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2016/02/18

ボリス・ヴィアン『日々の泡』

『日々の泡』(ボリス・ヴィアン:著 曾根元吉:訳 新潮文庫)読了。
有名な恋愛小説でありますが。いまさらながらに読了。

本書はずいぶん前から、書名と「胸に咲く睡蓮」だけは知ってた小説です。思い出せないくらいずいぶん前から。ま、恋愛小説らしいとも知っていて、恋愛小説とかはほとんど読みませんし、あまり興味も湧かなかったので、そのままだったんですが。
数年前、『じょしらく』という深夜アニメでヴィアンの一節が紹介されたりしました。そのときちょっとだけ興味も湧いたのだけど。
ま、なんか知らないけど、近所の本屋さんで詠むものを探していたとき、本書を見かけて、「あ、そういえばタイトルだけは昔から知ってて、読んだことないなぁ」とほんの気まぐれで買って読んでみることにしました。

本書は『うたかたの日々』というタイトルで紹介されることもあるようです。本書の訳本は早川書房版もあるようで、早川版だと『うたかたの日々』らしいです。訳の内容についてはまったく知らないけど、語感としては『うたかたの日々』のほうがかっちょいいですね。

読み始めると…。なんか不思議な世界観です。最初はSFかなと思ったけど、その考えは一瞬で、あと、ファンタジーかなぁと思って。その考えもすぐに引っ込んで。よく知らないけど、前衛とかシュールとかそんな感じかなぁと。それも過ぎていちばんしっくり来る、でも全面的にはしっくりきたとは言えないけど、言い方は「なんか夢の世界みたい」って感触でした。

不思議な世界観。メーターのたくさんついた調理器具、知能のあるハツカネズミ、変形していく部屋。不思議な名前の武器。エトセトラ、エトセトラ…。
本作はそういった世界で展開される、恋人たちの物語。悲恋の物語。

(以下ネタバレゾーンにつき)

ふた組のカップル、主人公のコランとクロエ、そして、コランの親友のシックとアリーズ。二組の悲劇に終わる恋の物語。

コラン、若くてちょうイケメン。お金をたくさん持ってて働かずに暮らしてる高等遊民。彼はクロエと出会い、恋に落ち。空っケツの、恋愛にご縁のない、キモメンの中年男としては、むかっ腹立ちますな(笑)。
コランの親友のシック。彼にはアリーズという恋人がいる、と。シックは給料の安い仕事をしているけど、ふたりをきちんと結婚させたいコランはシックにひと財産を与えます。

コランとクロエの盛大な結婚式。しかしクロエは「胸に睡蓮の花が咲く」という奇病に伏し。結婚、そしてシックへのカンパで大金を使ってしまったコランは治療費でさらに窮乏し、働きはじめるものの、その奇妙で酷薄な仕事をかれはうまくこなせず。

そしてシックはコランから得た大金を趣味のジャン=ソオル・バルトルという著述家のコレクションにつぎ込み、結婚のためにと渡されたせっかくのお金を使い果たした上に、バルトルにのめりこむあまり、恋人のアリーズさえ邪険に扱いだす、と。ほんと、人は労せずして大金を手にすると狂うもの、あぶく銭はロクなもんじゃないですな。あぶく銭、欲しいけど…。

そしてふたつの恋物語は悲劇に終わる、と。

残念だけど、ふた組の恋物語をコンチクショーと読んでいたあたしは、その崩壊に向かうくだりのほうを快哉を以って読みましたわ。ザマミロと(笑)
もっと若くて、ナイーヴで、恋愛物語を無邪気な憧れ目線で読んでおけばいいころだったら、ふた組の悲劇に胸を痛めたかもしれませんが。

モブキャラががんがん死にまくります。自分たちがそのきっかけになった死もあるのだけど。そのことには主人公たちはぜんぜん心を痛めません。これはある種の恋人たちの独善性なのかな。だから逆に、彼らを襲った悲劇についてもあまり思い入れができませんでした。いや、心を痛めるほうが偽善かもしれませんけれどね。

いや、なんにしろ主人公たちが生きているのは独善的で苛烈な世界と感じさせます。
思いやりのない、赤の他人の死には胸を痛めないような世界。本書の出版されたのが第二次世界大戦直後の1947年というのもあるのかもしれません。他人の死が当たり前すぎた時代。

「胸に咲く睡蓮」ですが。本書を読まずにその言葉に触れたときは「肺結核か何かのアレゴリーかな?」って思っていたのですが。本書を読むとそのまんまでした。そういう世界観のおはなしだったから。

しかし、最終章はさすがにちくりと胸が痛みました。本作でいちばん好きな登場人物かもしれないな…。

…などと悪口を含めて感想を書きましたが、本書は最後まで読み通せました。大好きだった冒険小説さえ途中で放り出すことの多い近年のわたくしではあるのですが。本書を買うとき、「恋愛物なんて途中で放り投げちゃうかな」と思っていたのですが。
ゴチャゴチャ書きましたが、けっこうのめり込んで読んでいたのかもしれません。
恋人が病で死んでいくという小説なら、堀辰雄の『風立ちぬ』のほうが好きではありますが。

とまれ、ずっと気になってた本を読んで、どんなおはなしだか分かって、ひとつ気持ちが片付いたかなと。

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