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2009/07/09

『ユダヤ警官同盟』

『ユダヤ警官同盟(上・下)』(マイケル・シェイボン:著 黒原敏行:訳 新潮文庫)
読了。
なんかかここんとこ日記、某会長に見られると「お前は本を読まずアニメばっかり見てるのか?」と“教育的指導”を受けそうですけど。実はそうでありますが…。
いや、ま、久しぶりに本の話題を。

本書は辺境ライター・高野秀行さんのブログ、『ムベンベ』に紹介されていて興味を持って。調べてみるとSFの私でも知ってる大きな賞、ヒューゴー賞やネビュラ賞なんかも受賞した作品で、“ハードボイルド”系警官小説の要素もあるそうで、面白そうなので読んでみました。

ヒューゴー賞やネビュラ賞を取っていることからもわかるように、本書はSFであるようです。

時代設定はほぼ現代あたり。ただ、歴史が違っていて。作中はっきりとした説明はありませんが、ざっくりといえば第二次世界大戦で枢軸国側が勝利したような感じ。作中、満州国が存在しているような事も語られますし。ただ、アメリカ合衆国は存在しています。
第2次世界大戦でドイツはソ連に手を出さずにヨーロッパを確保して、アジアでは日本が大陸を確保したまま太平洋戦争には突入せず、そして米国がアジアやヨーロッパに反枢軸国として積極的な関与や参戦をしなかった、というような流れでしょうか?そうだったらそんな風になってたんだろうなって思うような世界情勢みたいです。ほんと、はっきりとは語られはしないのですが。
ナチスドイツがヨーロッパに居座っているせいか、ユダヤ人はヨーロッパで迫害されているようで、ヨーロッパのユダヤ人たちは難民化しているようです。そして、イスラエル建国運動はあったようですが、頓挫してしまったようです。

舞台はアラスカにあるシトカ特別区。そこはヨーロッパから迫害を逃れてきたユダヤ難民に与えられた場所みたいなんだけど。時代的には現代っぽいですから、もう60年くらいも続いた街なんですが。どうやらその特別措置がもうすぐ失効し、特別区が米国に返還され、それに伴いユダヤ人が追い出されそうな動きになっています。難民に与えられた街といっても難民キャンプみたいな場所ではなく、ちゃんとした街並みです。

主人公はマイヤー・ランツマン。もちろん彼もユダヤ人。警官。ホテル住まい。酒浸りのどこか投げやりな毎日は“ハードボイルド”のクリシェでしょうか。
警察権もユダヤ人たちから返還されることになっていて、もうすぐ失職かそれとも新しい警察で職を続けられるか解らないってところ。しかし、ランツマンはそれに対しても投げやりで。

いとこで同僚のベルコ。かれはアメリカ先住民族とユダヤ人のハーフ。彼もまた重要な登場人物です。

ある日、ランツマンの住まうホテルで男の射殺死体が見つかります。
その折も折、ランツマンの新しいボスとして警察署に赴任してきたのは離婚した元妻であるビーナ。ランツマンとビーナは幼馴染みで、仲のいい夫婦だったんだけど。でも、ビーナが妊娠したふたりの子供に障害がある事を懼れたランツマンは、ビーナに中絶手術を受けさせて。それから夫婦仲は冷え切ってしまい、ふたりは別れてしまったようです。
どこか投げやりなランツマンと違って、ビーナはうまく立ち回って、シトカ特別区返還後も警察の仕事を続けられるように動いているみたい。

殺された男の素性は?そして、誰が彼を殺したのか?そして、なぜ殺されたのか?
事件の背後には大きな陰謀が関わっていて。
それはランツマンの過去の悲しい事件にも関係しています。

(以下少々ネタバレしつつ語っていきますので)

う~ん、読みながらグイグイ惹きこまれる様なドライブ感を感じさせる(最近だと『チャイルド44』がそういう本でした)作品ではありませんでした。そこらへんの理由が解りませんが、チト読みづらくて、引っかかり引っかかりしながら読了するのにかなり時間がかかりましたが。でも読了まで連れて行ってくれたから、面白本かと。
途中、ちょっとご都合主義的な登場人物や展開があったりして、さらにちょっと引っかかったりしましたけど。
いやユダヤ人たちの横文字名前がややこしくて、それが読むのが遅くなった第一の理由かと。もともと中年もだいぶ過ぎて横文字もだいぶ苦手でありますが。

SFとしては架空歴史物と超能力者物というファクターがあるかしら?ただ、超能力者物という部分は、ほんの少しだけど。ほんの少しだけど、大きなファクターというのも面白かったです。

ユダヤ人の歴史とそのメンタリティー。それがもちろん本書のいちばん大事なファクターかと。シオニストの知識がないと事件の背後の大掛かりな陰謀が「なんじゃこれ?」状態だし。でも私はあまり良くは解りませんが。なんて言うのかな、理屈としては理解できるけど、心は理解できないんだろうなと。
その陰謀はA・J・クィネルの『メッカを撃て』っぽいです。逆『メッカを撃て』というか。ただ、『メッカを撃て』は奇跡を人工的に起こそうとする話だったと記憶していますが。こちらは起きちゃうって感じかしら?それに便乗した陰謀というか。

どうやら本書中の会話は基本的にイディッシュ語っぽいです。
あと、ユダヤ人独特の衣服とかの習慣。被り物とか髭とか祈祷衣とか。ランツマンたちユダヤ系の登場人物はそういうものをまとっているようですが。それはあまり知らないですから、ちょっと想像が難しかったです。
欧米ならそういう民族衣装をまとうユダヤ人達の姿を見かけるのも普通なんでしょうね。日本でチマチョゴリ姿の人を見かけるのと同じように。同様に登場人物の名前もユダヤ人っぽい名前だと感じるのでしょうか。
そこらへんのユダヤ人文化や生活習慣もあまり解らないのも引っかかり引っかかりになってしまった理由でしょうか。

ランツマンとビーナが子供を堕ろしたエピソード。それは本書中でも何回か言及される、息子を神への生贄にしようとしたアブラハムの話と対置しているのかなぁ。神はアブラハムに息子を生贄にする事をやめさせたけど、神なき(あるいは神が沈黙している)世界のランツマンは自分の息子を殺してしまった。しかし、ランツマンとビーナは、それを乗り越え、ふたりの愛を取り戻す、と。
そう考えると、「父と息子」のモチーフがけっこう本作にはちりばめられていますな。最初の事件からしてそうだし。

犯罪集団とわかち難く繋がったユダヤ教の一宗派というのもちょっと理解しがたい概念でありました。確かにありえそうでありますが。

しかし、ほんと、本書を読むと、現実の現代社会のイスラエルという国の持つ意味が逆照射されますな。

というわけで、つっかえつっかえでかなり遅く読んでしまいましたが、面白い小説でありました、本書は。たぶん、もっと読書能力を持つ方ならもっと楽しめたかと。

おススメ本といえるかな?

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