映画『海軍特別年少兵』
今、京橋のフィルムセンターでは今井正監督特集をやっているようですが。
昨日、今井監督の『海軍特別年少兵』という映画を観てきました。
少し前、俳優の地井武男さんが急逝されて。そのときのツイッターの地井武男さん追悼ツイートの中に、本作が地井さんご出演の名作という事で紹介されていて、それに興味を持って、観ようと思った次第です。
フィルムセンターによる紹介はこちら。
日本映画データベースによるキャスト&スタッフ表はこちら。
1972年夏の映画になるようです。ちょうど40年前。
「海軍特別年少兵」とは。戦時下、兵員不足のためでしょうか、14・5歳の少年を志願制で採用した事があったそうです。そうやって集められた少年兵たちを「海軍特別年少兵」、略して「特年兵」と呼んだそうです。
学校での教育期間が1年くらい?あと兵科に応じての教育があるようですから、実戦につくのは16・7歳ぐらいになるのかしら。それにしても若いです。
本作は横須賀を舞台に、入隊してきた特別年少兵たちが訓練を受け、硫黄島で悲壮な戦死を遂げるまでの物語が描かれていました。
トップシーンは硫黄島での戦闘。玉砕のための最後の突撃。死んでいく特年兵たち。
そして、彼らが横須賀で海軍に入隊する日に遡り、彼らについて語っていきます。
横須賀でスパルタ式の厳しい教育を受ける日々が、時折特年兵たちのバックストーリー-家族の事など-を挟み込みながら描かれます。
その生活、どれだけ考証的に正しいかわかりませんが、興味深かったです。
陸上とはいえ寝具はハンモック、椰子ガラみたいな繊維質のタワシで床を磨くのも甲板磨きと一緒でしょうか。
海軍特別年少兵、戦線に送る兵士を急いで用意という、速成教育かと思っていましたが、教育期間も1年以上あって、教養関係の座学もあったようです。英語の授業とかもあって、昭和18年あたりが舞台のようですが、英語の授業があると驚きました。
敵性国語の英語を学ぶとはって生徒から疑問も出ますが。(でも、インテリジェンスを考えたら、敵国の言葉はある程度知識を持つべきだと思いますがね。例えば敵の作戦計画書が手に入っても、英語がわからないと読めないじゃない)
その疑問を呈した特年兵が最後の玉砕の時、米兵相手に英語で啖呵を切った兵隊さんだと思うのですが…。そういう皮肉のエピソードだったんじゃないかと。
地井武男さんは工藤上曹役。舞台となる班(?、ここらへんのシステムはあまり判りません)の教育係。いわゆる「鬼軍曹」タイプかと。スパルタでびしびし特年兵たちを育てますが。しかしその底には情があって。
銃剣を失くした特年兵のために、失くした特年兵を責めるでなく、一生懸命銃剣を探す姿。
あたしの感覚だったら、そういうスパルタタイプの人間だったら、銃剣失くすなんて不祥事起こしたら、まず口を極めて罵り、ぶん殴ったりして、責めに責めまくった上に這い蹲らせて銃剣探させたと思いますが。そういう時、気持ちが追い込まれているであろう彼を気遣って、優しい態度を取っていたのが印象的でした。
つかそう思うあたしの方が酷い育ち方をしたっぽいのかなぁ。スパルタ教育は受けませんでしたけど、そういういやらしい感覚を持ってるという事は、そういう心根の捻じ曲がる育ち方をしたのかもしれないな…。
貧しい家族に仕送りしている特年兵がいて。しかし、故郷から、給料以上の仕送りをされていると疑問の手紙が来るエピソードがありました。事情を知ってる工藤上曹がこそっと自腹を切って足して送ってあげてたと思うのですが。それでトラブルになる事が予測できなかったのならちょいとお人よしのお間抜けさんであります。
特年兵たちのバックストーリー。貧しい家の出で、社会主義者の父親に反発して、そして、お国のためという純真な動機から。そういったエピソードも描かれます。
特年兵役の方々は子役さんなのかなぁ。14・5歳というにはちょっと大人びているような気がしますが。今時の子供の方が(いや、オトナもか…)、ガキっぽい、幼いのだろうなと思います。
だから、どうも、本作が最初で最後の映画出演作という方も多いようで。「日本映画データベース」によると、とても印象的だった林拓二役の方も本作が最初で最後の映画出演作のようであります。
また、脇を固める大人陣もよかったです。といっても私はそんなに映画を観てない、役者さんに詳しい方ではないですが。三國連太郎、大滝秀治、小川眞由美といった、スクリーンに登場するだけで強烈な存在感を放つ俳優さんたち。もちろん、地井武男さんも。
「恩賜の煙草」を巡るエピソードがよかったです。小川眞由美は一方でありがたがり、誰かにあげたがり、一方で自分ですって「吸いつけてる煙草の方がいい」と邪険に扱ったり。そして、これから玉砕するという少年兵たちが始めての煙草としてむせながら吸うってシーンもよかったです。
そして、ラストの地井武男さんの台詞と行動。安っぽいヒューマニズムなんて鎧袖一触で吹っ飛ぶその重さ。
しかし、「御国のために死ぬ」事を前提に入隊してくる、それを口にする特年兵たち。生きのびて、勝利して、じゃなくて、「死ぬ」事が前提な人生。わからん、わからないよ…。
うん、人は時として「自尊」を守るために破滅的な選択をする生き物であると最近理解しています。「ヒト」という生き物が、この経済社会、消費社会、経済的合理性だけで動くものなら、あるいはもっと低レベルの「生物」として生存本能だけで生きているのなら、人間理解もカンタンな話だったんでしょうが。冷静にデータを検討すれば、開戦前に敗戦は簡単に想像できた事かと、人間が功利的に振舞うだけの存在なら開戦を思い留まる事ができたのでしょうが。
どうやら、当時の日本はその「自尊」が危機的状況だったのではないかと。
明治維新が成功し、欧米に追いつき追い越せがある程度成功し、大陸に版図も広がり、そういった状況下、「自尊」がぶくぶくと極大に肥大したタイミングで、欧米列強から締め付けを食らい、おとなしくするそぶりを見せつつ、のらりくらりのうのうと生き残りを図ればいいものを、開戦してしまった。そういう状況ではなかったかと思います。
そういう感覚をある程度当時の日本人は共有してた、だから、自分の死を前提としていたのかなぁ。それとも死ぬ時に落胆したくなくて、死ぬのが普通、生き残れれば幸運、という事で心に「予防注射」しようとしたのかしら?
いや、ほんとうにわからない。しかし、それは、当時の方々を貶めようという気持ちはありません。むしろ尊敬しています。私のスタンスとしては、そういう方々の事を軽々に「わかる」と言う方がむしろ失礼じゃないかと感じますので。為念。
本作は2時間超の作品。こういうストーリーテリングのため、ちょっと間延びしてるという感じもしましたが。でも、これを描くためにはこういう語り口しかないだろうなとも感じました。
よい映画でありましたよ。
しかし劇中の爆発シーンの音、他の映画でも聞いたような感じがしましたが。
こういうサウンドエフェクトって他の映画にも使いまわしたりするのかな…?
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コメント
林役は、中村梅雀さんです。この頃は中村まなぶと名乗られてましたが。
前進座の座長の直系です。(退団しましたが)
投稿: かずお | 2014/05/10 10:04
◎かずお様
ああ、他の作品や舞台でも活躍されている方でありましたか。
投稿: BUFF | 2014/05/10 12:01