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2016/09/05

「『描く!』マンガ展」

土曜日は川崎市民ミュージアムで開催されている「『描く!』マンガ展~名作を生む画技に迫る-描線・コマ・キャラ~」をトークショーのイベントつきで見てきました。本展が始まったのは九州だったかな?「早くこっちでもやらないかなぁ」と楽しみにしてました。

大昔ですが、『マンガ少年』って漫画誌を購読してました。休刊になる1年半か2年くらい前から休刊までだと思いますが。その巻末のほうに、みなもと太郎さんの『みなもと太郎のなんだなんだなんだ』って連載エッセイが載ってました。そこに「マンガ描きは版下作業である」というような事が描かれていて、面白いなと思いました。(この『なんだなんだなんだ』は単行本になってないのかしら?なってたらとても再読したいのだけど。たとえば「デビューまではと一生懸命がんばっても、デビューしたらその先は一面の荒野。だから、デビューしてからが勝負」みたいな話も面白かったです)

版下、印刷物の元となるもの、ですな。たとえば印刷を前提としない絵画なんかを印刷物にする時は、その絵をできる限り、技術力とご予算に応じて、再現するものです。
しかし、マンガは版下です。それをベースに印刷用の版を起こすのだけど、その時いくつかのディティールは失わます。しかしそれは逆に有利な部分もあって。たとえばホワイト修正とか、写植を貼ったところとか、切り貼りした部分は印刷に出ないわけで、それを生かした技法も取れるのだろうけど。スクリーントーンが普及してないころは、アミふせのところを青鉛筆で塗って「アミ○%」って指示もできたものだけど。

その、「版下」であるところのマンガの生原稿を中心に、いろんな展示があるってので、見てみたいなと。

ただ、あたしはそれほどマンガ読みってわけじゃありません。もともとはプラモマニアで、小遣いの使い道はマンガよりプラモの方がメインでした。友達もいないほうで、マンガを借りれるような友達もいませんでした。
ただ、同級生にマンガマニアの人がいて、その人からいろいろ話を聞くのは面白かったけど。吾妻ひでおを知ったのはその人からだったかな。前述の『マンガ少年』を知ったのもその人だったと思います。『マンガ少年』ではますむらひろしとか高橋葉介とか石坂啓とかやまだ紫とか知って、それはそれで面白かったけど。でも「基礎教養」的なポピュラーなマンガは知らないほうだと思います。

ま、そんな奴が見に行った感想ということで。

川崎市民ミュージアムは初めて行く場所。いつもの通りGoogleMapにプロットして向かい、なんかわけのわからない路地裏に入り込んだりして到着。なんか製鉄関連の品物、でっかい炉とか、女の子のスタンドパネルがよく見るとすごく重そうな鉄骨を抱えてたり(よく見るとそのパネルもぶ厚い鉄製)、してて、なんとなく親近感です。

到着はお昼を少し回ったころだったのですが、正午から配布を開始するらしい定員250人のトークショー、整理券が200番代半ばでした。もう少し遅かったら見られなかったところです。
で、いったん会場を出て、売店でサンドイッチを買ってお昼。それから会場に戻って展覧会を見始めたのですが、しばらく見てるとトークショーの入場が始まったので、そちらに向かいました。

トークショーは夏目房之介さん、田中圭一さん、そして司会進行役が伊藤剛さんでした。

夏目房之介さん。もうだいぶ前になりますが、ご著書を楽しく拝読してました。模写を通じてそのマンガ家が画にこめた息遣いを分析するという手法が、こういう手もあるのか!すごいな!!って思いながら拝読してました。

田中圭一さん。最近の手○治○とか宮○駿の絵を真似てお下劣も好きですが、あまり読んでないのですが。『ドクター秩父山』がとても好きでした。あの、「エロを追求するコトは人間性の追及でもある」というようなエクスキューズなしで、あれだけお下劣エロを突き抜けるように描いた作風が好きでした。つか、んー、いやらしい。であります。ケタケタ笑いながら読める数少ない漫画家さんのおひとりでありました。

伊藤剛さんの漫画論も少しだけですが拝読しています。ツイッター上での御発言も好きです。

トークの取っ掛かりは手塚治虫でした。夏目さんと田中さん、お歳がちょうど干支でひと回り離れているのかな、夏目さんがツボなのが50~60年代手塚絵、田中さんが70年代というのが面白かったですし、おふたりの実演される模写がそうだったので、奇しくも50~60年代手塚絵と70年代手塚絵が同時に描かれるという、面白い趣向になってました。

手塚絵になぜエロスを感じるのかという指摘、面白かったです。グネグネなところなのか。
そして石ノ森章太郎絵との違いを絡めて、石ノ森絵の女性が10代の性欲、手塚絵の性欲が小児性欲って指摘にはたと膝を打ちました。っていうか多形倒錯?(あまりよくわからんけど)

マンガの表現の歴史的な流れ、「漫符」的なものへの考察も面白かったです。

2時間のトークショー、ぜんぜんだれなかったし、面白かったです。たいしたマンガ読みではない私はついていけるのかな、面白がれるのかなって心配だったのですが、とても面白かったです。ほんと活字にまとまったものが欲しいです。

んで、マンガ展会場に戻って。マンガ展は生原稿を中心に、書籍や関連グッズ類、そして解説が主だったもの。かつてのマンガの周辺の流通とかの環境、赤本、貸本、さまざまなスタイルのマンガ誌、漫研といったものについての解説もありました。

田中圭一さんの手による、描画の解説が面白かったです。「なんでこのマンガで、こういう感覚がするのかな?」って思うことがあります。それは音楽とか映画とかでもそうだけど。そういう感情を惹起させてるのはなんだろうなって思うこと。こう描かれたからこう感じるって関係性、あまりよく理解できないものがありますな。それは改めて考えると不思議なことですが。たとえば24時間メシ食ってないからハラが減る。そういう意識下でわかりやすいシンプルなプリンシパルで動いてない部分が人の心にはある。

今、斉藤環さんのラカン入門書をかじっているのですが、シニフィアンといったもの?あるいは象徴界といったもの?直接にはわからないけど、解説されると「そうなのかぁ」って思えるような部分、それを田中圭一さんの解説が解き明かしているのかなって思います。

展示されている生原稿に関しては、思ったよりきれいだなぁって印象です。もっと切り貼りがあったり、修正が入ったりしているのかなと思ったのですが。ま、プロの方でありますれば、原稿作成までにそういった試行錯誤的なのはぜんぶ済んでいて、あとは書き上げるばかりなのかなぁと思います。最終段階で修正をかけたりするのはめったにないのかなと。
小説なんかの文字原稿だとそうなったりする方も多いのだろうけど。小説は個人で書くものですしね。アシスタントさんも含めて集団で描く漫画の場合、アシスタントさんが混乱するような土壇場での修正はできるだけかけないようにするのがセオリーかもしれません。

ただ、たいしたマンガ読みではない私が、生原稿を目にしてどれだけのものを受け取ることができたのか、それは自信がないです。もっと見る目のある人なら、細かいペンタッチとかからいろいろ受け取れるのかなぁ、それがわからないのは口惜しいなぁと思いましたが、ま、それはそれで仕方がないことではあるなと。たくさん読んで、たくさん描いて、そういう人だけが至れる境地で初めて解るものがたくさんあるのでしょう。

本展では「読み手がまた描き手となる」視点を重視していました。よく考えるとそうでありますな。私は文字メディアのほうが敷居が低いと思ってましたが、文章でひとまとまりのものを書くのはけっこう大変です。紙切れに大好きなマンガキャラの落書きをする事から始められるマンガ描きの方がはるかに手軽かもしれません。(絵も字もちょう下手糞で、コンプレックスまみれなあたしにとっては苦手ですが)

そして、「読む-描く」が表裏一体となったマンガは「文字」のようなコミュニケーションツールである側面もあるのかなぁと。だとすると、トークショーであった「絵にある今となっては意味不明なこの線の由来」って件は、漢字が成り立っていくのに似たものがあるのかなぁと思いました。
田中圭一さんは出来合いの絵でマンガが描ける『コミPO!』ってソフトの開発に関わっていらっしゃるそうですが、だとすると『コミPO!』ってのはワードプロセッサーみたいなものかなぁと思ったり。そのうち絵の分析と再現技術が進んでいけば、私も手塚治虫絵でマンガが描けるようになったりして(写植のフォントみたいに「デヅカ」とか「マツモト」とかできたりしてw)。

陸奥A子さんの絵がなんかツボに入りました。カワイイってんで。私の年代だとちょうどストライクゾーンなのでしょうが、読む機会がなかったです。あのころも少女漫画にも手を出すのがマンガマニアの証だったと思いますが。でも、それは萩尾望都とか竹宮恵子とかの耽美とかSFの話で、こういうカワイイってのはアウトオブ眼中だったかなぁと。つか展示を拝見すると陸奥A子さんと故郷が近くて、あそこらへんは「マチズモ」が支配的だった土地だから、そういう「カワイイ」に行くのは後ろ指を差される行為だったかなと。(そして近年その「マチズモ」がどれだけ自分をさいなんで来たかやっとこさ理解できるようになりました。もう手遅れだけどねw)

諸星大二郎さんの生原稿の中で、ネットジャーゴンの「オラはらいそさ行くだ」の元ネタらしいものがあって、そうか、諸星大二郎が元ネタなんだって思いました。

あずまきよひこさんの生原稿もありました。なんていうのかな、原稿用紙の紙質がとても白いなって感じました。もちろん展示されていた原稿では新しい方で黄ばんでないというのもあるだろうし、単純に照明による勘違いであったかもしれませんが。ただ、あの「白さ」が『よつばと!』に似合ってるような気もしました。

展示は生原稿のほかに、書籍はもちろん、グッズ類とか、その作家さんに似合うものがセレクトされていたのですが、あずまきよひこさんの展示コーナーには『よつばと!』で出てきた小道具類の実物が展示されていました。小さなコーヒーミルもあったのですが、それって、入場する前に中庭で飲んだワゴン車のコーヒースタンドで使われてるのとよく似たタイプだったので(同一ではありませんが)、面白かったです。プロユース、通ユースのタイプなのかなぁ。

『よつばと!』は読んでました。楽しく読んでました。でも、ただ、何巻になるのかなぁ、その巻を読み始めると、なんかその世界に奇妙な嫌悪感が沸いてきて、それ以来読めなくなってしまいました。そこまで自分の心が荒んできたのかなぁと少し絶望しています。まぁあまり希望の感じられない昨今の私の人生ではありますが、ね。せめて心だけは…。

会場は一部のエリアを除いて撮影自由でした。近年そういう展覧会も増えてきて嬉しいのですが。ただ、携帯で撮影する人が多くて、あれはシャッター音がするように作ってありますから、それがあちこちから聞こえてくるのはどうかなぁと。
撮影自由なら、接写できるカメラを持ってきて、ペンタッチの細かいところを写してみるというのはどうかしら?研究者や実作者さんたちにはとても参考になると思うし。

図録を買ってみました。まだぱらぱらと眺めた限りですが。特に田中圭一さんの各作家さんの描画の分析が知りたい、資料として持っておきたいなと思いました。

という方向で、あまりマンガ読みではない私でも「『描く!』マンガ展」、楽しめました。
このくらいの時間でいいだろうと思っていたのですが、足りなかったですし、川崎市民ミュージアムのほかの展示も面白そうなのがあったから、できたらまた行きたいなと思うのだけど。リピーター割引もあるようですし…。

「『描く!』マンガ展」、おススメです。

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