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2023/12/29

映画『PERFECT DAYS』

ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演の映画『PERFECT DAYS』を観てきました。
あまり映画についても詳しい者ではないのですが、簡単に極私的感想を書いてみようと思います。
ネタバレを気にせず書いていきますので、ご注意。

ヴィム・ヴェンダース監督作品は『パリ、テキサス』と『ベルリン天使の詩』を観てます。映画館で観た記憶のある役所広司さんご出演作だと唯一思い浮かぶのが『Shall we ダンス?』くらい。『Shall we ダンス?』はとても面白い映画でしたが。まぁ、その程度なんですが。

ただ、『パリ、テキサス』は「わがココロの映画」です。あのころ、レンタルビデオ屋のダビングサービスで(もちろん今はそれはいけないこととと知っています)で作ってもらったビデオテープを何度も何度もかけて、最後はビデオテープががテロテロになって再生できなくなるまで毎日のようにかけていました(ライ・クーダーの音楽も素敵だったのも理由ですが)。それからパソコンでDVD再生環境が手に入ったとき、真っ先に買ったのが『パリ、テキサス』のDVDでした。そして今は2K修復版という『パリ、テキサス』のブルーレイを持ってます。

主人公トラヴィス。彼は対人関係を構築する能力が徹底的に欠けています。だから、そういう意味で、彼は孤独な人間です。そういうトラヴィスを受け入れた唯一の女性、ナスターシャ・キンスキー演じる女性。しかしトラヴィスは彼女相手にも過ちを犯してしまい。その贖罪として、それもまた彼の独りよがりの行動を起こし、そして彼は逃げるようにそこから立ち去ります。
対人関係がうまく構築できないのは私もです。だから私は「これって俺じゃね?」と感じて、グサッときました。ま、私は、ナスターシャ・キンスキーみたいな女性は現れなかったですけど。それはそれでよかったかな?

ちなみに、同じく対人関係が致命的に不器用なせいで孤独な人間を描いた映画に『タクシードライバー』があるのですが、『タクシードライバー』ももちろん私の「ココロの映画」です。そして、両作とも主人公の名前がトラヴィスなのが面白いです。いや、閑話休題。

その流れでヴェンダース監督の『ベルリン・天使の詩』も観たのですが。それもまたとてもいい映画で、ドイツ語での詩の朗読の響きの美しさも印象的でしたし、コロンボ役で天使役のピーター・フォークも素敵で、とてもいい映画だったのですが。ただやっぱり心をグサグサされるほどの映画ではなかったです。だから『ベルリン・天使の詩』の続編は観ずじまいになってます。

本作が来るのを知ったのはTwitterからなんですが。紹介されていた方が激賞していて、そいでもって私もひさしぶりにヴェンダース監督作を観てみようかなと思った次第。ほんと昨今はTwitterの評判で映画観に行ったり買い物したりしてるよなぁと。存続が危ぶまれているTwitterですが、かなり依存しています。

(以下ネタバレゾーンにつきご注意)

『PERFECT DAYS』、役所広司さんは公衆トイレの清掃員・平山。彼の日々を淡々と描いた作品でした。
平山の境遇は私と近いものがあって、そういう意味でシンパシーを感じながら観ました。
初老、独身、安アパート暮らし。(たぶん)安月給。私は車は持ってないけどね。

住んでいるアパートが面白い物件です。メゾネットっていうんですかね?二階建てです。安アパートでそういう構造のってあるのかしら?しかしアパートの外観には外階段があります。メゾネットなら要らないと思うのですが。いや、部屋の一部がメゾネット形式で、他にも2階に独立した部屋のある物件もある形式なのかしら?それとも美術さんが安アパート暮らしの経験がなくてよくわからなかったのかな?

彼は私と同じく低所得層のようですが、それなりに、お金をかけずに「人生を楽しむすべ」を知ってます。カセットテープで音楽を楽しむ。フィルムカメラで「木漏れ日」の写真を撮る、出先で見かけた植物を持ち帰り(そのためにポケットに入れてる新聞紙で作った植木鉢が秀悦!)盆栽を作る、古書店で買ってきた文庫本を読む。口開けの銭湯に入り、たまには居酒屋で呑み、行きつけの小料理屋もある。そうお金をかけずに人生を楽しむすべ。
仕事も丁寧にこなし、そうやって人生も楽しんでいる。そういうの、とてもうらやましいです。
私もそうなれたらいいと思っているけど、そうなれそうになるときもあるけど、なかなかそれもなれなくて。

平山の年下の同僚、タカシ。仕事は投げやり、飲み屋の姉ちゃん?に入れあげ、会いに行くカネもないと嘆く男。彼に近い心情になるときも多いです。飲み屋の姉ちゃんに惚れたことはありませんが。彼はけっきょく飲み屋の姉ちゃんともうまくいかず(いや、うまくいくほうがおかしいけど。飲み屋の姉ちゃんなんてカネ目当てだけなんだし)、仕事をバックレた挙げ句、辞めてしまいます。あたしもそうしたいと思う時も多いです。

途中に挟まれるエピソードで、平山はどうもそこそこはエエトコの出身らしいとほのめかされます。年代的にもバブルの尻尾あたり。まだ文化的リソースは豊かな中で青春を過ごしてきたのではないかと想います。だから金銭的にはともかく文化的なリソースは豊かに持ってるであろうと思うのです。対するタカシはバブル崩壊後、日本がどんどん貧しくなっていく頃に青春を迎えたのでしょう。文化的リソースはあまり持ってない。だから平川のカセットテープのコレクションも換金できる値打ち物としか見ることができない。それもわかります。

平山の暮らしを「清貧」と語ることはたやすいです。ただ、そう単純に言いたくはありません。それは例えば「やりがいの搾取」と同じく、搾取する側が「お前ら金がないと文句を言うが、金がなくてもこうやって人生を楽しめばいいだろ」的な言説に結び付けられることは徹底的に拒みます。それだけは断言しとかなければと思います。念のため。
この映画で、平山の暮らしに感動した人たちのどのくらいが平山と同等かそれ以下の暮らしで彼のように満足して生きていけるかな。「PERFECT DAYS」を過ごせるのかな?と思います。腐らずにそうできるかな?私はちょっとはできてるけど、完全にはムリかな。腐ってしまう時もあります。

妹の姪っ子が平山のアパートに転がり込んでくるエピソードがあります。そのエピソードで平山には妹がいること、妹のほうは彼女自身か彼女の夫がそうなのかはわかりませんが、そこそこの「成功者」として暮らしているのがわかります。運転手付きらしい高級車に乗っていますし。そういえば『パリ、テキサス』でも主人公・トラヴィスの弟はロードサイドの広告看板を作る会社の社長さんで、そこそこの成功者として描かれていましたね。
そして、平山が今のような暮らしを送っているのは、どうやら父親との確執があったのが原因っぽいとわかります。
人生そこそこうまくやってる妹がいること、父親との確執を抱えていること、そこらへんもわたくし的にはグサリポイントでありましたわ。でもやっぱり人生うまくやってる肉親がいるのは安心要素です。

主人公を公衆トイレの清掃員に設定したのはほんとグッドアイディアだと思いました。他所の公衆トイレ事情は分からないのですが、東京には個性的なデザインの公衆トイレが多いですし。ほかのメディアでも紹介されていた材木が貼られた公衆トイレとか、渋谷だったっけか?マジックミラー張りの公衆トイレも出てきました。その、材木が貼られた公衆トイレは「掃除しにくいのでは?」と紹介されていた記憶があって、苦笑しましたが。そのうちこの映画を見た人が出てきた公衆トイレの「聖地巡礼」するんでしょうね。私もやりたいです。そしてあの浅草駅の居酒屋も呑みに行きたいです。銭湯も行ってみたいです。

スカイツリーが象徴的に使われています。平山の暮らす安アパート、通っている銭湯やコインランドリー、居酒屋。まるで時代に取り残されたような「昭和」な暮らしを見下ろす未来的なスカイツリー。そういえば『ベルリン・天使の詩』でも電波塔が印象的に使われていましたね。

平山は音楽をカセットテープで聴いてます。だから、使われてる音楽はカセットテープ時代のオールディーズになるのかな。車ではカーステレオのカセットデッキ(まだ手に入るのかな?そんなの)、自宅ではラジカセ(たぶんCD再生機能はなし)で音楽を聴いてます。そのカセットから流れる音楽が劇伴になってます。ステレオを止めるとぷつんと音が途切れたりします。サントラは出るのかな?アルバムのカセット版っていつごろまで出てたのでしょうか。あたしもラジカセしか持ってないころ、いくつか買ったことがあるのですが。

ラスト、車を運転する平山の表情を映す長めのショットで締めくくられます。私は満ち足りた表情だなと感じたのですが。『パリ、テキサス』もラストには車を運転してその場から立ち去るトラヴィスの表情をとらえたショットがあります。その表情と好一対だなと思いました。そういえば『タクシー・ドライバー』でもラストのほうのルームミラーに映るトラヴィスの表情が印象的だったなと。

この映画は海外でも公開される、いや、海外公開がメインでしょうけど、海外の観客は本作をどうご覧になるのかしら。平山の暮らし向きはどう見えるのかなぁ。貧しいものと思うのかな、それとも豊かなものと思うのかな、スラム的なものと思うのかな、遅れた暮らしと思うのかな。どうなんだろう。ほんとあれは「私の暮らし」ともかなり重なりますが。

「この世界は、
ほんとにたくさんの世界がある。
つながっているようにみえても、
つながっていない世界がある。」

これは、映画公式Twitterで紹介されていた劇中の台詞。平山が姪っ子に語る台詞だったかと思います。私の世界観もまさにそうです。人はそれぞれの脳内の世界を生きている、と思ってます。近年はそう思うようになっています。だから、つながってるように見えてもつながってない場合もあると。そう割り切っています。

もう一度書きますが。本作は、初老独身低所得層なあたしとかなり共通点のある人物を主人公に据えている、その部分において「あたしの映画!」だと思いました。彼のように日々さりげない喜びを持ち、パーフェクトなデイズを送れたらいいなと思ってます。でもそれもなかなかうまくいかないです。鬱屈に心を腐らせる時もあります。そしてもしこの国の支配層の誰かが「カネなんてそんなになくてもこういう生き方ができるだろ。そんな暮らしでもいいだろ。そうカネカネいうな」なんて言おうものなら激怒して差し上げます。そういうスタンスかな。

『PERFECT DAYS』、面白かったです。

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