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2015/08/21

『ゆきゆきて、神軍』

先日、キネカ大森で岡本喜八版の『日本のいちばん長い日』と原一男監督のドキュメンタリー、『ゆきゆきて、神軍』の2本立てを観てきたのだけど。こんどは『ゆきゆきて、神軍』の方の感想を書いてみたいと思います。

『ゆきゆきて、神軍』、公開当時ちょう話題作だったかと。あのころ読んでた雑誌に頻繁にでてきました。だからタイトルと内容の一部ぐらいはそのころから知ってました。観に行こうかなと思うこともなかったとは言いませんが、話題作ということでは観に行こうかなと思わなくもなかったけど、あまり好きになる映画ではなさそうだったし。だから今まで観ずにきたし、こういう機会がなければ見ることもなかったかなと。

原一男監督作は数年前に『極私的エロス・恋歌1974』を観てます。フィルムセンターのなにかの特集上映の一本だったかと。あまり内容は憶えてないのだけど。

ある女性が沖縄に渡って、虐げられているという黒人兵を助ける活動をしようとするのだけど、しかし相手にされず、酒場で逆ギレして黒人の悪口を口にする彼女。
それから彼女は自力出産というパフォーマンスを思いつき。自宅でひとりで子供を生むと。(カメラは入ってるけど)
そしてその後彼女はウーマンリブ活動を始めるのかな。拠点を作り、仲間もできた彼女の姿。そのくらいしか憶えてないのだけど。

残念だけど『極私的エロス・恋歌1974』を観て感じられたのは、社会活動家の姿というより、『自意識』をこじらせて足掻く人の姿でした。本作は「左翼映画」の系譜につなげるべき映画かもしれませんが。
そして『自意識』をこじらせているのは私もです。生きていて酷く居心地が悪くなって足掻く時もあります。だからそれは私の課題でもあり。そういう理由で私は『極私的エロス~』をそう観てしまったのかもしれませんが。そしてもちろん私には沖縄に渡って黒人兵解放運動に身を投じたり、自宅出産する(男ですけど)根性はありませんが。

(とりあえず念のために書いときますが。出産というのは女性と生まれてくる子供にとって極めてハイリスクな営為と思います。できる限り医療のサポートを十分に受けられる環境で、もちろん専門家に診てもらいながら産むべきだと思います。人には「愚行権」があるのも分かります。ただ、出産は新しく生まれてくる赤ちゃんのこともあります。だから、こういう行為は真似すべきではないと思います。)

さて、『ゆきゆきて、神軍』ですが。

本作は「奥崎謙三」なる人物をモチーフにしたドキュメンタリーなのですが…。

奥崎を「天皇の戦争責任を徹底追及し、戦時中に起こった戦地での殺人事件を徹底追及する、反権力の“正義”を追及する闘士」と見ることもできない相談ではないんだけど。そう読み取れる描き方もしてるのだけど。原監督の意図もそこにあるかもしれないのだけど。残念だけど、そうはできなかったです。「左翼映画」の文脈としてはそう観られるべく作られたのかなぁとも思うのだけど。

私はどちらかというと心情的には右翼のような気がします。ただ、自分の中のそれに対して警戒心を持つ部分もありますし、ネトウヨ系の醜悪さも嫌悪する部分もあります。彼らを見て「とても気持ちよさそうだなぁ」と思う部分もありますが。

うん、暴力沙汰は苦手。そしてやはりこういう感情むき出しで噛み付いていく人は苦手です。自分が噛み付かれるのも噛み付いているのを目にするのも嫌です。
また、他人の珍奇な活動を見世物として面白く眺める趣味はないし(お高くとまってるのではありません、ほんとうに嫌なんです、ああいうの)。
「狂気にこそ人間の“真実”がある」と感動して見られるほどの境地には達していません。

ほんとこういう人間には近づきたくない、目にするのも苦手です。

何度か奥崎が暴力を振るう場面も入ってます。監督は止めなかったのかと思いますが。もちろん何もしないのも“ドキュメンタリー”作家のスタンスなんでしょうが。
でも、人はカメラに煽られるという部分もまた真実なら、ドキュメンタリーの作り手もその埒外に居られるとも思えないとも思います。

奥崎という人物はドキュメンタリー作家にとって最高の素材のひとつであったとも思いますが。
本作の最後、テロップで、このあと奥崎が殺人未遂事件を起こすと語られますが…。

もし奥崎のような人物が押しかけてきたら、私だったらすぐに警察を呼んでつまみ出してもらうと思います。そして本作でも警察が来ることは何度かあるのですが。でも、それでも奥崎はつまみ出されることなく、尋問対象の人物は話に応じ続けます。それを奥崎も自覚してるのか、自ら110番に電話して警察を呼ぶというパフォーマンスを行います。それを不思議に思ったのだけど。

なんていうのかな、不思議な“カリスマ性”というか、“人を操る力”があるのかなぁ。
それは狂人ゆえの「人の心の隙間に入り込み、囚えてしまう」能力かもしれませんが。

奥崎は2台の街宣車を持ってます。右翼のそれのような大きなワンボックスカーやバスを改造した立派なものではないですが。1台は結構こじゃれた感じの乗用車ベース、もう1台は軽のワンボックスベース。その屋根に選挙カーみたいな看板がついてるのですが。「電波系」特有の文字をみっちりと書き連ねた看板が乗ってます。

その看板を見るとどうも奥崎には「宇宙人=神様」系の著書もあるらしく。本作では描かれませんが、カルトのリーダー的側面もあったかもと思われます。人の心を掴むスキルがあったのではないかと。

左翼系の集会に集まって、話をし、賛辞を受ける姿。本作は「左翼映画」の系譜につならる作品だと思ってますけど、これって逆に左翼的なものを解体してないかと思ったり。左翼にも色々あるのでしょうが。

(無辜の罪で殺害されたと思しき)兵士の遺族を押し立てて相手を尋問しに行くのに味をしめたのか、遺族の協力を受けられなくなると偽の遺族をでっちあげて相手の住居に押しかける奥崎一行。

病気に苦しむ尋問相手を「病気というのは天罰だ」と言い切る奥崎。その台詞、病気に苦しむありとあらゆる人の前で言えるのかなと。

最後にもいちど書きますが。

ほんと、奥崎という人物にはほとんどシンパシーを感じえません。というか近寄りたくないし、近寄ってほしくはありません。私は見世物のようにそれを愉しめるような人間ではないし、そこに人間の真実があると悟ったように言える境地でもないし。

ほんと、この映画を楽しめる人は凄いです。素直に尊敬します。

あのころ、なぜ本作がブームになったのかなぁと。「バッドテイスト」がブームになってたような記憶もありますが、それなのかなぁ。
とまれ、こういう機会がなくては見る機会もなかったでしょうが。「こういう映画だったのか」のかとブームから30年ぐらいして知ることができました。

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