イメージフォーラム映像研究所第45期(2021年度)卒業制作展
渋谷のイメージフォーラムで『イメージフォーラム映像研究所第45期(2021年度)卒業制作展』を見てきました。
今回はA~Eの5プログラム20作品あって、今年はぜんぶ拝見できました。今はちょっと調子がいいので簡単に感想を書いてみます。
ただ、私は実験映画について何かが書けるほど詳しいものではありません。映像作品の実作者でもありません。
ピント外れのことを書いていると思います。ご寛恕を。
では、行きます。
Eプログラム
「列車の到着を待ちながら」(白水 浩 / 5分 / 2022年〈専科〉)
映画創成期の(「最初の映画」ではない?)作品、『ラ・シオタ駅への列車の到着』を元ネタにした作品。
この『列車の到着』を元ネタにした映像作品はいくつか見たことがありますが、別の切り口による作品。
映画創成期の人々が早死にしたり、不遇な目に遭ったことをテロップで語っています。
『人』という生き物は時間と空間に閉じ込められた存在。それを乗り越えるために人は悪戦苦闘することもあって。
時間と空間を乗り越えるための「映画」という作品形式。神はその行為を罰するために映画創成期の人々を苦しめたのかもしれませんね。
それは「神」に近づこうとする人間の不遜な業でしょうから。
「ラ・サンカンテーヌ」(ヒラタ アツコ / 5分 / 2022年〈専科〉)
ほんとに素敵な切り絵アニメーション(かな?)
魚が一匹入ってる金魚鉢が頭の旦那さん。鳥が一羽入ってる鳥かごが頭の奥さん。
その夫婦のちょっと辛口なお話。
奥さんが料理するお魚の切り身が青と黄色のウクライナカラーだったのは偶然かしら?
「心室」(夜ルハ / 7分 / 2022年〈専科〉)
作者名は『ニーア・オートマタ』かしら?私はそのゲームを途中でついていけなくなって放り出してしまったのだけど(いちばんかんたんなモードでも)。
セクシャリティ、かしら。バービー人形で遊ぶ女の子が実は…、って展開。
「らっかさく」(羅 佳麗 / 6分 / 2022年〈専科〉)
ガーリーでポップでステキなドローイングアニメーションです。
最初の方のうねうねとメタモルフォーゼしていく風景がサイケデリックを感じさせて、オールドタイマーとしてもいいなって思いました。
「6:13AM」 (山下 つぼみ / 18分 / 2022年〈専科〉)
海沿いの町の川沿いの風景の6:13AMの「定点観測」。冬至前後。夜明け時間がずれていくのが面白くって、「これで1年やってくれないかな」と思ったりしたのですが…。
そういう撮影ですから、その時刻にいつも通りかかる犬の散歩をしている人やラジオ体操に向かう人たちと顔見知りになります。んで、そのラジオ体操の人たちと一緒に砂浜のその会場に向かいます。
私だったらその「定点観測」のアイディアに固執して、そういう方向にはいかないと思いますが。でも面白いことが起きればそっちに向かっていく、そのしなやかな制作態度がいいなって思いました。
Dプログラム
「Indelible memories」(木口 英 / 30分 / 2022年〈映像〉〉)
直接的か、間接的か、「性」にまつわるイメージで構成された作品。
「性」を感じさせるものが多岐にわたるのも面白いです。
逆に、まさに「性」な物を「性」を感じさせないように撮る方法はないかとちょっと思ったり。
「Four Sites」(山崎 春蘭 / 20分 / 2022年〈映像〉)
4つの「貝塚」をモチーフにした作品。
「博物館」として展示されている貝塚。
子供たちの遊ぶ団地の?公園となっている貝塚。
貝塚を壊さないように下にトンネルを掘って道路を作った貝塚。
そして、ひと気のない広場となっている貝塚。
貝塚はたぶん日本最古の「遺跡」のかたちだと思うのですが。
「Lock Up and Down」(Minami / 35分 / 2022年〈映像〉)
ベトナムのハノイに撮影に行った作者さんとパートナー?さん。
しかし、おりしもハノイは新型コロナでロックダウンされ、高層マンションの一室に閉じ込められ。
その、ふたりの生活のスケッチと、高層マンションから見下ろした街の風景と人の姿が描かれます。
ハノイは高層ビルと(たぶん)フランス植民地時代の風情を残すような建物、ぼろぼろの廃墟寸前な建物がともにあって、窓から見下ろす風景はなかなかにサイバーパンクみがあって面白いです。
Aプログラム
「Dream birds」 (Tomoaki Tanise / 8分 / 2022年〈映像〉)
鳥の飛び交う動画等を様々に加工し、スタイリッシュに「構成」した一編でした。
どういうソフトを使ってるのかしら。今の動画編集ソフトはどのくらいまでいけるのかな。
「さぐる」(大野 心平 / 2分 / 2022年〈アニメ〉)
束ねたつまようじを使ったアブストラクトなストップモーションアニメです。
ほんと、モチーフってのは身近に存在しているものです。
「I'm still on the bank without you」(本杉 愛理 / 15分 / 2022年〈映像〉)
"bank"ってのは川の堤の事かしら。建物に堤を歩く人の影が映っているのが面白かったです。影の映画。
「遡上する記憶」(星野 堂夫 / 48分 / 2022年〈映像〉)
作者さんは戦場取材なども行うテレビディレクターさんだったそうで、今は体を壊して現場を離れているようです。
お歳は60歳前後と思うのですが、97歳の父親と85歳の母親のご両親が健在で、おふたりをモチーフにして作られたセルフ・ドキュメンタリー作品。なんか「人生100年時代ならではの作品」だなぁって気がします。
「セルフ・ドキュメンタリー」系の作品もイメフォの卒展でよく拝見してきました。『私が選んだ父』『男のサービスエリア』『中村三郎上等兵』等。ここ二三年はセルフ・ドキュメンタリー系の作品はあまり見かけなかったのでちょっとさみしかったのですが。
かくいう私は本作の作者さんみたいに自分の両親と向き合うことはしてこなかったです。逆に逃げていたなと。逃げて東京にやってきたなと、そう思います。作品を拝見しながらそう思いました。
母親は哈爾濱(ハルピン)にいらしたそうで、母親のその哈爾濱時代の小学校の同窓会のシーンで俳優の宝田明の話題が出てました。宝田明はその小学校の先輩筋になるという事で。先日宝田明は急逝されましたが、そのシーンはまったくの偶然で入っていたそうです。
本作も『6:13AM』と同じく、作っているうちに最初の構想とは離れていったそうです。ここんとこ、Twitterなんかでよく見かけるのですが。近年のワイドショー番組なんかには最初からディレクターさんが考えた「結論」があって、それに沿ったコメントしか求めてこなくて困っているという話がちょくちょく流れてきてました。自分の作りたいものに「素材」の方を合わせるという強引な作り方が主流なのかなと。
それでテレビというメディアは劣化しているのかなぁと思っていたのですが。そうではなくて、「現場」を取材しながら番組の方向性を決めるって手法もまだ残ってるのかなと思いました。いやもうそんな自由な番組作りをやる余裕は今のテレビ局の苦しい台所事情では難しいとは理解してるのですが。
Bプログラム
「Action5」(セキヤ サトシ / 3分 / 2022年〈アニメ〉)
黒地に白のシンプルな線画アニメ。そのシンプルを突き詰めていく方向性が素敵でした。
「reflect」(渡部 優香 / 5分 / 2022年〈映像〉)
内的独白とイメージ映像を組み合わせた、映像作品のティピカルな手法を見せてくれる作品でした。
「西貴大 36歳」(西 貴大 / 15分 / 2022年〈映像〉)
正直いって「貴方は俺か?」な作品でした。
ただ作者さんは映画監督志望だったようですが、私には昔から特になにになりたいという願いはなかったですが。
漠然と「『トクベツ』な人間になりたい」程度の思いしか持っていませんでしたが。
あげくの果てににっちもさっちもいかなくなってる今日この頃ですが。
こういう自意識の持ちようと、それにあがく姿を自虐的に描いた作品も卒展でよく見かけます。
「水郷地帯」(高橋 伸治 / 52分 / 2022年〈映像〉)
雨の交差点。その交差点に面しているらしいアパートの一室。木工所、下水処理場、牛舎をモチーフにした作品。
カメラはフィクスト、音楽なし、ナレーションなし、音は環境音だけ。このミニマルな映像はなぜか不思議な緊張感をはらみます。
商業映画でいうと(それほど商業ではないけど)、だいぶ前にイメージフォーラムで見た『いのちの食べ方』がそういう手法だったかな。
まったくの「演出」をそぎ落としているのに、それがとても「演出」を感じさせます。
Cプログラム
「UNDER PASS TOKYO」(NAOFUMI / 12分 / 2022年〈映像〉)
東京駅の周辺、ある地点からある地点への移動を地上で行く映像と地下街経由で行く映像を上下にして同時に流すって趣向の作品です。
地下ルートだとお店がたくさんあるのが印象的でした。それが地下街のメリットだなと改めて分かりました。
目的地着をなるべく同時にしようとしていましたが、ピッタリは難しいのかしら。
今の動画編集ソフトって、尺にぴったり合わせて動画を早くしたり遅くしたり調整する機能はないのかなとちょっと思ったり。
「Working Holiday」(王 藝珍 / 18分 / 2022年〈映像〉)
日本に働きに来た作者さんが日本で感じたことの想いを描いたエッセイ作品、かな。
背広にこだわる部分は私も経験があってアタタと思いました。人身事故を「迷惑だ」という人。それは「この時代」に疎外された彼らの最後の命を懸けた抗議なんだと私も思います。この社会に疎外されてるのは腹を立ててるあなたもなんだろと思います。
台湾から働きに来て、ビザの件でやんわりと勤め先から圧力をかけられる。日本人も大事にしない日本の会社、外国人ならさらに大事にしない、自分の利益しか考えない。それは巡り巡って会社の損にもなるのに。低賃金で余暇も十分にない重労働、不安定な雇用、それで物が売れるわけないじゃん、会社が儲かるわけないじゃん、自分で自分喰ってるだけじゃん、と思うのだけど。
「白に赤」(森 友希 / 12分 / 2022年〈映像〉)
メンストレーションをモチーフにした作品。女性自身にとってメンストレーションとはなにかは正直いってあまりよく理解できてないと思うのだけど。
キラキラと輝く陽光が印象的でした。大昔だけど、イメージフォーラムで真冬に見た実験映画にキラキラした真夏の陽光が映っていて、「あ、こういう季節もあるんだな」ってはっとさせられた経験があります。もう何十回と夏は迎えていたはずなのにね。
冒頭のアブストラクトな映像。実験映画がフィルムだった時代、フィルムを様々に加工してそういう映像を作っていたものだけど、デジタルビデオの時代ではどう作るのかなぁってちょっと思いました。
「3級」(古谷 経衡 / 43分 / 2022年〈映像〉)
作者の古谷経衡さん、どこかで聞いたお名前だと思いましたが、上映後検索してみて分かりました。ツイッターで直にフォローはしてないけど、フォロワーさんのリツィートでたまに発言がタイムラインを流れている方でした。そういうご縁なのかと。
作者の古谷経衡さんは精神障害者保健福祉手帳の3級をお持ちで、それがタイトルになっています。パニック障害が主訴だそうです。その自身の障碍者手帳3級のパニック障害をモチーフにした映像エッセイという趣向でした。
前半はご自身の来し方とパニック障害に関する簡単な解説、服用している薬の説明、そして主治医で日本におけるパニック障害薬物療法の草分けのお医者さんへのインタビューなど。
実はかなり前ですが、私もちょっとだけ精神科にかかったことがあります。ただ、カウンセリングはあまりせずに、ただ薬を処方してくれるだけのような気がして、嫌気がさして、数回の通院でやめてしまったのですが。でも今は心の病は薬物療法がいい治療法で、カウンセリングは特に必要ないってことなんだろうなってのは理解しています。
また通院した方がいいような気もするし、ま、もういいやって気もします。セルフネグレクトかもしれませんが。
後半は同じく3級の障害者手帳持ちの女性へのインタビューなのですが。なんか普通に一緒に遊んでる感じになって、そして妙な方向に転がっていって。(いや、逆に起こりがちなのかな…?)
*****
という方向で感想おしまいです。
なにかのお役に立てればうれしいです。
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コメント
「Working Holiday」について、作者は"中国から働きに来て"ではなく、台湾からです~
投稿: ワン | 2022/03/20 22:20
>ワン様
了解です。「台湾」表記に修正しました。
投稿: BUFF【Blog主】 | 2022/03/21 07:07