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2012/10/05

滝本竜彦『僕のエア』

『僕のエア』(滝本竜彦:著 文春文庫)読了。
久しぶりの滝本竜彦でした。

滝本竜彦は小説『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』『NHKにようこそ!』、エッセイ『超人計画』を読んでます。ぜんぶとても面白く読めて。自分の中の琴線にも触れてくる作品でした。
それからしばらく新作を待ったんですが。どうも音沙汰もなく。そのうちに忘れてしまったのですが。先日本屋さんで本書を見かけて購入した次第。
改めて調べてみると、本書のほかに『ムーの少年』というのが単行本化されてるようですね。そして本書は2010年に出た単行本の文庫版。

正直に告白すると、ここんとこ小説が読めなくなってきて。小説を買うこともあまりなくなってきたのに、部屋の隅には途中で放り出した小説本が何冊か重ねられている有様。
ノンフィクション系はけっこう分厚いのも読みとおせるのですが。『リトル・ピープルの時代』とか『ギャルと不思議ちゃん論』とか。

本書は、久しぶりに最後まで読みとおせた小説本でした。
そう厚い本ではありませんでしたが。

デビュー作『ネガティブハッピー~』と第2作『NHKへ~』は、シノプシスは似通っている小説です。乱暴にせんじ詰めれば「虚しさに囚われてる少年が傷ついた少女に出会う、彼は、彼女のために戦うことにより、ちょっとだけ人生に意味を見い出す」ってな感じです。そして、わたしは、そういう"物語"にとても琴線を震わされます。

滝本竜彦は「引きこもり世代のトップランナー」とか。『ネガティブハッピー~』にしろ『NHKに~』しろ、主人公が囚われている虚無感は、痛いほど解りますし、それからの解放を求める気持ちも解ります、ヒリヒリします。

ある意味、滝本竜彦の小説は、現代の「ロスト・ジェネレーション」(迷子の世代)だと思ってます。既存の価値観が崩壊し、新しい価値観、つか、消費社会で踊ることもできず、馴染めず、虚無の世界、喪男の世界を見つめる事になってしまった人たち。たぶん、私もその世界の住人。

いや、彼らは若い衆。まだまだかと思いますが。彼らよりはるかに年上のあたしが「解る」っていうか、その渦中から抜けられないってのもさ、いろいろ手遅れ感が濃厚だよなぁ。

いや、閑話休題。『僕のエア』に話を戻して。
(以下ネタバレゾーンにつき注意)

主人公は田中翔、24歳(だから少年というより青年ですな)。フリーター。フリーターである事に引け目を感じているようで、取り繕ったりしている様子です。雪が多いところ(滝本竜彦の出身地の北海道あたりかな?)の生まれで、上京してきているようです。

ある日、彼は、故郷のスミレという女性の結婚案内の郵便を受け取ります。だいぶ前に引越しで離れ離れになったけど、幼馴染の近所のお姉ちゃん、(戯れに)結婚の約束をしたお姉ちゃん、ほのかに恋心を抱いていたお姉ちゃん。
ショックを受けた彼は迷走し、よせばいいのに同窓会にも参加してしまい、そこを逃げ出し(俺なんてン十年同窓会に行った事ないぞ)、思わず不良にケンカ売ってしまい、ボコられた上、不良を追いかけている最中に車に撥ねられます。

命を落す間一髪を救ったのは謎の少女。「エア」と名乗ります。
人ならざる存在のようで、半透明、つか主人公の妄想かもしれず、というスタンス。
エアは昔の、十三歳のころのスミレそっくりの顔。そして、結婚式を迎えるスミレを攫うことを主人公にそそのかします。

彼のダウナーな、そして迷走し始めた人生、エアという存在を得ていかがあいなりまするかというおはなしでした。

「エア」の原型は『超人計画』で出てきた滝本竜彦さんの脳内彼女、レイかしら?レイも確か滝本竜彦さんをポジティブ方向に向けようとしていたような。エアもまた主人公をポジティブ方向に向けようとしていて、だから、スミレを攫うことをそそのかしたりしたようです。

読んでいて改めて気がついたのですが、滝本作品の主人公はそう「引きこもり」ではないような。
本作では主人公の許に昔の部活仲間が転がり込んでくるのも、女子が転がり込んでくるのも受け入れますし。その部活仲間とも怪しげな仕事を始めますし。ここらへん『NHKに~』と一緒かな。
あたしはたぶん、自分の住まいに誰かが転がり込んでくるのには耐えられません。ひょっとしたら最愛の恋人でも(いや、そーゆーのいなかったから検証はできませんが)。

まぁ、「物語」ってのは普通は人間関係で進められるものですから、そのの変化で展開していくものでしょうから、純粋引きこもりを主人公に据えると、訳わかんない内的独白あたりと単独行動でおはなしをすすめざるを得ず、それは小説作法上きわめて困難な事になるかもで、だから、かとも思いますが。

ンで、その女の子、別の理由は口実にはしますが、その気があれば、主人公は恋人にできた雰囲気です。しかし、逆に、転がり込んできた彼女に、主人公は指1本触れようとしませんが。ま、あっさりと、他の男ができそうになったらとっとと主人公の許を去りますが。つまり、「男は愛を引っ掛けるための釘」タイプの女性かな?それが主人公も解ってたのか。

いや、もうひとつの見方をすれば。

う~ん、これは私見ですけどね。「恋人ができれば幸せになれる」という“信仰”を壊されたくないのかもしれないな。
今、自分が不幸せなのは、恋人がいないせい、恋人さえできたら幸せになれる、そう信じていたい。しかし、ほんとに恋人ができて、それでももし幸せになれなかったら、自分が感じている虚無感を拭えなかったら、それはショックじゃないですか。死にたくなるほどの。「信じていた“救い”は存在しない」って判ってしまうのは。だからかもしれない…。

本作は『ネガティブ~』『NHK~』に比べてどうかなぁ。クライマックス感というか、カタルシスは弱いと感じました。
『ネガ~』なら、少女とチェーンソー男の最後の対決、『NHK~』ならあの、主人公が崖から飛び降りる場面。なんともいえないクライマックス感とカタルシスを感じましたが。

ま、『ネガ~』はともかく、『NHK~』は少々お間抜けなんですがね、でも、お間抜けだからこそ、それが好き、涙が出るほど感動しましたが。
まぁ例えば『ライ麦畑でつかまえて』だって、あの、主人公の、「ぼくはライ麦畑の捕まえ係になりたいんだ…」って台詞、ちょっと醒めて見ればめっちゃデンパ、お間抜け、なに言ってるんだこいつは、発言でしょ。でも、『ライ麦畑~』の、あの物語の中の、あのシーンは、なんか知れないほど涙が出るほど感動するじゃないですか。そんな感じ。

本作の主人公は、そういうクライマックス、カタルシスを経ることなく、またボンクラな人生に戻っていくようです。そして少なくともしばらくはそういう人生を送るようです。ま、それが“現実”かもしれません。ハードボイルドだど!

本作で印象に残ったシーンは、エアが主人公の脳味噌を直接いじくる下りかな。けっきょく幸福も不幸も希望も虚無も単なる“脳内現象”に過ぎないものかもしれないな。本作はそういうスタンスで書かれたものかなぁ。

うん、ま、やっぱちょっと「弱い」、かな。やっぱあたしは小説にクライマックスとかカタルシスとか救いとか求めてしまう人間です故。

「解説」は海猫沢めろんとおっしゃる方。ラノベ作家さんでしたか、お名前だけは存じ上げてる程度の方ですが。
作品論もよかったのですが、近年の滝本竜彦の様子についてのおはなしが圧巻でした。そうか、そういう状態であったのか。「超人計画」後の様子は本田透さんのインタビュー集で少し知ってはいましたが。彼女ができたこととか。

ま、ほんと、久しぶりに読みとおせた小説です。もうちょっとリハビリして、少なくとも前くらいは小説が読めるようになれればいいのですが…

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コメント

>ま、あっさりと、他の男ができそうになったらとっとと主人公の許を去りますが。
馬鹿じゃねえのお前?
あれはそこまでの流れで、好きだった田中は自分の事を求めていないと理解したから去ったんだろ
最初に「その男から連絡が来るまでいる!」って言い訳に使ったから、それをキッカケとして去ったけど
それを「他の男ができそうになったら~」とかお前なに読んでたの?読書時間の無駄じゃね?人生の無駄じゃね?
最期に女が「バカ!」って怒ってた理由とか理解できなかったの?おいおい……

おまけに「脳を弄くってたから、全て幻覚妄想って話なのか~」とか、本当に読解力が皆無なんだな
田中は最終的に世界は幻覚妄想じゃなかったって結論に達してるんだけど?
それをわからせるのがエアの目的(=田中自身の望み)
その証拠に田中が世界は幻覚妄想と思えば思うほどエアは薄れ、世界を実感してるとエアは実体化してきた
エアが幻覚妄想の親玉って意味理解できてるか?
エアの姿はスミレ、それも記憶の中の最も大好きだった13歳のスミレ
それは最も田中が「世界を幻覚妄想だと信じ込む為に、幻覚妄想だと信じなければいけなかった存在」なんだよ、だからこそエアが幻覚妄想の親玉

そして田中は世界を幻覚妄想だと信じ込みたいと言う自分と、世界を現実だと理解し色のある世界を生きたいという自分(=エア)の間で揺れ動き
最終的にエアに対し「俺はスミレに余裕で微笑んで、世界を幻覚妄想だと断じてやるぜ!」的な発言をして最終決戦に挑んだが
その結果は、「20年後に会えば何か変わったのか、俺はどうすればよかったのか……」という完全敗北
すなわち世界は幻覚妄想なんかじゃないってことなんだよ
これくらい読んで理解できないなら、もう読書なんて止めた方がいいんじゃないですかね(笑)

投稿:   | 2012/11/09 14:07

ご指摘、ありがとうございます。
こういう部分も自分で読んでるだけではなかなか気がつかないもの。
こうやって自分なりの感想を書いてみることのメリットであると思います。
では!

投稿: BUFF | 2012/11/09 16:49

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