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2019/05/13

『格差と民主主義』

『格差と民主主義』(ロバート・B・ライシュ:著 雨宮 寛&今井章子:訳 東洋経済新聞社:刊)
読了。今日の格差の拡大と固定化について、主に米国の例を挙げて論じた本ですが、日本にも当てはまると思います。読了。

数年前、『泰平ヨンの航星日記』というSFを読みました。SF版『ガリバー旅行記』とか『ほら男爵の冒険』といった感じのお話です。その小説にとても示唆的なある星の話がありました。
機械化が進み、その星の資本家たちは利益を増やすために労働者を解雇する。職を失った労働者は貧しくなって、資本家が作る商品が売れなくなる。商品が売れなくなった資本家は、利益を確保するためにさらに労働者を解雇する。さらに貧しくなった労働者はさらに資本家の作る商品を買えなくなる。このスパイラルで資本家も労働者もともに堕ちていくというエピソードでした。それを読んで私は思いました。「あ、これ、今の日本じゃん」って。

それで、こういうメカニズムをもっと詳細に解説した本が読みたいなぁと思っていたのですが。
ネットを巡っているうちに本書の存在を知り、買ってみました。
なので、簡単に感想など。

本書の章立てはこうなってます。

謝辞
はじめに

PART1 不公正なゲーム
試される自由企業体制
ゆらぐアメリカン・ドリーム
リスクと無縁な超富裕層
失敗しても減らないCEOの報酬
まじめにやっても報われない国民

政府の大きさは本当の問題ではな-問題は誰のために存在するかだ
ロビイストが政治をゆがめている
大企業を優遇する規制当局
カネに支配されていく政府

巨額の資金が乗っ取る民主主義
裏金の温床「スーパーPAC」
富の集中が民主主義を脅かす

超富裕層の大転換
富裕層への減税、中低所得層への増税
巨額の貯蓄の行方

公共財の劣化
損なわれる「機会の平等」
放置される貧困層の子供たち
公教育の崩壊
「あきらめ」に支配される米国

前提条件の崩壊
無視された大恐慌の教訓
問題はグローバル化ではない

何を間違えたのか
失われる中間層
政府はどのように失敗したのか
大不況の真の原因は政治にある

なぜ大企業に頼れないのか
国営資本主義という中国の戦略
国家戦略を妨げる米国企業
戦略を持てない米国政府

ウォール街が握る政治的影響力
制御不能なウォール街のやり口
繰り返される失敗
規制を骨抜きにする手口
失われる経済システムへの信頼

結局、誰のための経済なのか

PART2 逆進主義的右派の勃興
社会ダーウィン主義の再来
逆進主義者は何を考えているのか
社会ダーウィン主義の復活
社会ダーウィン主義の否定
逆進する共和党
司法に忍び寄る逆進主義
進化しない逆進派

「目的のためには手段を選ばず」戦略
豹変した共和党
「政府は悪だ」という洗脳

道徳観の逆転
問題は寝室(ベッドルーム)でえはなく役員会(ボードルーム)だ
自由と絆が脅かされる

逆進主義の戦略-分断と制圧
戦略①「ゼロサムゲーム」という幻想
戦略②公務員を悪者にする
戦略③最高裁を制圧せよ

経済をめぐる一〇の嘘

PART3 怒りを乗り越えて-私たちがしなければならないこと
行動を起こすには
リーダーシップの基本原則
居心地のいい世界から抜け出せ
現実世界で組織を作る
あらゆる問題に目配りする
継続することの大切さ
民主主義とは投票だけではない

進歩派の支持を獲得し、維持するための申し入れ書(サンプル)
企業の忠誠についての誓い
積極的な市民権の行使
基本的な選択に関する最終的なメモ-逆進か全身か、社会ダーウィン主義か公共の利益か

訳者あとがき
著者・訳者紹介

以上のようになってます。

本書は平易にするためでしょうか、最初の「はじめに」で現代アメリカの現状分析が示されます。

  1. この30年間、経済成長による利益のほぼすべてがトップ層にわたっている
  2. 大不況の後にやってきたのは、活力に欠けた景気回復だった
  3. 政治権力が上へ上へと移行している
  4. 企業や超富裕層は、税金をより少ししか払わず、より手厚い企業助成措置を受けるようになり、公的規制からもどんどん逃れていく
  5. 政府予算が圧縮されている
  6. 小さくなっていくパイの分け前を求めて、平均的アメリカ人が互いに競争している
  7. けちけちして、ひねくれた政治が横行する

これから続く各章で、その具体的原因と動きが語られています。

ま、煎じ詰めれば理屈は簡単なんでしょう。富裕層はさらに富裕になるため、なおかつ自らの立場を脅かす者が現れないように、その財力をもって、ありとあらゆる手段を弄し、この「資本主義」のルールを自分たちに有利なように作り変えている。
早い話が、ただそれだけのことなのでしょう。しかしおかげさまでこの安定した社会、「ガラガラポン」で立場が入れ替わることもないこの世の中で、そういう行為を連綿と続ければ、富裕層はさらに富裕になり、その反動で貧困層はさらに貧困になり、格差は拡大し、固定化される。

ほんと、ただそれだけのことなのではと。

ただひとつ気をつけないといけないのが、私見ですが、「富裕層は邪悪であり、貧困層は正義である」という考え方かと。富裕層も貧困層もそのほとんどが自分たちの利益が最大化するように振舞っている。ま、基本的に私利私欲で動く。ただ富裕層はその力が強大なだけ。そう見る事が大切なのかなと思います。ほんと私見ですが。

中間層の没落、小さくなっていくパイの争奪戦。その渦中にある人々の怒り。それは「分断と統治」というドクトリンの原動力になってると。公的福祉を受ける者への憎悪を煽ること。医療補助や生活保護を受ける人たちへの憎悪を煽ること。「あいつらのために私の納めた税金が浪費されている」と怒りを募らせること。その一方で富裕層はぬくぬくと低税率の恩恵を受けてる。所得の累進化税率も引き下げられ、富裕層の収入源の大部を占める投資の収入への課税も低い。
一般民衆が政治に影響力を及ぼせる、唯一の手段、「投票」もその憎悪を煽るポピュリズムによってむしろ自分たち非富裕層じゃなくて、富裕層に有利な政治を行う政治家を選んでしまう。

そうそう、私もずいぶんと収入が減って、「なんでかな?」とずっと思っていたのですが。この「中間層の没落」のコンテクストにまさにはまり込んでるんだってやっと分かりました。まだ失業するほどではないですが。こういうメカニズムがはたらいているのだなと。

はっとさせられる指摘がありました。

米国の大企業はグローバル化していて、別に米国で雇用を生み出そうとはしない。コストパフォーマンスのいちばんイイ国の人を雇うようになる。しかし、中国の「国営」資本主義は(しょせんは為政者が私服を肥やすためにせよ)、中国国内で良質の雇用を生み出そうとするバイアスがあると。
米国から生まれた企業でも、そうやって人件費のコストパフォーマンスがいい国に行ってそこで人を雇用する。下手したら本社はタックス・ヘイブンに置いて米国の課税を逃れようとする。そうか、そうだなぁって思いました。そこら辺が中国式資本主義の強みかもしれません。

そして社会ダーウィン主義。これははっきり言えば、「弱者は死ね」って事なんだけど。飾ってる言葉を取り払うとそうなると思うのだけど。SNSあたりではそういう物言いをする人も多いし、そういう主張をする政治家(志望者)もぽつりぽつりと見受けられます。じゃああんたら、そういうんだったらきっちり「弱者」を集めて殺せよ。お前の手を汚してみろよ。それができるの?って言いたいですけど。ま、実際歴史にはそういうエピソードがたくさんありますし、そういう時代になっちゃうかもしれませんがね。

そして社会ダーウィン主義者の嘘。

  1. 「ゼロサムゲーム」という幻想
    ここらへん、経済を拡大していけばいいと思うのに、もうそれはないと思わされているようです。やっぱり低迷が長いとそうなのかな。日本でも若い人たちは経済成長を知らないだろうしなぁとため息が出ます。
  2. 公務員を悪者にする
    これはまさに日本でもポピュリスト政治家がとってる手法ですね。例えば、教員にまともな給料を払おうとせず、結果として教員が集まらなくて自治体が悲鳴を上げるなんて事になってるようですが。
  3. 最高裁を制圧せよ
    ここら辺は日本ではすでに最高裁の判事の任命権を内閣が握ってて、日本国民にはおしるし程度の拒否権しか与えられていませんが……

そして経済に関する嘘。「ジョージ・オーウェルがかつて述べたように、「大衆はストレスを受けて混乱すると、反論されずに繰り返し語られる大嘘を、次第に真実として受け入れてしまう」のだ。」(142p)

  1. 富裕層は「雇用の創造主」であるから、富裕層に対して減税すれば、みなによい効果を波及させる「トリクルダウン」が発生する。逆に、富裕層に増税すると景気に打撃を与え、雇用の伸びも鈍化してしまう。
    「トリクルダウン」はまさにこの国でも起きていた論議ですが。結果は言わずもがなですな。
    「富裕層が雇用を生み出すのではない。雇用は、大多数のアメリカ人がモノを買い、企業が生産能力を拡大して労働者を雇用することで創出されるのだ。」(本書143p)まさにそれです。富裕層がカネを持ってるかどうかなんて究極的には関係ない。(富裕層ではない)大多数の国民が物を買えるかどうかにかかってると思います。いや、むしろ、「米国の上位五%の富裕層は、収入のおよそ半分しか支出していない。これは何ら不思議ではなく、裕福であるということは、必要なものや欲しいものをすでに手にしているということなのだ。」(76p)まさに哀号!!ですわな(乾笑)
  2. 法人税を下げれば、企業は雇用を創出し景気も活性化する。
    これもまさに前項と同じ。そして最初に私が引いた『泰平ヨンの航星日記』と同じ。「需要がなければ生産は行われず、そのための雇用も創出されることがない。そして貧しくなっていく労働者たちにはそもそも需要を喚起する力はない」って事でしょう。
  3. 政府の規模を小さくすれば、雇用が増大し景気も好転する。
    さて、日本の例はどうなんでしょ。公務員削減といってますけど、景気は好転してるかな?むしろ低賃金の派遣社員なんかに置き換えたら、トータルとしての購買力は減少してるだろうし。そしてこれは「公務員を敵視する」という「分断と統治」のメソッドのひとつになってしまってるけど。
  4. 規制が少ないほど、経済は強くなる。
    これに関しても。例えば野放しに近いブラック労働が社会にどのような影響をもたらしているか。商品経済の縮小しか招いてないのではと。そしてそれはスパイラル化している。
  5. 財政赤字をただちに削減すれば、景気は回復する。
    「でたらめだ。多くのアメリカ人が依然として失業状態にある間は、最優先すべきは雇用対策と経済成長だ。政府支出によって民間部門の支出不足は中和される。雇用と成長がまともな水準に戻らないうちは、予算削減をしても失業が増え、税収が減るだけだ。」「(景気回復して)税収が国庫に流れ込めば、目下の「予算危機」の大部分は消滅する。」(147p)
  6. 公的医療保険制度であるメディケア(高齢者対象)とメディケイド(低所得者対象)を縮小すべきだ。
    ここらへんの類似の日本のシステムも、日本では高齢者や低所得者への憎悪を煽り、「分断して統治」のツールに化してるような気がします。
  7. 我々のセーフティネットは寛大に過ぎる。
    ここらへんもほんとポピュリスト政治家の常套句のネタにされちまってるきらいがありますが。私自身はお世話になる可能性があると思うし、その時には手厚く遇されてほしいとは思うんですがね。そういう人たちに憎悪の目を向け、暴言を吐いてる人たちだってそうなる時もあるかもしれないのに、なんでそういう態度なのかなって思います。
  8. 社会保障制度はねずみ講だ。
    ここら辺は意味を取りにくかったのですが。つまり社会保障制度は近々破綻して、掛け金を納めてる我々はその恩恵にあずかる事はないって意味なのかな。米国においてはそういう可能性はないと書かれています。
  9. 中・低所得層の連邦所得税の負担割合が小さく、人によってはまったく所得税を払っていないのは不公平だ。
  10. 一律の税率のほうが公正だ。
    むしろ累進税は富裕層のほうが低税率になる場合もあるとか。米国での話ではありますが。

そしてPART3ではそのような主張を元に、どういう風に実際の政治活動に繋げるかと論じられてます。この部分が本書の特徴的な部分かと思います。事態を分析して見せるだけではなく、それを実際の活動に結び付けたいと。

政治家への申し入れ書のテンプレート。米国企業に誓わせたい誓約書のテンプレート。

そして、同意見の人たちより、違う意見の人たちの間に入って彼らの中から話を聞いてくれる人を見つけ出し、説得しなければならないととかれます。ネットじゃなくてリアルで。ここらへんはネットのSNSあたりで同意見の人同士で吹け上がる事とは根本的に違います。それが大事だと。そして、選挙の時だけではなく、地道で継続的な活動が必要だと。

さて、本書を読んでみて。

もちろん私は経済学は素人だし、本書に書かれてることがどれだけ妥当性があり、なおかつ日本の現状にも当てはまるかどうかは分からないのだけど。
ただひとつ言えるのは、「お金がないと消費はできないよ」って事は言えると思います。そしてこの国の企業は人々のお金を与えなくなっていると。
近年、「若者の何々離れ」ってよく言われますけど、それは畢竟「人々にお金がない」って事なんだろうと思います。
まぁもちろんそれは「没落する中間層」のひとりである私からの風景がそうであるだけに過ぎないのかもしれないけど。もちろん豊かな暮らしを謳歌している人たちも中間層に多いかと思いますけど。この縮小していく「パイ」の争奪戦に勝った人たちも。

煎じ詰めたら問題の本質は「我々の能力を効率的に発揮すればそこそこ豊かで人生を謳歌できるだけの物資やサービスを生み出すことができて、なおかつそれを手に入れらて、余暇も楽しめる人生が手に入るのか?」ということなんだろうけど。私はまったくそれに関する数字を持ってないけど、でも、そういう世の中には「できる」と思うのです。そういう意味では私は『楽天的』ですが。生産不足の物資の奪い合いが起きるというより、物資が売れなくて困ってるってのが我々の現状ではないかと思うのです。なら、それを買えるだけのお金を与えればいいだけの話で。

もちろん全員が大邸宅に住んでロールスロイスを乗り回して、オートクチュールを普段着にできるとも思いませんが。そこそこの衣食住と医療、そして人生を楽しめる程度の趣味の品。楽しめるだけの余暇。それは手に入れられるだけの潜在的な生産性は持っていると思うのです。そして、それを、『阻害』してる物を少しづつ取り去っていけば、そういう世の中に近づいていけると思うのです。例えば労働生産性が日本ではとても低いそうです。子請け孫請け、派遣といったひとりの労働に多くの人がぶら下がるシステムをやめて、そういう「ぶら下がってる」人たちを労働の現場に出せばブラック労働もだいぶ解消できるのでは?そして、社会保障も厚くして、現在も将来も不安のない人生を過ごせる信頼をこの世界に対して人々が持てたら。ブラック労働に疲弊し、この世界に対する信頼が持てなくて、疲れ切って将来への不安と絶望の中にいる人間がまともなパフォーマンスを発揮できるとも思いません。

そうすればなんとかならないかなと思うのだけど。

ただ、もう、それも無理かなぁと思ってもいます。日本はゆっくりと枯死への道を歩んでいるようです。米国はどうかな。彼らは最後の最後は銃をとるのでしょうか?日本は冷たい死、アメリカは熱い死。その違いはあれど社会はひとつの死を迎えるのでしょうか。そうなりそうな気もします。
1億年後の知的生命体が、あれほど繁栄した『人類』が、一瞬のうちに絶滅したことを不思議に思い、議論する日も来るのかなとも思います。そうなるのかなとも思います。(本書は「冷笑的になるな」と戒めていますが)

しかし、人が苦しまなければこの(誰のための?)『繁栄』を維持できないのなら、そんな世の中は滅んでもいいと思っています。この国の支配層が人を幸せにすることができず、苦痛のうちに生きることを強いるなら、滅ぶこともひとつの答えだと思ったりもします。ほんとに本書では「冷笑的になるな」と強く戒められていますが。

どうかな?

『格差と民主主義』とても面白く拝読しました。もっとこの内容がよく分かればいいのですが、この感想文程度が私の精一杯かな。
そして本書はたくさんの人に読んでほしいと思います。そうしたらこの世界は少しは良くなるかもしれませんし。
それに期待はしています。

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