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2019/11/18

寺山修司 贋絵葉書展

東神田のkanzan galleryさんで田中未知さんプロデュースの『寺山修司 贋絵葉書展』を見てきました。
田中未知さんは寺山修司の秘書でいらした方、近年寺山修司のお仕事をいろいろ発掘してきて、書籍や展覧会で見せて下さってる方です。
今回は寺山修司の拵えた「贋絵葉書」を中心とした展覧会でした。

私の拝読してきた寺山修司の書物だと、「贋絵葉書」の話は角川文庫の『さかさま博物誌 青蛾館』に一項設けられてます。

「アムステルダムの港町の小さな古道具屋では、いろんなゲテモノが売っている。
剥製の犬や刺青した船乗りの皮膚を額におさめたもの、死んだ家族の写真や使えなくなったドアの把手、そして壜詰の鴎まである。
しかし、なかで私の好きなのは古い絵葉書である。」

まさに、痺れるような「寺山節」で始まる一節。

「ところで、こうした絵葉書にも贋物(実在の人物から実在の人物に宛てて出されたものではないもの)がずい分あるときいて、私は興味を抱いた。過去の作りかえ、記憶の修正といったことは、少しばかりの後ろめたさを伴った愉しみだからである。
そこで、私もまた贋の絵葉書作りあそびをしてみようという気になった。
取り掛かったのが七七年の二月、はじめに白黒写真を数十枚撮り、脱色してから人工着色した。」

と、贋絵葉書作りを始めた年月にも言及されています。(以上角川文庫Kindle版『さかさま博物誌 青蛾館』より)

この寺山修司の贋絵葉書も今まで拝見してきた寺山修司展でぽつぽつと見る機会はありました。しかし今回は寺山修司の秘書でいらした、昨年は横浜での寺山修司展にも関わっていらした田中未知さんのプロデュースで贋絵葉書の特集展という事で、期待は膨らみます。

kanzan galleryさんはビルの2階にある小体なギャラリーでした。
ただ作品を展示するだけでなく、レイアウトにも工夫されていて、きれいでした。

まず、入り口から。たぶんこの『青蛾館』からだと思いますが、寺山修司が贋絵葉書を作るようになったきっかけの話があって。
入り口にはガラスケースに寺山の?立体コラージュの作品があって。また、贋絵葉書の作り方の構想ノートも展示されていました。
こういう物まで展示されていて、驚きです。

贋絵葉書。構成要素は絵葉書、それに書かれた肉筆の文章、そして切手とスタンプといった所でしょうか。絵葉書も同じ写真の色味違いがいろいろあって、工夫のあとが偲ばれます。文章も。切手もきれいなのが貼ってあって。その三位一体がよい作品になってました。

「女力士」がモチーフの絵葉書もありました。これは寺山修司の映画『草迷宮』に出てたと思います。『草迷宮』の(海外での)公開は78年みたいですから、この贋絵葉書が作られ始めた77年に重なるかなと。
あと、寺山率いる演劇実験室◎天井棧敷の『奴婢訓』に出てくる「快楽機械」をモチーフに使ったのも。武蔵野美術大学にいらした小竹先生のおつくりになったものかと思うのですが。これも『奴婢訓』の初演が78年だそうですから、ちょうどそのタイミングの物であったかと。
そう考えると『青蛾館』に贋絵葉書作りを始めた年月が明記されてるのもそういう理由だったのかなぁと思いました。あのころの寺山修司の活動の最先端であったものたちを紹介した作品群なのかなと。

贋絵葉書以外の写真とかのコーナーもありました。寺山修司と母親・はつさん、父親・八郎さんの家族写真も。
いったん破られて縫い直された写真も。BGMは波の音。

それから田中未知さんの回想として寺山修司が贋絵葉書を作りきっかけとなったエピソードも。70年代の初め、田中未知さんが古本市で見つけた、海外の旦那さんから日本の奥さんに宛てて出されたひと束の絵葉書を田中未知さんが購入して寺山修司に見せたのがきっかけだったそうです。

この、寺山の過去を虚構化し、改変しようとするこころみ。それはとても好きだし、「寺山修司、かっちょいいな」と思っていたのですが。
ただ、近年になって、この「過去の作りかえ」は人の心の普通の機能だと思うようになってきました。
そして、残念ながら、今のこの国のトップの人々は「過去の作りかえ」に、意識的にしろ、無意識的にしろ、突き進んでいると見受けられます。「歴史修正主義」とか。すぐに「記録は破棄した」とうそぶくところとか。それはとてもよろしくないことと思っているのですが。

泉下の寺山修司はこの今日の日本の状況をどうご覧になってるのかなって、今は時々考えます。苦笑されているのかしら?どうなのかなぁ。

kanzan galleryさんの奥には小部屋があって、ギャラリーさんのコレクションなのかな?ピカソの陶器が展示されていました。お皿とか壷など。
顔をモチーフにした品物でした。それもきれいです。

という事で、贋絵葉書展、楽しみました。贋絵葉書展は2019年12月25日まで。これからも展示内容が増えたりするそうなので、また見に行ってもいいかなと思いました。画集にまとめられても面白いと思うのですが。どうかしら?

私は、若くして死んだ詩人のことばを思い出していた。
『実際に起こらなかったことも、歴史のうちである』と。
(『さかさま博物誌 青蛾館』より「贋絵葉書」の項)

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