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2009/02/02

『チャイルド44』

『チャイルド44(上・下)』(トム・ロブ・スミス:著 田口俊樹:訳 新潮文庫)
読了。また久しぶりのまっとうな冒険小説でした。

本書はだいぶ前から大きい書店で平積みになってます。売れてるんだろうなぁと思ってました。内容も極寒のロシアを舞台にした重そうな内容で面白そうだなとはずっと思ってました。

ただ、最近、重い冒険小説が読めなくなってきている私。読み通せるかなぁとちょっと自信がなくて、手を出しかねていました。しかし、そろそろ、日本冒険小説協会大賞の投票も気になる時期。途中で放り出すにしろ、やっぱり手を出しておきたい気持ちがして、思い切って手を出してみました。本当に売れている作品らしく、私が買ったので六刷でした。

いや、買って大正解。グイグイと一気に読める大面白本でありました。

舞台はスターリン圧政下のソ連。プロローグは1933年。飢餓に苦しむあるロシアの村から始まります。ある兄弟のお話。利発な兄。近眼で、貧困で眼鏡も買えず、そのせいでろくに目が見えないためにうすのろ扱いされている弟。ふたりが遭遇した悲劇から物語は始まります。

そして舞台は一気に飛び。スターリン圧政末期の1953年のモスクワへ。

(以下内容に少々触れつつ書いていきますので)

レオ・デミドフ、大祖国戦争(第2次世界大戦の独ソ戦のソ連での呼び名)の英雄にして、国家保安省の捜査官。官僚達の冷酷なサバイバルゲームを生き残り、キャリアコースを登っている男。
彼はある日、轢死体で見つかった自分の息子が実は殺害されたと主張する同僚を説得するため、ある政治犯容疑者の男の監視を抜けます。しかし、その時、その男は逃走し。彼を捕まえないとそのキャリアを失うレオ。男を追います。

しかし、その追跡行の最中、彼の部下がその容疑者を匿ったとされる容疑者の友人とその妻をその場で射殺し、その子供まで手にかけようとします。冷酷であるべきなのに、彼らの命など奪ってもなんでもないのに。しかし、“人間らしさ”を喪いきってないレオはその部下の殺人をやめさせ、その部下を殴り、恨みを買います。
そして、彼はその部下にはめられ、レオの妻にスパイ疑惑の濡れ衣をかぶせられ。妻をかばったレオと妻は地方都市の民警に左遷されます。さらにその部下はレオに対する復讐をもくろんでいて。

当時の民警は、「犯罪など起こりえない」という共産主義体制下のキレイゴトの中、吹き溜まりのような、貧しく、まるで敬意を受けないような存在で。

そこでレオが見つけた殺人事件、子供殺し。その死体の様子がレオの同僚の息子の死体の状態とそっくりなことに気づいたレオ。それは凶悪な連続殺人に繋がっていて。

しかし、当時のソ連。スターリンの圧政下、人々が簡単に政治犯の濡れ衣を着せられ、収容所に送り込まれたり、殺された時代。
しかし、逆に、犯罪なんて完璧な社会体制である共産主義社会ではありえないとされていて。それらの事件は個別に、適当に犯人をでっち上げられ、表向きは解決した事になっていて。その事件を蒸し返そうとするレオは様々な妨害を受けていく、と。

殺人事件の犯人は誰か?最後は脱走犯として逃避行を続けつつ、犯人に迫ろうとするレオの運命は?という小説でした。

レオ、冷酷非情に徹さないと登れない、当時のソ連のキャリア組。彼自身もそれを理解していて、冷酷非情に徹しようとしつつ、しかし、“人間らしい”事をやった故に揉め事に巻き込まれ、キャリアを失い、命まで狙われる立場になる、と。その当時のソ連の、スターリン体制下の狂気の時代。その、“冷酷非情”でなければ生き残れないと自覚し、そう振舞いつつも、けれど人間らしい部分も捨てきれないという部分が魅力的でした。

レオが次々と巻き込まれる苦難。そして、驚くべき事件の真相、そのえにしが、どこか宗教的なものさえ感じさせました。

レオとその妻ライーサの関係もまた本書に深みを感じさせてくれました。
ソ連の“焦土作戦”、つまり、侵攻してくるドイツ軍には何も残すなという命令の元、自らの国土を破壊して後退して行ったソ連軍。ソ連軍の手により彼女の暮らしていた村は焼き尽くされ、村人は皆殺しにされ、ただひとり生き残った彼女。ライーサは女ひとり生き残っていかなくてはならなくて。その苦難。

レオの妻となったのも、彼を愛していたわけではなく、レオが国家保安省の人間であることに怯えたため。
レオ自身も彼女の浮気を疑い、彼女に監視をつけたりします。それはまたスターリン体制化の、スターリン自身の深い猜疑心の似姿でもあり。

その関係が、すべてをなくし、ただ正義を、連続殺人犯を追うという道行の中、変化していって。そういうあり方も深くてよかったです。

重いけど、グイグイ読ませてくれる、本当に面白本でした。
その重厚さ、極寒のソ連がとても似合います。
マーチン・クリーズ・スミスのアルカージ・レンコシリーズ(『ゴーリキー・パーク』『ポーラースター』『レッド・スクエア』とか)みたいに。

ラスト、アクロバティックに収まりました。シリーズ化できそうな部分も残して。
その作者の手腕、唸りました。シリーズ化されるなら読んでみたいと思います。

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