万有公演『盲人書簡◎少年倶楽部編◎』
下北沢のザ・スズナリで演劇実験室◎万有引力第73回本公演『盲人書簡◎少年倶楽部編◎』を観てきました。
『盲人書簡』は万有引力さんを知るずっと前、寺山修司のエッセイを夢中になって読んでいたころ、そのエッセイで知った演目です。
「暗闇の演劇」という言い方をしてたかな。暗闇で繰り広げられる演劇。観客に3本マッチを配って、気になったところでマッチに火をつけて演劇を観てくださいってのがそもそものコンセプトであったようで。それを「寺山かっちょいい!」と読みながら思ってました。
『盲人書簡』を実見できたのは、十何年か前の法政大学学生会館大ホールでの万有引力公演としてでした。もうあまり憶えてはないのだけど。
法政大学学生会館大ホールは昭和の学生運動の残り香がある、不思議な場所でした。他にもライブとか行ったことがあります。もう取り壊されてしまったようだけど。
ちなみに法政大学学生会館大ホールのこけら落とし公演も天井棧敷の『盲人書簡』だったそうです。
それから2017年に月蝕歌劇団の公演で『盲人書簡 上海篇』というのを観ました。『15歳◎天井棧敷物語』をお書きになった高橋咲さんがご出演というので。高橋咲さんは明智小五郎役だったかな。かっちょよかったです。
さすがに観客にマッチ3本渡してってのは実装的に無理があったんでしょうが。「暗闇の演劇」であったと思います。万有引力さんの完全暗転をはじめとする暗闇の演出はすごくて、いつでも「暗闇の演劇」は意識させられていますけれど。
いや、閑話休題。
下北沢のザ・スズナリ。小劇場ファンなら必須科目的な劇場みたいですが。初めて行ったのが4年前の万有引力公演がきっかけですし、疎いです。
こんかいも座席指定制で開場時間に普通のお芝居みたいに入場。
舞台装置は跨げる高さの段差のある舞台。この段差があるってのに完全暗転ってのはなんかちょっと信じられないんだけど。下手には階段で上がる小高い台。その下がスペースにあって、出入りがありました。
今までのスズナリ公演からしてもシンプルだと感じました。そぎ落としていけてるって感じ。
あとやっぱり照明が面白いです。ここんとこの万有公演って、奥方向に照明で層をなしてるって印象を受けます。こちらの老眼が進行してるせいもあるんだろうけど、なんか紗幕で隔ててない?って感じてしまうんだけど。ほんと照明の完成度の高さがすごいです。
寺山修司の演劇はディテールの違いで『~篇』ってなるみたいだけど、今回のおはなし自体は月蝕の『盲人書簡 上海篇』に近いような気がします。月蝕の方もはっきりとは憶えてないけど。
少年探偵団のめしいとなった小林少年と明智小五郎、清の皇帝(だったかな?)の子息の少年とその教育係(?)、黒蜥蜴。時代は戦前、いや、「戦前」ではなく、太平洋戦争は始まってないけど、日中戦争は始まっていて、大陸での抗日運動最盛期の上海。小林少年と明智小五郎、そして子息の少年と教育係のお話がメインに、交互に進行していき、まじりあい。(これは前に書いた月蝕歌劇団の『盲人書簡 上海篇』のブログ記事のセルフコピペ)
ただ、寺山演劇ですから、その演劇は「ストーリー」を語るものではなく、むしろ「イメージ」を見せてくれるものだと思います。普通の演劇を「小説」としたらこちらは「詩」ではないかと思ってるのですが。
その「イメージ」に酔わされました。俳優の『存在感』、せりふ回し、舞台美術、音響、照明etc..それがトータルなバランスとして仕上がってると思いました。演劇が「ストーリー」なら、突出して上手い主演格の役者さんがいればなんとかなるかもしれませんが(失礼!)、こういうトータルで「世界」を構築するスタイルの演劇だと、全体としてのバランスとハーモニーが大切なのかなと思います(演劇なんて全然わかってないのに失礼!)
それがとてもレベル高くまとまっていたと思います。
「暗闇の演劇」としては、法政大学での盲人書簡とか、世田谷パブリックシアターでの万有公演『観客席』みたく、暗闇で俳優さんたちがどっどどっと動いている、その気配がしなかったのがちょっと残念でしたが。舞台客席を問わず暗闇のあちこちから声が聞こえるとか、足音が轟いてくるとか。
ここらへんはザ・スズナリは動ける通路が少ないでしょうし、まず新型コロナ対策で舞台と客席が混然一体となった演出も難しいでしょうし、仕方ない部分があるとは思います。
「マッチ擦る」シーンも多くて、あのマッチの匂い、好きです。喫煙者だったし、マッチは好きです。「匂い」の演出もいいなぁって思います。以前の万有引力公演で、目の前で髪を振り立てた女性の俳優さんからシャンプーの匂いが漂ってきたとき、けっこうどぎまぎしましたしね(笑)
寺山演劇の中国趣味も面白いところです。いくつかの演劇に見られる中国趣味はどこから来たのかなと。あのころは日中国交正常化で中国ブームでしたが。私もあのころ盛んにあった「中国展」に父親に連れられて行った思い出があります。早い話が中国物産の即売とプロパガンダ映画の上映なんかのイベントだったのですが。ま、あのころはやっと世界に向かって成長を始められた中国であったかと。そして知らないうちにこの国は中国に追い越されてしまいましたな。
そいや寺山の書いた文章で「父は中国戦線で戦死した」(本当は南方ですが)と「過去の作り替え」を行ったのを読んだこともあります。
今回の万有公演も楽しみました。
次回の万有公演は公園で配られたリーフレットによると
7月31日の三沢の寺山修司記念館での『風見鶏を撃て!』(仮)(行きたいなぁ、行けたらいいな…)
11月30日~12月2日、座・高円寺2での『テアトリアン・ナイト』(コンサートかな?)
2023年2月3日~12日の座・高円寺1での第74回本公演『草迷宮』
みたいです。観に行けたらいいと思ってます。
来年は寺山修司没後40年ですし、いろいろイベントあるといいなぁ。
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