詩稿:「傷口」
先々週末から先週頭にかけて歯痛でのたうち回ってたんですが。ここ数年来の痛い経験でした。
んで、歯が痛くてたまらないとき、机をどんどん叩いたり、身体をどんどん叩いたりして。
あ、そうか、痛くてたまらないときは別の痛みでその痛みをごまかそうとするんだって気がついて。んで、そういった趣向を詩に書いてみました。
どこまでうまく書けたか?詩興ってのはいつも逃げていくもの。いや、逃げる姿さえ見せずに消えてしまうもの?だとしたら最初から詩興なんてなかったのかな?でも、何か捕まえたような気はするんですけどね。
女陰を傷口にたとえるのは陳腐かと思います。だいたいあたしは男だから、女陰は持ってないし、女陰を触らせてくれる奥さんや彼女もいないしね。なんか頭でこねくり回しただけのリクツかもしれませんけど。
ま、おひとつ。
「傷口」
君は傍らの小卓から剃刀を取り上げ、
馴れた手つきで自分の体を切り刻む。
君は痛みを感じるたびに、自分を傷つけて、
その痛みから逃れようとする。
新しい痛みは古い痛みを上書きし、
つかのま君は息をつく。
傷口をひとつ創り終えた君は剃刀を小卓に置き、明りを消す。
そして、新しい傷を受けた裸身を、君は暗闇の中、横たえる。
君の裸身は、無数の傷に覆われ、
もう誰も、君でさえも、どれが最初の傷口か解らない。
でも、同時に、君は知っている。
最初の傷口を見つけられないかぎり、
その傷口を塞がないかぎり、君の痛みは終わらない事に。
そして、新しい痛みを感じるたび、
新しい傷口を増やさなければならない事に。
ふと思いついた君は、明りをつけ、傷だらけの自分の裸身に指を這わす。
この傷は、あの傷のせい、あの傷は、その傷のせい。
そして、君は辿りつく。最初の傷に。
それは、股間にあり、君が生まれる前から受けていた傷。
その傷口を探り当てた君は、苦笑して、小卓から剃刀を取り上げる。
新しい傷口のために。
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