、新しい世界がはじまっていたのだった。」
このくだりもどこらへんでどういう文脈で使われてるのかなと思いました。

まず、最初はKindleの無料サンプルから。無料サンプルでもかなりの読みでがあります。

内容的には小説というよりルポルタージュといった風です。ただ、巻末の解説によるとノン・フィクションではなくフィクションと理解すべきだとか。デフォーとは完全には重ならない主人公の一人称でこのロンドンにおけるペストの流行が語られています。
もちろん完全なフィクションではなく、かなり事実に基づいているのではとは思います。もちろん本書の内容と史実との照合研究はたくさんあるのでしょうが、そこらへんは分からないのですが。

まぁ一人称で淡々と語られるスタイルなので、読みながらちょっとダレてしまったのも事実ですが。

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2020/02/29

『少女終末旅行』

『少女終末旅行』(原作&アニメ)の感想をちょっと書いてみます。
先にお断りしておきますが、謎解きみたいなのはありません。私はそこまで深く本作を読み込めてないですし、本作に関する謎解きや解説はとてもレベルの高いのがたくさんありますし。私はそういうのに伍して何か書けません。むしろそういうレベルの高いサイトの解説や謎解きを面白く拝見し、「そうか、そうか」って思いながら見ました。

ま、ほんと、個人的な感想という事で。

私は『少女終末旅行』をアニメから見ました。去年の9月の下旬ぐらいだったかな?アマゾンプライムに本作があるのに気がついて見始めました。地上波放送の時も、私の好きな感じのお話みたいだったから見ようかと思っていたのですが、録画に失敗したりしてヘソ曲げて見るのやめました。
近年はこういう配信で作品に触れる機会が多くてうれしいものです。
で、やっぱりはまって、原作も揃えました。あとアニメの設定資料集があるみたいですが、それはまだ買ってないのですが。

面白い世界観です。ジャンル的にはポストアポカリプス物になるのかな?人類のほとんどが滅亡したあとの世界の物語。
そういうの、私は好きです。

「私は好きよココ。
すべてはもう終わったもので
なんにも
わたしを
傷つけないもの」
(鈴木志保『ヘブン…』)

ただ、単純にポストアポカリプスじゃないんですよね。今の我々からしたら超高度なハイテク文明の廃墟と第2次世界大戦からちょっと昔くらいまでの兵器が混在する世界。解説によると超ハイテク文明がいったん滅び、生き残った人々がなんとか使えるテクノロジーとしてそういう古いテクノロジーを再利用したそうですが。それならそういうレトロなガジェットというより、ハイテクの劣化版みたいなガジェットになるとも思うのですが。
ここら辺はこれもちょっと変わったポストアポカリプス物の『ヨコハマ買い出し紀行』と共通するかな。『ヨコハマ~』も人間そっくりなロボットが作れるハイテク文明のなれの果てだけど、その劣化版じゃなくてレトロなガジェットがいろいろ出てきますし。
(そう、『ヨコハマ買い出し紀行』も私の好きな作品です)

なんていうのかな、私はこの世界観を「夢の中みたい」と感じました。その、超ハイテクと第2次大戦あたりの古い兵器が混在してる不思議な世界を。脈絡はないけどなにか通じているような感覚。だから、夢の中みたいだなと。

そのハイテク文明は多層構造の人工地殻に暮らす人々だったらしく。その文明の廃墟を旅するふたりの少女、チトとユーリのおはなし。

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2019/09/11

岸田秀『唯幻論始末記』

『唯幻論始末記-わたしはなぜ唯幻論を唱えたのか-』(岸田秀:著 いそっぷ社:刊)
「唯幻論」の提唱者、岸田秀の今年1月に出た新刊です。読了。

「唯幻論」。自分なりの(間違ってる可能性もある)理解ですが。まず大前提として「人は『本能』の壊れた動物である」という考えがあります。『本能』と言われると、「あいつは本能のままに生きてるがめつい奴だ」とか、決していい意味では使われないのだけど。でも動物にとって『本能』とは、それに従って生きていれば、大過なく生きていける、動物に組み込まれた行動様式・システムであります。

これが人間においては「壊れている」。なので、人はおのおのがてんでばらばらの『私的幻想』を抱えて生きている。しかしそれでは人は社会を形成して生きていけないから、それぞれの『私的幻想』から各人で共有できそうな要素を取り出し、『共同幻想』を形成し、それによって社会を形成し、生きている。しかし各員の内面は『共同幻想』から取りこぼされた『私的幻想』がくすぶっていて、それが社会の不安定の原因となっている。そう私は『唯幻論』を理解しているのですが。

本書の目次はこうなってます。

第一章 性的唯幻論と私的唯幻論

  • 人間は変な幻想に基づいてしかセックスができない
  • 性交に興味を失った人類がつくりあげた「嘘」
  • 弱くなった男の性欲を女性記に向かわせるための屁理屈
  • なぜ人間は、性的興奮のために倒錯的行動が必要なのか
  • ユダヤ教とは、無理してつくられた不自然な例外的現象
  • 歴史は、その国民がどんな幻想を抱いたかで動かされる
  • 有り得たかもしれない事態が想定されて、初めて歴史は成立する
  • 母との関係に対処するために形成したのが唯幻論
  • 個人心理を集団心理に当てはめるのはおかしいか
  • 人間の思想や行動の原因は、心や脳の中に見出せるのか
  • インチキ心理学が去り、インチキ脳科学が出現
  • 織田信長をサイコパスと呼ぶのは何の意味もない

第二章 わたしの略歴

  • 養子として岸田家に
  • くも膜下出血になった十九歳のとき
  • 家業の劇場を継ぐも、大赤字に
  • ぶっつけ本番、行き当たりばったりの授業
  • 研究者になるには不遇で場違いな家庭
  • 人にものを尋ねないという、という習癖
  • 借りていないお金を返さねばならないという、という強迫観念
  • 受験勉強をしてはならない、という強迫観念

第三章 偽りの理想的母親像

  • 愛情を注いだからと、子に同じことを求める親こそ悪質
  • 献身的に尽くしてくれた母親に、献身的に尽くす
  • わたしの中にあった、卑屈さと傲慢さ
  • 無理に自分は幸福と思おうとしていた
  • 母殺し、祖母殺しの事件が問いかけること
  • わたしを一種の性格破綻者に追い込んだのは何か
  • ほとんどの人間は、変な親から変な人格を受け継ぐ
  • 母は身勝手な父の被害者だったのかもしれない

第四章 強迫観念から生まれた性的唯幻論

  • 自分が変だと気づくのは用意ではない
  • 「有益な」ことをしたと思い込むための読書
  • 相反する強迫観念から本を遠ざけることに
  • 献身的に尽くすが、セックスは求めない「清らかな」恋
  • 要求に従うように見せかけて裏切るパターン
  • なぜわたしは「インチキな熱烈恋愛」に嵌ったのか
  • 性的虐待を受けた女性が惨めな男関係を繰り返す理由
  • なぜセックスをしない男女関係は「清らか」なのか
  • 「女には性欲がない」という嘘が必要だった
  • 女性器も陰毛も乳房も、隠されたから性的魅力になった

第五章 現実感覚の不全

  • 幼いころから狂っていたわたしの現実感覚
  • 頻繁な紛失癖は何かの無意識的願望なのか
  • 非現実を現実と信じてしまう、歪んだ認知構造

第六章 でっちあげられた「天孫降臨神話」

  • 目に飛び込んできた「日本兵の死体の写真」
  • 欧米の一神教に対抗するための「万世一系」
  • 現実をしっかり認識してなかった日本軍
  • 主観的心情が大事で、客観的現実は軽視する傾向
  • 白村江での惨敗、という屈辱を隠蔽したかった日本
  • 真珠湾奇襲は屈辱を否認する「内的自己」の爆発だった
  • 皇国史観と東京裁判史観はともに隠蔽史観
  • アメリカのイコールパートナーという自己欺瞞
  • 無意識へと抑圧された「アメリカへの怒り」
  • 他国の怒りに鈍感なアメリカに議論を吹っ掛けるべき
  • 朝鮮もロシアも中国も、日本に怒っているだろう

第七章 善意の加害行為

  • なぜ近代ヨーロッパ人は、かくも残酷で攻撃的だったのか
  • ペリーのやり口を朝鮮に強いた日本
  • 「アジアを解放するため」という大日本帝国のタテマエ
  • 幕末の屈辱を晴らすために軍事力一辺倒に
  • 「死ぬために戦争を始めた」かのように見える日本人

第八章 消えた我が家

あとがき

私は本書をどのくらい理解できたか自信はないのですが、私的な感想など。
実はこの感想、書きたい書きたいと思いつつ、何ヶ月も書きあぐねていました。
あまりうまく書けませんでしたが、現時点における感想です。

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2019/05/13

『格差と民主主義』

『格差と民主主義』(ロバート・B・ライシュ:著 雨宮 寛&今井章子:訳 東洋経済新聞社:刊)
読了。今日の格差の拡大と固定化について、主に米国の例を挙げて論じた本ですが、日本にも当てはまると思います。読了。

数年前、『泰平ヨンの航星日記』というSFを読みました。SF版『ガリバー旅行記』とか『ほら男爵の冒険』といった感じのお話です。その小説にとても示唆的なある星の話がありました。
機械化が進み、その星の資本家たちは利益を増やすために労働者を解雇する。職を失った労働者は貧しくなって、資本家が作る商品が売れなくなる。商品が売れなくなった資本家は、利益を確保するためにさらに労働者を解雇する。さらに貧しくなった労働者はさらに資本家の作る商品を買えなくなる。このスパイラルで資本家も労働者もともに堕ちていくというエピソードでした。それを読んで私は思いました。「あ、これ、今の日本じゃん」って。

それで、こういうメカニズムをもっと詳細に解説した本が読みたいなぁと思っていたのですが。
ネットを巡っているうちに本書の存在を知り、買ってみました。
なので、簡単に感想など。

本書の章立てはこうなってます。

謝辞
はじめに

PART1 不公正なゲーム
試される自由企業体制
ゆらぐアメリカン・ドリーム
リスクと無縁な超富裕層
失敗しても減らないCEOの報酬
まじめにやっても報われない国民

政府の大きさは本当の問題ではな-問題は誰のために存在するかだ
ロビイストが政治をゆがめている
大企業を優遇する規制当局
カネに支配されていく政府

巨額の資金が乗っ取る民主主義
裏金の温床「スーパーPAC」
富の集中が民主主義を脅かす

超富裕層の大転換
富裕層への減税、中低所得層への増税
巨額の貯蓄の行方

公共財の劣化
損なわれる「機会の平等」
放置される貧困層の子供たち
公教育の崩壊
「あきらめ」に支配される米国

前提条件の崩壊
無視された大恐慌の教訓
問題はグローバル化ではない

何を間違えたのか
失われる中間層
政府はどのように失敗したのか
大不況の真の原因は政治にある

なぜ大企業に頼れないのか
国営資本主義という中国の戦略
国家戦略を妨げる米国企業
戦略を持てない米国政府

ウォール街が握る政治的影響力
制御不能なウォール街のやり口
繰り返される失敗
規制を骨抜きにする手口
失われる経済システムへの信頼

結局、誰のための経済なのか

PART2 逆進主義的右派の勃興
社会ダーウィン主義の再来
逆進主義者は何を考えているのか
社会ダーウィン主義の復活
社会ダーウィン主義の否定
逆進する共和党
司法に忍び寄る逆進主義
進化しない逆進派

「目的のためには手段を選ばず」戦略
豹変した共和党
「政府は悪だ」という洗脳

道徳観の逆転
問題は寝室(ベッドルーム)でえはなく役員会(ボードルーム)だ
自由と絆が脅かされる

逆進主義の戦略-分断と制圧
戦略①「ゼロサムゲーム」という幻想
戦略②公務員を悪者にする
戦略③最高裁を制圧せよ

経済をめぐる一〇の嘘

PART3 怒りを乗り越えて-私たちがしなければならないこと
行動を起こすには
リーダーシップの基本原則
居心地のいい世界から抜け出せ
現実世界で組織を作る
あらゆる問題に目配りする
継続することの大切さ
民主主義とは投票だけではない

進歩派の支持を獲得し、維持するための申し入れ書(サンプル)
企業の忠誠についての誓い
積極的な市民権の行使
基本的な選択に関する最終的なメモ-逆進か全身か、社会ダーウィン主義か公共の利益か

訳者あとがき
著者・訳者紹介

以上のようになってます。

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2019/02/26

『海軍ダメージ・コントロールの戦い』

『海軍ダメージ・コントロールの戦い 知られざる応急防御のすべて』(雨倉孝之:著 光人社NF文庫)読了。文字通り帝国海軍のダメージコントロールの歴史とその戦いを解説した本です。

戦記なんか読んでると、やっぱり戦いの描き方はドンパチがメインになってると思います。もちろんそれは悪くはないのですが、受けたダメージをいかに軽減するか、艦が沈まないように守り、戦闘を継続するかという戦いもまたちょっと知りたいと思っていました。

軍艦には応急修理用の材木を積んでいるなんて話を昔読んだ事があって、横須賀基地だったかな、公開日に米軍の護衛艦を見たとき、通路の脇に角材や板材が置かれているのを見て、これがその応急修理用の資材かなぁと思って眺めたことがあります。現代なら材木なんかよりもっとハイテクっぽい部材を使うんじゃないかと思ってたのですが。

戦艦大和の本を読んでいて、「応急注排水装置」というものが設置されていると紹介されてるのを読んだことがあります。実際どういう品物だったかはよく分からなかったんですが。もちっとよく知りたいと思っていました。

今回本書を書店で見かけて、そういうずっとどうなってるのかなと興味を持っていた軍艦のダメージ・コントロールシステムについて解説された本という事で、ちょっと興味を惹かれて読んでみました。

本書は日清日露戦争から太平洋戦争終結までの日本海軍のダメージ・コントロールについて概説した本になってます。

その応急作業を行う軍艦内の組織、教育、そして機材等が紹介され、そして彼らの艦を守るための戦いが紹介されています。

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2019/01/21

馳星周『ゴールデン街コーリング』

『ゴールデン街コーリング』(馳 星周:著 角川書店:刊 Kindle版)読了。
馳さんが日本冒険小説協会公認酒場・深夜+1で働いていらしたころの経験を下敷きにした小説です。読了。

私も日本冒険小説協会の末席をうろちょろしていたころがあります。ただ、私は、「日本冒険小説協会を代表して」何かを語れるレベルの者ではありません。むしろ、私のレベルで「日本冒険小説協会ってこの程度の人間の集まりか?」なんて思われるのはとても嫌です。私なんかとはとても比べ物にならないすごい人間の集まりだったんだぞ!!と強く強く主張します。馳さんもそのおひとりかと。

もちろん本書はあのころの馳さんの経験を下敷きにしたフィクション、「小説」であります。それは肝に銘じとかないと。だいたい本作では内藤陳・日本冒険小説協会会長をモデルにした『斉藤 顕』なる人物は本書では「小太り」と描写されています。ほんとうの会長はそれがネタになるくらい痩身でした。ここらへんも「これはフィクションである」という馳さんの断り書きなのでしょう。

日本冒険小説協会は、2011年の暮れに会長が逝去され、翌2012年春の第30回全国大会で解散するまで、30年ちょっと続いた団体です。まぁ、本好き、映画好きのゆるい酒飲みの団体であったと思います、私にとっては。

日本冒険小説協会公認酒場・深夜+1や毎年春の日本冒険小説協会全国大会で馳さんとお話をしたくらいの事はあります。ただ、特に親しいって訳ではありませんでした。全国大会やお店の外でのお付き合いもなかったです。その程度の関係でありました。本書を読んで改めて理解しましたが、私は馳さんが好きになるスジの客ではありませんでしたし。

馳さんが深夜+1で働いていたころをモチーフにした小説を連載されていることは一昨年の暮ぐらいに知りました。どんな小説かとても気になったのですが。今回、単行本になって出てくれて、嬉しかったです。もっと先だと思っていましたから。

角川書店の本書の紹介に
『「日本冒険小説協会公認酒場」と銘打ったバー〈マーロウ〉のアルバイト坂本は、本好きが集まるこの店でカウンターに立つ日々を送っていた。北海道の田舎から出てきた坂本にとって、古本屋街を歩き、マーロウで文芸談義できる毎日は充実感をもたらした。一方で、酒に酔った店主・斉藤顕の横暴な言動と酔客の自分勝手な振る舞いには我慢ならない想いも抱えていた。(以下略)』
とありました。甘々の感傷的な過去懐旧譚にはしないのだなと。

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2018/12/12

『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』

『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』(三方行成:著 早川書房:刊 Kindle版)読了。
古今東西の昔話や童話をSF仕立てにした短編集です。今年の第6回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作だそうです。(優秀賞の上に大賞があるようですが、今回は該当作なしとか)

短編集ということで、お試しとして本書に収められた「地球灰かぶり姫」がKindle版として無料公開されています。それを読んで面白かったので、購入しました。
Kindle本を買う場合、紙の本と比べて中身を確かめるのがなかなかに難しくて、まだまだ戸惑うことも多いのですが。お試しとかありますけど、やっぱりそういうのに拘束されずぱらぱらと眺めてみたいですしね。でも本書は短編集のおかげか、1篇無料という事で、とっつきがよかったです。

本書に収められたおはなしは

  1. 「地球灰かぶり姫」(シンデレラだと思います)
  2. 「スノーホワイト/ホワイトアウト」(これは白雪姫になるのかな)
  3. 「<サルベージャ>VS甲殻機動隊」(これはなんになるのかちょっと。タイトル的にはアレが元ネタかもしれませんが、アレは昔話でも童話でもないしなぁ…)
  4. 「モンティ・ホールころりん」(これは「おむすびころりん」ですね)
  5. 「アリとキリギリス」(これはそのまんま)

の全5編。それから「第6回ハヤカワSFコンテスト選評」として審査員の方々の選評が載ってます。これについては本作以外への言及もあります。
三方行成さんご自身の前書きやあとがきはありません。

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2018/11/06

高野秀行『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』

『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』(高野秀行:著 文藝春秋:刊)読了。
「辺境ライター」高野秀行さんの世界各地の珍食奇食に関する紀行エッセイです。

先日、「食フェス」ってのに行ってきました。広場にたくさんの露店が並んでいて、日本や世界の各地の料理が食べられるというイベント。

181106

そこで、仲間がアフリカのどこかの国のブースで買ってきたという焼いたイモ虫を持ってきました。後日改めてネットで調べるとモパネワームという物らしいのですが。

お酒が少々入っていたこともあり、食べてみました。中がぐちゅっとしてたり、妙な味がしたらダメだったかもしれませんが、けっこうもくもくと食べられました。ネットで煮干みたいというたとえを見かけましたが、食感はそんな感じかな。味もそう濃い方ではなかったかと。あとかすかに小エビのカラの風味がしました。キチン質って奴かしら?

ま、昆虫食としては初心者向きではあったのでしょうが、けっこう食べられるものだなと思いました。それで、その手のイカモノ食いにちょっと興味を持って。
で、フォローしている高野秀行さんのツイッターによると、高野秀行さんが経験してきたそういう世界の珍食奇食を取り上げた本が出ると知って、これは幸いと本書『辺境メシ』を買ってみました。

高野秀行さん、ファンです。以前はよく読んでいたのですが、近年はそういう本を読むことも少なくなってしまい、あまり読まなくなってしまっていたのですが。
辺境ライターの高野さんが紹介する、世界の辺境でのエピソード、とても楽しく読みました。

昔はこういう本を「いつかそういいう所にもいく機会があるのかなぁ」と思いながら読んでいましたが、近年は「こういうところに行く機会はないだろうけど、面白いなぁ」と感じながら読んでます。老いてますわ。

また、そういう辺境をじかに見てるぶん、氏の見識もまた、鋭いものがあります。ミャンマーのアウンサン・スーチーが、ミャンマー民主化のホープと世界に思われていたころに読んだ氏のミャンマー旅行記に「ミャンマー問題の本質は少数民族問題である。その点においてミャンマー民主化の期待がかけられているアウンサン・スーチーも少数民族については差別的に見てる。だから氏がミャンマーの政権を取ってもそれは変わらない」と書いていらっしゃいました。スーチーが政権の座についたその後の展開は氏の分析通りになってしまいました…。

という事で、久しぶりに高野秀行さんの本です。

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