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2019/03/24

イメージフォーラム映像研究所2018年度卒業制作展

今週はイメージフォーラム映像研究所2018年度卒業制作展に行ってきました。
簡単な感想を書いてみようと思います。
色々勘違いや頓珍漢なことも書いてしまうかもしれません、ご容赦です。
今回はA~Dプログラムの4プログラムでした。プログラム順じゃなくて、見た順番に書いていきます。

Cプログラム
HANAKO(エルサムニー・ソフィー/10分/2019)
作者さんは父親がカイロでサッカー選手を目指していたそうです。しかし負傷のため、その道を断たれ。
東京で働いている兄弟の元に行ったら、沖縄暮らしを勧められ、そこで作者さんの母親と出会い、結婚されたとか。
その負傷は幸運であったと父親が。まさに「塞翁が馬」です。
その沖縄の風景、カイロの風景、東京の風景。

外部的な何かを描くドキュメンタリーというより、内省的な独白という方向の作品でした。
演出もあるのでしょうが、カイロの騒音が耳に残りました。しょっちゅう鳴らされる途切れることのない車のクラクション、街の騒音。
カイロに暮らすって事は常にその喧騒の中にいる事なのかなと思いました。ちょっと大変だなと。

今夜のキス、行方不明(徐夢柯/6分/2019)
水彩画(風?)のアニメーション。水彩画の濁った色調。
唇だけが切り抜かれた写真のようで。
キスをしようとしたふたり、しかし唇が逃げ出して。

光屈性グラフィ(藤井あんな/20分/2019)
「日常」を過ごしている室内。しかし、そこを、「非日常」な視線がさまよう。そうするとそれが「実験映画」になる。
そういうことを気づかせてくれた作品でした。

ひとりぼっちのあいつ(田中慧/30分/2019)
映画をやりたいと思った作者さんはイメージフォーラムに通うと。そのいきさつが冒頭、ちょっと自虐的に語られます。
そして作品を作らなきゃいけなくなって、そういえばと幼馴染の引き篭もりの友人にカメラを向けます。
その引き篭もりの友人の部屋、私の部屋そっくりです。私も稼がなくてよいのなら即効引き篭もりになりたいのですが。
たとえ怒りでも、それを感じることは幸福であるという事ではないか?何も感情を抱かないことが不幸ではないか?
というような作者さんの人生観、気づかされました。そうなのかな、そうかもしれないなと。

Aプログラム
アンナ・ファルチのいる階段(伊澤夏男/10分/2019)
アンナ・ファルチというのはちょっと調べた限りではイタリアの女優さんだそうです。古びた洋館ぽい木造の建物の階段を主にした映像と女性の姿で「構成」された作品。解説によると壁のぼろ隠しに貼ってあったのがアンナ・フェルチのセクシーなポスターだったそうです。

どんぐり蝶(永井桃子/5分/2019)
切り絵風のアニメーション。おいしい木の生えてる森を食べつくした兎たち。その兎たちの一匹の感謝知らずの女の子兎。豊かさに耽る我々に対する寓話なんだろうなと。

空を見上げて(寺島万智/10分/2019)
こちらは空の風景を中心に構成された作品でした。ゆっくりと雲が流れていく様子。それを見ながら、雲が流れるのをのんびりと眺めることも最近めったにないなぁと思いました。

日本の姿 東京のお蛇さま(前田大介/60分/2019)
日本の水神信仰の紹介や神社や浮世絵の映像があって、レポーター役の方が登場して。よくある紀行番組の個人製作版が始まるのかなぁと思ったのですが。この「お蛇さま」ってのは実は高速道路網のことで。高速道路を蛇神さまとして、レポーター役の方とその案内役の方が高速道路や神社、そして水辺を巡ります。何やらお話はオカルトっぽくなって。ドラマっぽくなって。
高速道路を神さまとする。その虚構としての「世界観」の構築。

Bプログラム
Sky Circle (ongoing)(ジョイス・ラム/11分/2019)
冒頭、エッフェル塔みたいな塔。でもなんか違う。あれれ?と思ったら。
ここは「天都城」と呼ばれる中国のニュータウンだそうです。この「エッフェル塔」の背後にはタワーマンションがにょきにょきとたくさん建ってます。また脇にはヨーロッパの街並みを模した一角もあるみたい。そのヨーロッパ風の街並みも良くできていて、ほんと、ヨーロッパと言われても信じちゃいそう。

この作品はそこに暮らす中国の人々の様子を描いています。散歩する親子連れ。なんかピカピカ光るボタンのついたキッチュなプレーヤーから流れる(たぶん)中国語の歌に合わせて踊る中国のオバチャンたち。遊具に乗る子供たち。そういう日々を過ごす人々の姿。豊かさを無邪気に謳歌する人々の姿。今の日本を振り返ると、とても羨ましいです。どうしてこうなっちゃったんでしょうね、この国。

Regeneration(吉田哲正/30分/2019)
1999年から今までの自分の人生を振り返ってみたセルフ・ドキュメンタリー。起業して、子供が生まれ、両親を介護して看取り。その忙しさの中で少しメンタルが不調になったようで。そのメンタルの不調を具体的に描かずに寓話にしてるのが面白いと思いました。
しかしほんと、家族を持ち、起業し、子供を育てて、しかもイメージフォーラムに通うだけのいろいろな余裕がある。私から見たらまるでスーパーマンみたいな方ですが、それでも心が不調になったりするんだなと。

数年前だったかな。女性で、おひとり(になるのかな?)で子どもを育て、しかもイメージフォーラムに通って作品も作るという方の作品を拝見して、すごい人がいるなぁと思った事もあります。

ECHOES(坂本裕司/15分/2019)
この作品も映像を様々に組み合わせて作るというタイプの抽象的な作品です。手の映像が印象的でした。迫ってくる音楽。

24minutes(立川清志楼/24分/2019)
実験映画の手法の一つに、ほとんど動かない光景をフィクスで長回しってのがあります。オペラの開園前の1時間半、舞台から客席をフィクスで撮り続けたもの、部屋のこちらから向こうにカメラがゆっくりゆっくり動いていくのを長回しで撮影したもの。イメフォの卒展でも遠景をゆっくりと横切っていく人影を映したものとかありました。「ほとんど動かない」といっても、何らかのかすかに動く要素はあるのが多くて、その「かすかさ」が勝負どころなのかなぁと思ったりもします。

本作はどうやら動物園のおサルさんの一種(?)の檻の前で撮影したもののようです。といってもカメラは斜め上を向いていて、おサルさんもほとんど映らないし、お客さんの姿も見えません。雑踏の音はしますが、映像は檻を映すばかり。「このまま何も動かないのかな?それともあるタイミングで突然何かが動くのかな?」と思いながらスクリーンを眺めていました。やがて気がつきました。この作品は夕方に撮られていて、その日が傾いていく様子がわかりました。檻の隙間から見える空が赤くなり、暗くなり、それと檻の鉄骨に反射する夕日が大きくなっていきました。それが24分間の映像でわかりました。

これには驚きました。こういう場所、良く見つけてくるな。そして、季節も大事でしょう。そういう撮影の場所とタイミングをリサーチし、それを24分で切り撮ったと。すごいです。

Dプログラム
めくるめく大地(赤堀香菜/12分/2019)
工事。まさに大地を「めくる」行為だなと。雑踏に置かれたペットボトル。それをよけていく人たち。倒れたペットボトル。そうなると人はそれを気にせず足蹴にしていく。興味深い人の心の様子。
工事で地面をつついて、すると三脚に乗せられた?カメラの視線も飛ぶのが面白いなと。

Uncertainty of existence(井筒優菜/13分/2019)
なんとなく若い人の(トシ行った人にも多いと思うけど)自意識といったものを感じさせる作品でした。群衆、その中でひとり動かない自分。
音が後ろの映写室あたりから聞こえてきました。くぐもったノイズのような音。何かのミスかなとも思ったのですが、最後のクレジットが表示される部分の音は普通にスピーカーからしていましたから、音の演出なのでしょう。そういう音の演出って初めてで、面白かったです。

美しくあいまいな日本の私たち(トモトシ/16分/2019)
人通りの中でいくつかちょっと挑発的なパフォーマンスを行う、その様子を記録したもの。ほんとに「ちょっとだけ」挑発的なのですが。ここの所のイメフォの卒展にはそういう挑発的なものはなかったように思います。もちろん私はそれを勧めませんが。トラブルとか気をつけてと思う小市民ですが。

人通りを横切るようにカメラをを据えて、それに道行く人がどういう反応を示すかという「実験」、面白かったです。ただ単にカメラを据えているだけ、カメラの向く先はただの壁だったりして、なんのために何を撮っているのか道行く人に理解しがたい状況では、ひとはそそくさとカメラの前を横切ったり、大回りしてカメラの後ろを通るのですが。カメラで誰かを撮ってると道行く人がわかる状況では、カメラの前を横切りながらVサインを出す通行人もいたりして。心理学的な実験としても面白いのではと。

FARM(山内健太郎/40分/2019)
夢で山の景色を見た。その景色に心当たりがあって、その場所に行って。小さいころ両親とドライブに行ったその場所に行った。というお話から始まって、その山の牧場の方の話を伺ったり、友人と食事をしながらだべったりといった風景。作者さんの語り。
いい感じのエッセイ映画だと思います。ちょっと人を喰ったような作者さんの語り口も含めて。

**********

今年もイメフォの卒展、楽しみました。面白かったです。
昨年は2プログラムで、ひとつはOBさんの作品でしたから、実質1プログラムでちょっとさみしかったのですが、今年は4プログラムあって嬉しいです。

ほんと、これから私たちと「映像」のかかわりはどうなっていくのかなと思います。昔は動画を撮ろうと思ったら頑張って8ミリカメラを買い、編集機材も整え、フィルム代・現像代をねん出しながらやっていたのでしょうが。今では携帯やスマホで簡単に動画が撮れます。私のカバンの中にもガラケ、スマホ、タブレットと動画が取れるデバイスが普通に3つも入ってます。あたし自身は映像作家でもないのにね。
たぶん、「映画」という言葉も解体され、動画は様々な表現手段としていろんな方面、いろんなスタイルに拡散していってると思います。たとえばYoutuberさんが画面に語りかけながら色々見せるスタイル。「あれ、これってイメフォの卒展でたまに見るスタイルじゃね?」なんて思ったりしたこともあります。

これからも「映像」のフロンティアが様々な形で切り開かれていくと面白いと思っています。そしてそれには「実験映画」の歴史が歩んできたさまざまな試みがとても役に立つと思うのですが。どうかな?

今年のイメフォの卒展も楽しめてよかったです。

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