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2009/11/24

真利子哲也『イエローキッド』

昨日は横浜の東京藝術大学大学院映像研究科馬車道校舎に真利子哲也さんの映画『イエローキッド』を観に行ってきました。大学院の卒業制作とか。

真利子哲也さんはイメージフォーラム出身の方。『極東のマンション』と『マリコ三十騎』という映像作品を拝見しています。だいぶ前のことでもうあまり憶えていないのだけど。自分や家族、身の回りのことをモチーフにしたセミセルフドキュメンタリー作品だったと記憶しています。

『極東のマンション』。自分と家族をモチーフにした作品でしたか。鬱屈した日々。ロープで体を結わえてマンションから飛び降りるシーンを憶えています。特撮とかそういうのではなく、真利子さんご自身が、マジで。
『マリコ三十騎』。真利子さんの法政大学時代。真利子さんはある先生にその珍しい苗字からすると海賊の末裔かもしれないと言われ。古文書から海賊・真利子がある場所に三十騎を率いて上陸したというくだりを見つけ。そのイメージ映像。海岸でわっしょいわっしょいする半裸の男たち。
市谷の法政大学の旧学生会館?ゴミゴミとしたカオシックな、でもかつての学生の息吹の伝わる建物。しかし学生会館は新しい小じゃれた高層ビルのが建って、旧学生会館は取り壊し間近。その小じゃれた新学生会館に褌姿で乱入して駆け回る真利子さん。

まぁ、そのくらいしか憶えてないし、記憶違いもあるかもしれません。違ってたらごめんなさい。

法政大学の学生会館の件は、その大講堂の杮落としが演劇実験室◎天井棧敷の『盲人書簡』だったこともあり、また演劇実験室◎万有引力の『盲人書簡』や何度かライブにも訪れた場所でもあり、その件に関する部分を興味深く拝見しました。

なんていうのかな、その2作は「フリチン映画」として私的にカテゴライズしています。「フリチン映画」。鬱々としたエネルギーを持て余し、思わずフリチンでわーーっとやってしまったり、無茶してしまう作品に私がつけた名前です。イメージフォーラム付属映像研究所の卒展でも年数本は見かけていたのですが、ここ数年はそういう作品がだいぶ減ってきている、あるいは見かけないこともあり、ちょっとさみしいのですが。ただ鬱々としてフリチンになることもできない忸怩たる私からすれば、ある意味とても尊敬している作品群なのですが。

その真利子さんが法政大学から東京藝大大学院に入り、その卒業制作としてこしらえたのが『イエローキッド』だそうです。

連休最終日の夕方、横浜の東京藝大馬車道校舎へ。

横浜らしい、風情のあるビル街に校舎はありました。なんか重厚で立派な校舎だなぁと思ったら、旧富士銀行横浜支店のビルを改装した建物らしいです。大金庫とかあります。ごっつい、錠つきの扉。金庫破り映画のロケにそのまま使えそう。
こういうのを大事にするのは横浜らしいです。いい感じです。東京だと丸の内とかに風情のある古いビルがたくさんあったのですが、都庁移転の再開発でそんなビルはほとんど全滅してしまいましたし。

どうやら映画祭の1プログラムとして本作は上映されるようです。
さて、おはなしは。

『イエローキッド』。百年くらい前のコミックストリップ。黄色いナイトシャツを着た少年が主人公の作品。(Wikipediaにも項目があります
その百年後、また『イエローキッド』というヒーロー物の作品をこしらえた漫画家がいて…。

田村という男。ボクシングジムに通っている。なかば寝たきりで少々ぼけのきている祖母とふたり暮らし。ケンカをしたせいでバイト先も首になり。
服部。漫画家。彼が『イエローキッド』の作者。続編の取材のため、彼の同級生の三国というチャンプがいるボクシングジムを訪れるのだけど。そのボクシングジムは田村の通うボクシングジムでもあったと。
でも、三国は引退していて。

帰宅した服部。同棲していた元・彼女の誘いに乗って、ふたりが暮らしていた、今は彼女が暮らすマンションを彼はふたたび訪れます。少々鼻の下を伸ばして。しかし、そこにいたのは元チャンプの三国。どうやら三国と元彼女は同棲していて、近いうち結婚する様子。元彼女が服部を呼んだのは三国を取材したいという彼の希望のためだったようですが。しかしもちろん服部と三国はケンカになり。

いっぽう田村はバイトを首になってお金に困り、ジム仲間の榎本と組んであたり屋に手を染めます。
しかし、榎本も不始末をしでかしたようで、元締とトラブルを起こし、追い詰められて。

田村は服部がジムに持ってきた漫画原稿を見て驚きます。彼がボクサーを目指すようになったのは『イエローキッド』に感動したせい。
田村の話を聞いた服部は感激し、『イエローキッド』は三国がモデルだったけど、今描いている『イエローキッド』続編は、田村をモデルにすると話します。

服部が描く『イエローキッド』のストーリーと田村の人生がシンクロを始め、やがて…。
というおはなしでした。

鬱屈した、誰も救われないおはなしでした。その鬱屈したエネルギー。暴力。
榎本役の方が凄いです。本作がデビュー作のようですが。沸点の低い、すぐかっとなって暴力を振るうチンピラ。暴力の匂いを振りまく男。どうもそういうのは苦手ですが。元・いじめられっ子としては心の傷を久しぶりにえぐられる感触がしました。(私はいじめた経験もあるので被害者ヅラをするつもりはありません)

そのヒリヒリする暴力性、鬱屈したもの、底辺を這いずり回るしかない人生、そのやりきれなさ、それがどうもこちらにも届きました。そう生きざるを得ない環境、そう生きざるを得なくなって。そのやりきれなさがどうも心に響きます。
何かほんと久しぶりに心がザワっとするものを観たなぁという感触。

ほんとに役者さんとか疎いのですが。解ったのは先日『美代子阿佐ヶ谷気分』を拝見した町田マリーさんくらい。
しかし彼女、なんの屈託もなく今彼(三国)と元彼(服部)を引き合わせます。そりゃケンカになるでしょう。
女は別れちゃえば元彼のことなんかあっけらかんと忘れるものなのでしょうが。なんの準備もなしにいきなり引き合わせたらケンカになることくらいも想像つかないのでしょうが。

あと、作中挟み込まれる『イエローキッド』のコミックスのシーンも印象的でした。アメコミ調のフルカラーの絵柄でした。単行本で出たら読みたいくらい。

しかし、これが卒業制作というのが驚きです。クオリティ的にほとんど商業映画です。というか予算とかも商業映画の低予算作品クラスはかかってるんじゃないかな?しかも卒業制作は他に4作品、計5作品あるらしく、さすが東京藝大と思います。
本作はユーロスペースで上映も決まっているそうです。

上映後に真利子哲也さんとイメージフォーラム主宰のかわなかのぶひろ先生のトークショー。かわなか先生をお呼びしたのは真利子さんの希望だそうです。イメージフォーラム時代の恩師ということで。

ほんと、救いのない作品でしたが、みぞおちに一発食らったような感触がしました。
日本映画の新しい才能として真利子哲也さんの今後のご活躍も期待しております。

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