万有公演『八月の紫陽花』と三沢小旅行
7月31日に三沢の寺山修司記念館で行われた演劇実験室◉万有引力さんのエクスペリメンタル叙事詩劇『八月の紫陽花』を観てきました。
東京を離れての万有引力公演はさすがになかなか行けないのですが、なんか気の迷い的に行ってみました。
東北新幹線で八戸まで、青い森鉄道に乗り換えて三沢へ。5年前の三沢での万有引力さんの市街劇では行き帰りは夜行バスだったので、東北新幹線ははじめてです。東海道新幹線は帰省でお馴染みですが。青い森鉄道は寺山修司のドキュメンタリー映画『あしたはどっちだ、寺山修司』の冒頭、森の間を抜けていく青い森鉄道の姿が印象的で、こんかい乗れてうれしかったです。
そして無料の周回バスで寺山修司記念館へ。その5年前の三沢での市街劇では記念館にお伺いする余裕がなかったので、今世紀初頭に行った「三上寛と行くテラヤマバスツアー」以来20年ぶりぐらいになります。
寺山修司記念館では特集展として『寺山修司とラジオドラマ』というのをやっていました。寺山修司初期の仕事になるのかな。スタッフさんによる解説もあったようです。あたしは遊歩道でへばっていたので最後の方しか聞けなかったのですが、寺山修司のラジオドラマについてはまだ全容が分かっていないのではないかというお話でした。来年は没後40年になろうという寺山修司ですが、まだまだわかってない部分も多そうです。
『犬神の女』というラジオドラマの台本が展示されていました。『犬神』の原型になった作品かしら。私は万有引力の舞台で拝見したことがあるのだけど、印象深い作品です。
犬神憑きと後ろ指をさされてきた主人公の少年。それでも彼はお嫁さんを貰って幸せな家庭を築こうとするのですが。ただ、不幸に「居ついて」しまった彼はその幸福への入り口を前にしてパニックを起こし、思わずお嫁さんを殺してしまいます。スキさえあれば「不幸」に居つこうとする私としても、考えさせられる展開だったのですが。
この展開はお芝居のラスト、語りだけで語られます。舞台とかドラマとかだったらクライマックスシーンだろうし、山場として描かれると思うのですが。ナレーションだけでさらっと流されるのが作劇術的に不思議でした。でも、原形がラジオドラマなら、作劇術的にそういう展開も自然なのかなぁと思いました。ビジュアルがない、言葉だけで展開する作品なら。
「『八月の紫陽花』ってどういう含意があるんだろ?」と思っていたのですが、現地についてびっくり、青森って7月の終わりでも紫陽花がきれいに咲いてます。そのまんまでした。
ややあって公演が始まりました。公演は記念館の遊歩道の奥にある寺山の歌碑から始まり、記念館の中に移動していきました。場所を変えながら。
この寺山修司の歌碑、寺山修司記念館と一緒に作られたと思っていましたが、どうやらこの歌碑のほうが記念館に先んじて作られたそうです。館内でこの歌碑建立に関するドキュメンタリーが上映されていました。寺山修司の同級生たちが建立した歌碑だそうです。その人たちは寺山修司を「いじめて」もいたそうですが、その記憶も含めて歌碑を建立したそうです。
私も万が一エラくなって世にその名が広まるようになったら、私をいじめていた同級生たちも私の記念碑を立てるのでしょうか。ふとそう思いました。いやもう記念碑が建てられるほど偉くなる可能性はありませんが。
最後は野外ステージでした。
ショートコーナー集という趣向だったかな。ラストの野外ステージの元ネタは『さらば方舟』(あるいは『百年の孤独』かも)でした。九州弁の私の地元の言葉がちょっと出てきてドキッとしました。ラストはかがり火も炊かれ、その匂いも良かったです。
送迎バスで三沢駅に戻り、そこからタクシーで三沢市街のホテルへ。今回は一泊しました。その送迎バスを使うと東京からなんとか新幹線で日帰りができるようでしたが。
翌日は三沢の青森航空科学館を覗いてみました。初の太平洋横断飛行を成功させたミス・ビードル号という飛行機は三沢から飛び立ったそうです。それで三沢はミス・ビードル号で町おこしを行っているようです。5年前の三沢での市街劇でも街のあちこちにビードル号を模したオブジェが飾られているのを見ました。
また、三沢は日本最北端の「基地の街」でもあります。もちろん寺山修司の母、はつも基地で働いていました。ベトナム戦争カメラマンで高名な沢田教一も基地内の写真屋さんで働いていたんでしたっけか。
寺山修司がいじめられていたというのも修司の母親・はつが基地で働いてアメリカ兵とつきあっていたという事が大きかったと思います。またはつが基地で働いていたからアメリカのハイカラでモダンな品々とも寺山は親しんでいたと。当時は珍しかったコカ・コーラも飲んでいたと。
入館すると三沢が推すミス・ビードル号がお出迎えです。真っ赤な機体です。
天井をレールが走っていました。展示の吊り下げ用かなと思っていましたが、このレールにぶら下がって会場をぐるっと廻るアトラクションがあるみたいです。あと送風で宙に浮かぶアトラクションもあるみたい。轟音がとどろいていました。ちょっとやってみたかったんですが。確実に酔いそうだったので諦めました。
寺山修司と飛行機。今まで読んできた寺山修司の本でミス・ビードル号の事が書かれているものはなかったとは思いますが。飛行機への憧憬、「飛行論」というのはあったと思います。『人力飛行機ソロモン』とかあるし。人力飛行機舎だし、詩でもエッセイでも飛行機に触れたものはたくさんあったと思います。ここ三沢がその原体験だったのでしょうか。
まぁほんとちょっと覗いてみたくらいですが、見て回りました。
もっとじっくりと三沢にも滞在したかったなと思いますが、そのくらいが精一杯かな。
また三沢に来れるといいと思いますが、どうなるかなという感じ。
とまれ『八月の紫陽花』、楽しみました。
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