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2014/01/19

『失踪日記2 アル中病棟』

『失踪日記2 アル中病棟』(吾妻ひでお:著 イースト・プレス刊)
読了。コミックスです。漫画家の吾妻ひでおがアル中で入院した、その体験記です。

私は吾妻ひでおのデビュー当時の衝撃を体験できた者のひとりです。漫画マニアの同級生に「すごい漫画がある」と見せられたのが吾妻ひでおの『やけくそ天使』でした。なんていえばいいのかな、あの、ぶっ飛んだアナーキーさ、衝撃を受けました。

それからまず『やけくそ天使』を全巻自分でも買い、そのほかの作品も買いました。
「やけ天」ではあまりわからなかったのですが、SFネタも多くちりばめられてSF者的にも面白かったです。(あたしはそんなにはSF小説読まなかったけど、オタクのはしりとして「SF」がある種のステータスだった時代でありました)

「吾妻ひでお現象」とでも呼ぶべきものがあのころ確かにありました。本書にアシスタントとして参加され、巻末で吾妻ひでおと対談されている“とり・みき”さんも他の本で自分が漫画家になったのは吾妻ひでおの影響だったとお書きになっていた記憶があります。

しかし、そのうち、吾妻ひでおの本を買うこともなくなり。新刊も出なくなり…。
失踪したらしい、などというゴシップ記事を昔の雑誌で読んだような記憶もありましたが。

2005年にその失踪時代を描いた『失踪日記』(イースト・プレス刊)が出たと知り、読みました。失礼かもしれませんが、面白かったです。それから時代は遡り、漫画家デビュー前夜を元にしたお話、『地を這う魚 ひでおの青春日記』(角川グループパブリッシング)も読みました。「地を這う~」は吾妻ひでおの真骨頂と呼ぶべきシュールなタッチで描かれていて、面白かったです。

そして今度は『失踪日記』でもちょっと触れられていた、アル中入院時代のころを題材にした『アル中病棟』であります。入院されていたのは時期的には98年末から99年にかけてのことだったようです。

『アル中病棟』もとても面白く、楽しく拝読しました。そういう言い方がいいのかどうかは解りませんが…。うん、ほんとうは、いや、違う視点から見たら、かなりたいへんな、笑えない体験だった事、そして描けない事もたくさんあったであろう事は本書の端々からも漂ってきたのですが。例えばいちど面会に来た奥さんが怖れをなして面会には来なくなったとか。そういう雰囲気もまたかもし出していた場所であったと。
そういうほんとはシャレにならないであろう話を面白おかしく伝えてくる、吾妻ひでおのタッチ。それはかなり作者に負担がかかる事でもあったのではないかとも思うのですが。

絵柄はちょっと変わった感じ。やや頭身が上がって、シリアスっぽさが増したように見受けられましたが。でも、あの、丸っこい、暖かいタッチで。
そう、あのころ吾妻ひでおの漫画を楽しく読んだのも、あのアナーキーな無茶苦茶っぷりやシュールなギャグセンスののせいだと思っていましたが、この、丸っこい、暖かいタッチもまたその魅力だったのだなと気づかせてくれました。

そしてまた、面白く読むと同時に、自分の心にもぐさぐさ刺さってくるものもあり、でした。
その部分はその吾妻ひでおの暖かいタッチでだいぶマイルドになってくれたのでしたが。

私はアル中かな?年に340日以上は酒を呑んでて、酒の買い置きがないとひどく心細くなりますが。健康診断で肝臓の数字おかしくても呑んでますが。連続飲酒はないですけど。まぁ、どうなんだろ…。そのせいか本書がぐさぐさ来ます。

「アルコール依存症者は酩酊することで自己を拡大し「万能感」「合体感(他人と自分の区別がなくなる)」などの誇大傾向、いわゆるパワー幻想にとらえられ、その陶酔感(=薬因性オーガスム)から逃れられなくなってしまいます
(中略)
ではなぜ依存症者は陶酔感を求めるのか
素面(現実)への不安感・空虚感を否認するためです
現実生活での不安・寂しさ・怒り・抑うつ等に直面して自分が壊れてしまうのを防ごうと自己防衛しているわけです(後略)」(216-217p)

このくだりなんてほんと我が身にぐさぐさきました。

吾妻ひでおさんは自分を襲ってくる「欝」を“ぬりかべ”みたいなキャラで描いているのですが。そのセンス、好きなのですが。
ある断酒サークルの集まりで、周囲の人たちが盛り上がっているとふと疎外感を感じ、その「欝」キャラがやってくるシーンがあるのですが。あれ、私にもよくあって、とても我が身につまされました。
にぎやかな集まりにになればなるほど突然疎外感を感じて落ち込んでしまう。帰りたくなる、突然帰ってしまう。そういうこと、私にもよくあるんですわ。

「この世にはさ なりたくもないのに時々ね 暗ぁーくなっちまう奴ってのがたくさんいてね ずいぶん面倒な目に遭っているんだよ」(筋肉少女帯『サーチライト』)

吾妻ひでおさんが断酒できたのはご家族があるからだろうなぁと思います。アル中入院の終わりごろには外泊の訓練もあるようですが。ひとり暮らしの方がその外泊のときにひとりに耐えられず酒を呑んでしまう、ってエピソードがあって、それにとてもシンパシーを感じました。ひとり暮らしの私もたぶんそうしてしまうだろうなと。

もう一方、本書には「イネイブラー」という概念も紹介されています。それはアル中の方の被害者でもあり、またアル中の方が酒を呑み続ける「支え手」でもある存在。アル中をやめさせようとしても、結局は酒を飲むことを許してしまうような存在。家族とかなんでしょうか、そういう共犯関係に陥る事もあると。
私はアル中ではありませんが、ある件について「イネイブラー」となってしまった関係を知っているので、他人事じゃないなと思いました。

アル中病棟の面々、懲りない面々。昔読んだとり・みきさんの文章をぱくれば、わかっちゃいるのにやめられない、人たち(アル中患者の再飲酒率はとても高いとか)。
そういう人たちの姿。それもまた…、です。
なんか、生きるって営為はとても不思議なことだなぁと感じたりもしました。
「どうして人は生きるのだろうか?」と思ってしまったり…

入院生活で小銭に汲々とされる吾妻ひでおの姿、ちょっと哀しかったです。
一世を風靡した方でありますのに。面白本をたくさん読ませていただいた方ですのに。
んで、ふと気がつくと、私もあまり買わなくなってしまったなぁと。
最近、アンソロジーとかも出ているようですが。私も買っていません。あまり本も買えなくなってしまっていますが…。

本書はアル中について知りたい方にも役に立つ内容であると思います。実用書としても使えると。例えば、私はアル中で入院というと禁断症状の幻覚でのた打ち回る様子を真っ先に想像していたのですが、今は薬剤の進歩でかなりそれは抑えられるようです。
アル中で入院するとどういう処置を受けるのかということや、また、そこまで行かなくても、酒で体を壊したり、トラブルを起こしたりして断酒しようとしている人たちにも役に立つと。
心構えのヒントとかもありますしね。

あるいは、自分とはまったく関係ない、異世界のお話として楽しみたい人たちにも。
そういう人たちは幸いであります。

うん、『失踪日記2 アル中病棟』とても面白く、また、我が身にもつまされる本でありました。自分の今の状況を考え、ほんのちょっと良くするのにも役に立つかと。
ここで私がグデグデ紹介したよりももっとずっとよい本であります。
超おススメ本であります。

ま、とりあえず、私は今日も酒を飲むのでありましょうが…

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