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2018/04/13

『フィリップ・マーロウの教える生き方』

『フィリップ・マーロウの教える生き方』(レイモンド・チャンドラー:著 マーティン・アッシャー:編 村上春樹:訳)
「ハードボイルド」の名探偵、フィリップ・マーロウを生んだ作家・レイモンド・チャンドラーのアフォリズム集です。読了。

レイモンド・チャンドラー、昔は夢中で読みました。ただ、もうほとんど憶えてないのだけど。
思い出もあります。故郷にいた頃、チャンドラーの長編で『湖中の女』と『高い窓』が書店に発注しても手に入らなくて。でも、上京してそこらの書店に入ってみたら、両方ともポケミス版が並んでいて「東京はえれえ所だ!!」って大感動した思い出があります。

そして、近年はぜんぜん小説が読めなくなってきています。それは老化か、それともメンタル的な不調か、どちらかはわからないのだけど。でも、血を熱くして読んできた「ハードボイルド」小説や冒険小説が、今の自分を支えてくれてるってのは体感しています。昔読んだ面白本のことを思い出すと、今でも血がかーっと熱くなってくるのですが。

「ハードボイルド」小説の名台詞集というのは昔何冊か出てて、買ってました。名台詞とそれを語るエッセイってフォーマット。だからこのレイモンド・チャンドラーのアフォリズム集というのもずいぶんと懐かしい気がします。今もそんな本が出てるかどうかは分からないのですが。

翻訳は村上春樹とか。押しも押されもしない大作家でありますが、恥ずかしながら村上春樹の小説は未読です。タイトルが印象的なので、雑誌の書評コーナーなんかで「羊を~」とか「ピンボール~」とか、そういうタイトルを見かけて、なんとなく心には引っかかっているのですが。

村上春樹の翻訳リストを見ると、このレイモンド・チャンドラーのほかにサリンジャーとかティム・オブライエンとか、自分的にもツボな作家さんの翻訳も手がけられていて、そういう意味でもいつかは読んでみたいなとは思ってるのですが。ただほんと、近年は小説がほとんど読めなくなっていて。

いや…。

180413

本書は小ぶりの本ですが、しっかりとしたハードカヴァー。まさにファンブックの王道といったたたずまいです。

スタイルとしてはまず編者のマーティン・アッシャーのまえがき。そしてレイモンド・チャンドラーの小説からのアフォリズムが項目ごとにAtoZスタイルで並んでいます。そして巻末に訳者のあとがきとして村上春樹の文章、事情は後述しますが村上春樹が選んだ『高い窓』と『プレイバック』からのアフォリズムが載ってます。

ざっと一読して。

憶えてるの、憶えてないの、思い出したの、思い出せないの。そして、「これ載ってる、嬉しい」、「あれ載ってないの、あれぇ…」、なんて、色々楽しく読みました。もちろん村上春樹訳のチャンドラーは未読ですので、自分の頭にあるのは清水俊二訳や田中小実昌訳とかなのですが。

でもほんと、ずいぶん久しぶりにレイモンド・チャンドラーの芳香を愉しみました。
もともとチャンドラーは詩も書いていたのでしたっけ、やはり『詩』を感じさせるなぁと。

私は煙草を吸った。フィルター付きの煙草だ。ぼやけた霧を生綿で漉したような味がする。『ロング・グッドバイ』(本書37ページ)
私がいちばんチャンドラーに凝っていた頃、吸っていたタバコはキャメルの両切りでした。ただ、そんな煙草が普通のタバコ屋に置いてあるわけもなく、大きいタバコ屋さんにi行ったときだけ入手できたのですが。そして、フィルター付きの煙草を吸う時、『あ、そういえば、フィルター付きの煙草について何か書いてたくだりがあったな」って気がついて、思い出そうとしても思い出せませんでした。このおかげで気がつきました。

ただ、私がそれを読んだのは、確か短編集のほうのような気もします。レイモンド・チャンドラーは短編と長編で似たようなくだりがあるようではありますが。
あとそして、なんでフィリップ・マーロウの煙草は両切りのキャメルって知ったんだろう。なんていう作品の一節なのかなって、それが思い出せません…。
あと、昔読んだチャンドラーのエッセイとその解説によると、そういうタイプのマニアをチャンドラーが嫌ってるらしいですけど…

『長いお別れ』の「ぼくはセンチメンタルな人間なんだ、バーニー。暗闇にすすり泣きが聞こえたら、なんだろうか見に行く。気の利いた人間はそんな事はしない。窓を閉めてラジオの音を大きくするか、車にスピードをかけて遠くへ行ってしまう。」(うろ覚え)は入れて欲しかったなと思ったり。(こちらは清水俊二訳のほうです)

「ロールスロイス」の項もあったのですが、ここはゼヒ、『長いお別れ』冒頭の「私が初めてテリー・レノックスに出会ったとき、彼はダンサーズのテラスの前に停めたロールス・ロイス、シルバーレイスの中で酔い潰れていた。」(こちらもうろ覚えだけど)も入れて欲しかったなとか。(こちらも清水俊二訳のほう)
あと、本書は小説からの引用だけでエッセイからの引用はないのですが。あるのなら、『簡単な殺人法』の「彼は卑しい街を往かねばならぬ。彼は卑しい人間ではない。」が入ってたらうれしいなぁ、とか。

そんなとても僭越なことを考えたりもしました。

「訳者あとがき」によると、本書には『高い窓』と『プレイバック』からの引用が無いそうです。そうなので、このあとがきのあとに、村上春樹・選の両作品からの引用が載っています。超おまけって感じがして、とてもヨイです。

ただ、ここには、レイモンド・チャンドラーの書いた台詞の中でたぶんもっとも人口に膾炙してるであろう『プレイバック』の「タフでなくては生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」は入っていません。ちょっと膾炙しすぎではあると思いますが「『ハードボイルド』という生き方」のコアな台詞ではあると思います。

この台詞は原語では「If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.」だそうですが。
生島治郎の『ハードボイルド風に生きてみないか』(確かワニの豆本シリーズ)には、この翻訳について論じたくだりがありました。「hard」とは何か、「gentle」とは何か、どう訳すか。そしてこの「タフでなければ~」という翻訳はあまりよろしくないということで。もちろん「タフでなければ~」は翻訳小説としての一節ではなく、映画のキャッチコピーとしての一節ではありますが。
私はある方の仰った「『gentle』ってのは『優しい』じゃなくて、『優しくする』だ。『優しくできなれば』なんだ」って言葉がまだ胸に残ってます。

ほんと、本書はとても懐かしく、面白く読みました。いや「懐かしい」なんて言いたくないのですが…。もっと読みたい冒険小説・「ハードボイルド」小説はたくさんあるのですが、現役の、まだまだ読める、読書人だと思いたいのですが、もう小説に関してはそうは言えないなとは思います。自分の現状をかんがみると。治ってくれるといいのですが。

ま、あんまり偉そうなことを書いていますと、天上から「お前に偉そうに語る資格はあるのか?」とお叱りが聞こえてきそうでチト怖くなりましたので、このくらいで。
『フィリップ・マーロウの教える生き方』、これもまた超おススメ本でありますよ。

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