« 『戦争は女の顔をしていない』 | トップページ | 昭和精吾事務所公演『七七火』 »

2018/06/25

万有公演『赤糸で縫いとじられた物語』

昨日は新宿御苑のシアター・ブラッツさんで演劇実験室◎万有引力公演『赤糸で縫いとじられた物語』を観てきました。楽日になります。

『赤糸で縫いとじられた物語』。寺山修司のフォー・レディーズシリーズの童話集だと思います。タイトル通り女性向けのメルヘン的な童話集かな。私も持ってるはずなんですが、ちょっと行方不明。どうやら私の持ってるのは寺山没後の再編集版みたいで、オリジナルは別にあるみたいです。
版元が新書館だそうですから、白石征さんが編集された本かしら。白石征さんは寺山修司の本を作るために出版社に入った、というほどの方。寺山修司に関してトップクラスにお詳しい方だそうです。

丸の内線の新宿御苑駅からシアター・ブラッツさんへ。シアター・ブラッツさんは3年前に同じく万有引力公演『夜叉ヶ池』を観てます。スタジオ形式の場所。
今回は久しぶりに万有独自の、整理番号順にお客さんを並ばせて、開演直前に一気に客入れ、そして自由席というスタイルでした。

舞台装置は舞台奥に開くスクリーン。スクリーンは寺山修司の実験映画『ローラ』みたいに幅広のゴムヒモが張られ、開かなくても出入りできるようになってました。上手に一段高くなった場所。下手客席前方にも台。左右非対称なつくり。この左右非対称は『夜叉ヶ池』でもそうだったかな。

胸のところに駅弁売りみたいに木箱を捧げ持った女性。舞台奥のスクリーンには向こう側からの手のシルエットが踊っています。

そしてはじまり。

この『赤糸で縫いとじられた物語』はこの寺山修司の童話たちをオムニバス形式で舞台化したもののようです。順繰りにいくつかのエピソードになってました。同時進行とかじゃなくて。だから、分かりやすい構成だったと思います。
寺山修司は多方面で活躍してきたわけですが。これはその女性向けのメルヘン世界。なんとなくこの世界が寺山修司のいちばんのコアな部分じゃないかと思ったりもします。うまく説明できないけど、そう思うのですが。

万有引力さんは寺山の思想的な部分まで感じさせてくれることが多いのですが。今回も寺山修司のメルヘン世界の劇でありながら、寺山の「思想」を感じさせてくれる部分もまたありました。

「未来は変えられないが過去は変えられる」という考え。普通は逆で「未来は変えられるが過去は変えられない」でしょう。それが寺山お得意の「さかさま」のセンスで変えられない過去はない。作り変えることのできない過去はない。そうなってて。これは寺山のエッセイでもよく出会う考えです。

3人の人間に分裂してしまった男に共通の「思い出」を注入することでひとりに戻す。これは、はっとさせられる指摘でした。これはこういう戯画化された描き方ですが。でも、家族や民族や国家、宗教は共通の「思い出」(ストーリー)でひとつになれてるって部分があるんじゃないかと思います。

実家を離れてだいぶしてから、帰省した時に家族と話す昔の話が、だんだんかみ合わなくなってるのに気がつきました。それはとてもさみしいことでした。私の記憶が正しいか、家族の記憶が正しいか、そんな事はキホンどうでもいいと思います。ただ、共通した思い出がなくなっていってる。それがとてもさみしいなと。

そして国家や民族や宗教なんかは、その成員に共通した「思い出」を持ち、それでまとまることができるのかなと思いました。もちろん「作り変えることのできない過去なんてない」から、それはほんとうにあったかどうかなんて関係ないのです。それこそ国家や民族や宗教が持ってる「神話」なんてリアリティ的な見地からすると非現実的なものですし。

寺山は『過去』に「ストーリー」とルビを振りました。そう、「ストーリー」としての過去。「ストーリー」、つまり「物語」であるからこそ、それは人と人をつなぐ紐帯たりえる。ただの事実は事実に過ぎない、それを「物語」として再編集され、人はそれを生きる。人は「物語」を生きる。少々の「作り変えられた歴史」を混ぜられ、「物語」になる。そういうことなのかなぁと。

そして今現在、そう考えると思い浮かぶのが、近年かまびすしい「歴史修正主義」です。「物語」(例えば「日本人は正義の民族である」とか)に沿うように作り変えられた過去≒物語。それをみなで信じようとする。そしてそれは「物語」ゆえにこそ、紐帯となる。そうじゃないかなと思います。どうもそれはあまりよろしくない方向に行こうとしていますが。

なんでも消せる「消しゴム」のおはなし。これも示唆的でした。

少年はその消しゴムを手に入れて、彼が憧れている土曜婦人の恋敵を消していきます。しかし彼は思い余って土曜婦人まで消してしまい。絶望した彼は消しゴムで自分自身を消そうとしますが、いろんな物を消してちびた消しゴムは…。
消そうという行為、改変。それは消しゴムで消すことのように何かが磨り減っていくのかもしれません。やりすぎてはダメなのかな?

あの消しゴムがあったら、私は私自身を消してみたいな、と思ったり。

今回、ベースになる衣装は黒を貴重にしていて、段ボールの切れ端っぽい飾りがついてました。冒頭、段ボールから俳優女優さんが飛び出しますし。段ボールに収められていた本の物語。本棚じゃなくて段ボールなのかな。その違いはなんなのかなと思ったり。この段ボールの薄茶色モチーフってのに、おととしの万有さんの実験公演『小蕈奇譚』を思い出しました。

今回、舞台を拝見していて、それにあてられて、ちょっと妙な感じになりました。なんていうかな、軽い催眠状態というか、心の奥から妙なものがごぼごぼ沸いて自分では制御できなくなるような心地。そのくらいすごかったです。

次の万有公演は11月。演目は『狂人教育』だそうです。下北沢のスズナリって所みたいです。スズナリは有名な劇場ですが。行った記憶があるようなないような…。行ったとしてもかなり昔です。そんなんだから演劇ファンとはいえないわたくし…。
そして8月にJ・A・シーザーさんの新譜が発売になるそうです。となるとレコ発もあるでしょう。

あ、そうそう、今回いつもあったアンケートはなくて、リーフレットに印刷されたQRコードでアンケートページに飛んでアンケートを書くって趣向でした。面白いです。こういうのもこれからどんどん普通になるんでしょうね。

次の万有引力さんの公演も見に行けたらいいなって思ってます。

| |

« 『戦争は女の顔をしていない』 | トップページ | 昭和精吾事務所公演『七七火』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 『戦争は女の顔をしていない』 | トップページ | 昭和精吾事務所公演『七七火』 »