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2009/09/25

『B29撃墜記』

『B29撃墜記 夜戦「屠龍」撃墜王、樫出勇空戦記録』(樫出 勇:著 光人社NF文庫)
読了。
太平洋戦争中、双発戦闘機「屠龍」を駆り、米軍の「超空の要塞」B29を26機撃墜するという戦果を上げたB29撃墜王、樫出勇氏の手記であります。
氏の守備空域が故郷の方、という事で興味を持って読んでみました。後書きを入れても180ページない薄い本ということもありましたが、あっという間に読了しました。

屠龍という戦闘機。元・ミリオタのわたくしですから、ネットとかで情報を見たことがあります。Wikipediaによる屠龍(二式複座戦闘機)の紹介記事はこちら
37ミリ砲装備とか。しかし連続して弾が出る機関砲じゃなくて単発砲。そのスペックを見たとき、「単発砲で空中戦とかできるのかな?戦果上がるのかな」って思いました。

本書を読んでひっくり返りました。ほんとに単発砲で空中戦やってます。
B29を撃ち落してます。

戦法としては、100メートル以下の距離までB29に接近し(もちろんB29の対空機銃の嵐の中)、急所を狙って撃ち込む、というやり方だったようです。37ミリ砲でさえ、急所に命中させないと撃墜できなかったとか。
もうそれだけでそのガッツ、想像すらできません。しかも、そこまで近づくのですから、敵機との衝突回避もギリギリだったとか。
Wikipediaによると37ミリ砲の発射速度は30秒に一発、本書によると20秒に一発だそうです。近づきながら数発撃ち込むというやり方も取れません。しかも、携行弾数もわずか15発。

あと、双発戦闘機で有名な「斜銃」(陸軍では「上向き砲」と呼んでいたとか)、つまり、斜め上に向けて取り付けられた機関銃は取り付けられていたようですが、ほとんど使われなかったようです。13ミリとB29相手には威力不足だったのかもしれません。(後の型では20ミリ機関砲に変更されているようですが)
あと、後の型では37ミリ砲も機関砲化されるようですが、樫出氏はそういう新型に乗り換えることもなかったようです。本書で樫出氏は、単発式37ミリ砲のみでB29に向かっていったようです。

しかし、ほんと、想像もつかないです。そういう空中戦の世界。夜戦の世界。

もちろん欧米の夜間戦闘機のようにレーダーなんてものも積んでいません。ドイツ空軍なんて暗視装置まで開発していたそうですが。(役に立たなかったそうですけど)

当時の日本軍の夜戦の戦法としては、照空灯3基ひと組でB29を照射し、その明りを頼りに邀撃機が攻撃を仕掛けるという方式だったようです。だから、照空灯の照射範囲外に敵機が出るともう追えなかったようです。また、手違いにより照射が途切れたりする事もあったようです。

体当たり攻撃も出てきました。しかし、これほどまで訓練を重ねた優秀な搭乗員、高価な航空機も使っている部隊。体当たり攻撃して目の前の1機を撃墜するより、生還して2機3機撃墜する事を考えたほうがいいと思うのですが。
投弾前のB29ならまだしも、損害を受けて離脱中のB29にまで体当たりするというのも。
そこまでのガッツがないとやれない任務かとも思いますが…。

いろいろ新しい知識もありました。
当時日本軍は米軍のB17の鹵獲機を持っていて、訓練に使っていたとか。
もちろん夜間邀撃の戦法とか。
米軍の被害状況の情報は当時中立国だったポルトガルのリスボンからの報道によっていたとか。

あと、太平洋戦争中の日本軍の戦闘機用無線機って不調で役立たず、無線機を外してしまうことも多かったと聞いていましたが。そのおかげで日本軍は無線を活用した集団戦法が取れず、それも日本軍の弱さになったとか。
しかし、屠龍の積んでいた無線機は優秀で、大いに役立ったそうです。
もちろん双発機で大型の無線機が積めたとか、複座で無線士が乗り組んでいて、無線機の調整に専念できたせいもあるのでしょうが。

そして、高空の大変さ。真夏でも高空に上がると零下20度にもなるそうです。もちろんコクピットは与圧されてないので酸素不足ですから酸素マスク必須。
そして、その高空まで上がる事の困難さ。
当時の日本軍機はまともな過給機もなく、高空で性能を発揮できるエンジンもなかったわけですし。
でも、意外とB29も低空飛行するときもあったようです。

あと、大戦中の物資不足的な話は出てきませんでした。ガソリン不足で出撃できなかったとか、そういう話は出てきませんでした。重要な部隊として比較的潤沢に物資が供給されていたのか、著者が愚痴を書きたくないタイプの方だったのかは解らないのですが。

しかし、ほんと、ドキドキしながら読みました。
それは何しろ故郷を舞台にした話で、地名とかだいたいの位置関係とか土地鑑で解りますし。それも懐かしい響きを持って。
しかし、空だと遠いと思っていた地理関係も意外と近いのですね。そこらへんはパイロットの感覚であります。

親父のしていた空襲の話、そのとき上空ではこういう死闘が繰り広げられていたのか…。

爆撃される故郷、それを守るための死闘。本当に頭が下がると同時にヒリヒリと危機感を持って読みました。
樫出氏が撃墜したB29、撃墜しなかったらひょっとしたら親父を殺した爆弾を積んでいたかもしれません。そう思うと感慨も深いです。
私が今ここにあること、戦闘機隊の皆様の奮戦、そして死んでいったB29の乗組員の命。それらが縁となっているのを感じました。

いや、昔は故郷を舞台にした本などあまり食指が動かなかったと思うのですが。というか忌避していたかもしれません。しかし手を出すようになって。
人間、トシとるとやっぱり郷土史とかに興味を持ち出すのだなと思います。

本書、ちょっと短めだったけど、大変面白く拝読しました。
おススメ本であります。

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