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2008/12/04

『虚航船団』

『虚航船団』(筒井康隆:著 新潮文庫)
読了。本書が今回の帰省~松山行きのお供本でした。

『虚航船団』は20年以上前の作品ですが、出た当時から気になっている本ではありました。
新潮社の「純文学書下ろし特別作品」シリーズでしたか。函入りのゴーカなシリーズの1冊だったかと思います。そのころから気にはなっていたのですが。新聞雑誌の紹介を見ても、なんか前衛的で難解、な感じがして手が出てませんでした。

「どれみっちの穴」(http://www.geocities.jp/kasuga399/)というサイトをよく見ます。アニメネタとかで少々毒のあるマンガを載せているサイトなんですが。そこで『虚航船団』のビジュアル化に挑戦されています(http://www.geocities.jp/kasuga399/oebi_kyokousendan1.html)。完全なマンガ化じゃなくて、ハイライトシーンをちょっとだけやるくらいだと思いますが。

後述しますが、『虚航船団』って、文房具が宇宙船の乗組員やってるという、ビジュアル化不可能なお話と聞いてました。それを女の子の姿で思い切ってビジュアル化するというやりかた、ほんと「思い切ってる」なぁと思って。それで私もようやく食指が動いて、興味が膨らんで、本書に手を出しました。

前衛的で難解で結局放り出すんじゃないかと思っていましたが、さすが筒井康隆、けっこうすらすらと面白く読めました。

(以下ネタバレゾーンにつき)

最初聞いていた話だと、本書は「文房具が乗組員の宇宙船」のお話だと思っていたのですが。
じつはそれは第一章だけのことでした。本書は三章構成になってます。

まず第一章が「文房具」。宇宙船団の中の1隻、乗組員が文房具の「文具船」のおはなし。
文具船に乗り込んでいる文具たちはほとんどみな発狂しています。彼らの描写。そして、文具船がカマキリ戦士の冷凍卵を積んだ冷艦とともに、鼬族の惑星、クォールの住民殲滅の命を受けてクォールへ出発するまでの話。
第二章が「鼬族十種」。その攻撃前のほぼ千年に遡る、クォールの歴史を述べた章です。
そして、第三章が「神話」。文房具たちと鼬族たちの戦いのはなし、です。

第一章「文房具」。まず、まったくビジュアルが想像できません。文房具の乗組員たち、文房具としての属性をそのまま持ったまま、乗組員をやってます。頭が文房具とか文房具に手足が生えたとか、ちゃちな擬人化ビジュアルでは様子が想像できません。まるで『不思議の国のアリス』のチェシャ猫のいないニヤニヤ笑いみたいです。人は小説を読む時、ビジュアル的な想像をするのでしょうか、場面を思い浮かべるのでしょうか。そういう読み方は難しいです。ビジュアルというより概念で読んでいるような。

そして、文房具たちは文具船という閉鎖空間の中で様々に狂っています。これは『男たちのかいた絵』で、様々に心を病んだやくざが主人公の短編作品集というアクロバティックな作品を生んだ筒井康隆らしい感じがします。彼らの狂い方も、現代風な、閉鎖空間、閉塞状況らしい狂い方で、この“現代”という閉塞状況に置かれた私にもシンパシーが持てる狂い方でした。

第二章「鼬族十種」。千年ほどのクォールにおける鼬族の歴史。歴史を淡々と語る語り口。第三章で明らかになりますが、文具船の乗組員のひとりが書いたもののようです。
クォールは流刑惑星だったようです。惑星間流刑が可能なくらいだから、もともとの鼬族はかなり高度な文明を持っているようですが。ただ、どうも、それは流刑された時点でリセットされてしまったらしく、かなり原始的な文化レベルから始まってます。

彼らの歴史もまた、人類のそれのように争いの歴史、戦乱の歴史。好戦的な民族だから予防措置として鼬族の殲滅命令が出たのなら、人類もそういう目に遭ってもおかしくないくらい。

第三章「神話」。文具たちの戦い、鼬たちの戦い。たくさんの視点のオムニバス形式。その視点が改行さえされずに切り替わったり、第一章はモチーフとして前衛的だったのが、第三章では表現手法において前衛的です。時間さえあっちこっちに飛びます。
おはなしが終盤にさしかかると作者まで登場してごっちゃごっちゃになります。

うん、ほんと、放り出すかと思っていましたが、最後まで面白く読めました。これは筒井康隆の筆力かと。それにグイグイ引っ張られたせいかと。下手に筆力の弱い人間がこういうのを書いても最後まで読みきれなかったと思います。
二十年以上気になっていた本ですが、読んでよかったです。

最後に印象的だった一節を。

もともと兄三角定規には狂気からのがれる手段として虚構の世界へ没入しようとする傾向があったから、名が知れ渡っただけで満足してしまうというようなことはなく次つぎと物語を書き綴った。したがって兄三角定規はそれ故にこそ、それ以来ずっと文具船内で比較的正気を保っている数少ない乗組員のひとりであり続けることが可能だったのだ。(73p)

正気を保つために創作を続けるという気持ち、なんとなく解るような気がします。

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