« 村井理子『兄の終い』 | トップページ | トランセンドさんのPC3200メモリ »

2020/07/27

万有引力公演『疱瘡譚』&『眼球譚』

昨日の日曜日は演劇実験室◎万有引力さんの公演『疱瘡譚または伝染する劇』と『眼球譚または迷宮する劇』のダブルヘッダー公演を下北沢のザ・スズナリで拝見してきました。COVID-19の状況下、万有引力さんは3月に予定していた公演『プロメテウス』を中止、今回のザ・スズナリ公演も予定していた『草迷宮』から急遽作品を差し替え、感染対策に配慮したスタイルでこのダブルヘッダー公演を行うといいうかたちになりました。

最後に万有引力公演を拝見したのは去年・19年4月に同じくザ・スズナリであった『チェンチ一族』以来で1年以上ぶりです(7月の奴婢訓は見られなかったです)。待ちわびてました。
ただやっぱりCOVID-19の状況下、どこかおっかなびっくりな気持ちもあって、どうしようかなと悩まなかったといえばウソになりますが。

さて、下北沢へ。本来ならオリンピック連休になってた連休の最終日。下北沢に着いてびっくり、駅舎がリニューアルしてます。それで一瞬混乱しましたが、まぁ迷わずには済んでザ・スズナリへ。

まずは『疱瘡譚』から。

今回、客入れ時に検温と手指の消毒がありました。客席も間隔を開けるなどして対策してました。30席。ザ・スズナリの本来のキャパはその数倍はあると思います。スカスカ。まぁデブ的にはゆったりしてる方がありがたいのですが。でもこんだけしかお客さん入れられないというのは色々大変なんだなと、とても心配にもなってきます。

舞台の前には紗幕が張られ、手前左右に木箱。舞台奥に階段。やっぱりいろいろ大変なのか、大道具もシンプルでした。
もちろんもう舞台上に俳優さんたちがいらっしゃってうごめいてます。「携帯電話の電源を切ってください」等の注意書きが卒塔婆みたいな細長い板切れに書かれて掲げていらっしゃいました。

ややあって開演。

(以下ネタバレゾーンにつき)

今回の『疱瘡譚』は『眼球譚』でのJ・A・シーザーさんの解題によると寺山修司の『疫病流行記』とアルトーの『演劇とペスト』が元になってるそうです。アルトーはよく知らないのですが、去年、COVID-19禍の前の19年4月の万有公演『チェンチ一族』がそのアルトーの『残酷演劇』というコンセプトを基にした作品だそうで、そういう意味でこのCOVID-19の状況下にリンクしているのに驚きました。

冒頭、ひとりの少女が登場します。黒い長そでのワンピース、梶芽衣子みたいなツバの大きな黒い帽子。そしてトランクを提げています。なんとなく10年前の万有公演『くるみわり人形』の黒いドレス姿でトランクを提げた少女を思い出します。くるみわり~では森ようこさんだったかしら、今回はどなたかしら。彼女は疫病流行記の「わたしはあなたの病気です」の少女だったかな。

今回、感染防止のために舞台手前の紗幕で舞台と客席を仕切るのかしらと思ってましたが、その紗幕は場面場面では移動します。ご出演の皆さんはマスクを着けてます。まぁ、普通のマスクじゃなくて、万有さんっぽくアレンジしたものも多いのですが。万有さんっぽい雰囲気ににマスクも合うと思うから、それについては利点なのかな。

マッチを擦ったり線香花火を使うシーンがありました。火薬の匂いが漂ってきました。以前読んだダニエル・デフォーの『ペスト』(『疫病流行記』)によるとペスト流行の折、消毒のために家屋を火薬で燻すこともあったそうで、それを思い出しました。

寺山の『疫病流行記』は月蝕歌劇団さんのを見ていますが。キャバレーの話が出てくるのが共通してるかしら。左前になっていってるキャバレーのエピソード。
あと、四角い箱に入った人たちが出てくるシーンもあります。1メートル四方くらいかなと思ってハタと膝を叩きました。これは寺山の『1メートル四方1時間国家』なのかなと。これはもう天井棧敷に在籍してらした昭和精吾さんの語りで脳内再生されるのだけど。あと2009年の松山での市街劇『人力飛行機ソロモン・松山篇』の演目の一つでもあったかな。そか、1メートル四方1時間国家を形にするとそうなるんだって気がつきました。

「悶えるテープレコーダー」ネタの進化系がありました。テープレコーダーとの掛け合いなんですが。以前はオープンリールのテープレコーダーだったんですが、今回はかなりコンパクト。まぁ今の若い衆はオープンリールのテープレコーダーなんて知らないと思うし。カセットテープレコーダーがギリギリかしら。そういう、「時代が変わった」と改めて認めないといけないんだなと。このCOVID-19状況下で時代は変わったと認識しなきゃいけないんだなと思いました。このネタもこれからの公演で進化していくのでしょうか。

その紗幕に文字を投影してました。ただそれに関しては老眼が進んでいて、あまり読めなくなってるのには嘆息するしかないのですが。
「老いる」ってそういうことなんだなと。

トータルとしての尺は1時間強でした。

そして『眼球譚』。万有引力さんのサイトには「終わってしまった公演の『予告篇』」と書かれていましたので、過去公演の名場面集かなと思いました。そいういう形式の公演は例えば2013年の万有引力旗揚げ30周年記念公演『SUNA』に挟まれた『羅針盤式気球船』や『架空庭園の犯罪』みたいな感じになるのかと。

今回驚いたことに『眼球譚』は全8公演、すべて内容が違うそうです。そして私が拝見したこの3回目の公演はコンサート映像を中心にというお話でした。ガイド役は万有引力の髙田恵篤さんかしら。ご出演も演出もこなしていらっしゃる方。

冒頭が2012年に新宿FACEであったJ・A・シーザーコンサート『山に上りて告げよ』の映像。シーザーさんのコンサートは30年ぶりくらいだったそうです。そして2011年の万有引力公演『夢(ポトス)の国のシンクウカン』の映像。この『シンクウカン』の音楽が生バンドの生演奏で、それが上手くいったので久しぶりにシーザーさんのコンサートになったとか。私のこのブログの『シンクウカン』の感想にも音楽がバンド演奏だったのが印象的だったと書いてました。

映像は舞台前に張られた紗幕に投影するかたち。そしてその紗幕の奥で男優さん女優さんが踊るときもありました。
いくつかは自分の見たことのある公演もあって。改めてこんなゴーカな公演を拝見してたんだなぁと思いました。

そしてゲストとしてシーザーさんのバンドの皆さん、そしてあとからシーザーさんご自身もご登場。嬉しかったです。

私はこのCOVID-19状況を、いつか終わって、また昔のように普通にお芝居を楽しめる日が来るってなんとなく思っていますが、シーザーさんはこの状況は続く、がらっと変わってしまう、それに対応していかないとという認識でいらっしゃるようです。そういう認識の方が劇団主催者としても「ただしい」と思います。甘えた楽観論は状況を悪化させるしかないのかも。そして、これからの公演の形は、今までいろいろと試みられてきた実験演劇のスタイルが役に立つのではと。寺山修司も新しい演劇のスタイルをさまざまにやっていました。だから今回、今後の、万有引力公演もその知見を活かすのではないかと思っています。

でもやっぱりこういう状況ってのはほんと溜息が出ます。

ラストがコンサートの映像から『山に上りて告げよ』。「地には今、病」まさに今回の公演にぴったりのナンバーです。
そしてそのあと今年3月から来年1月に延期になった公演『プロメテウス』のPV。ほんと、見られたら嬉しいです。そしてまたしばらくは万有公演がないというのもちょいとさみしいなと思いました。

今回の万有引力公演も楽しみましたが。しかしふと気がつくといつも公演であった座席に置かれた他の劇団さんの公演チラシの分厚い束とリーフレットもありません。演劇を巡る状況もほんとうに厳しいのだなと思いました。

また以前のようにお芝居を見られる日々が戻ることを願っています。

 

| |

« 村井理子『兄の終い』 | トップページ | トランセンドさんのPC3200メモリ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 村井理子『兄の終い』 | トップページ | トランセンドさんのPC3200メモリ »