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2008/08/14

『ベイビーの卵』

『ベイビーの卵』(鈴木志保:著 ポプラ社:刊)
読了、コミックスです。
短編集です。未発表の投稿作品から単行本未収録作品など、「鈴木志保のお蔵出し」といった感じの作品が収められています。

何度か書いていますが。

初めて読んだ鈴木志保の作品は『船を建てる』です。もう十何年か前の事です。
本屋さんで目について。でも、私の読書傾向からは外れているなぁ、私が読むのに似合わないなぁと思いつつ。もちろんコミックスですから、ビニール袋に入っていて、中を見ることもできずに、ずっとためつすがめつしていて、立ち去りがたくて。それでえいやっと思い切って買いました。

擬人化されたあし歌…、もとい、アシカたちのお話しでした(“アシカ”がなかなか出てこなくなってる私のIME…)。ロバート・B・パーカーという老アシカが出てきてね。“ロバート・B・パーカー”、あの頃はよく読んでいたレイモンド・チャンドラー系の“ハードボイルド”作家なのだけど。その名前を拝借したらしくて。「あ、これに呼ばれたのだな」と思いました。

その頃は、私がヘタうったせいですが、喪失感にさいなまれていて。その気持ちになんかぴったりはまって、沁みました。

それからぽつぽつと巻を揃えていきました。ほんと、一年以上間が空いて次の巻を買ったりするようなパターンでしたけど。だいたい『船を建てる』の単行本ってなかなか置いてないし、マンが専門書店で探したりしました。そして、全巻揃えて。最後の方、なんか違和感を感じていた部分が、おはなしの背後に隠されていた部分が明らかになって、「このせいだったのか!」と驚いて、涙、でした。

そして、それから最近になって、『ヘブン…』『END&』と読んでいます。ま、その程度なのですが。

さて…

本書は『鈴木志保のお蔵出し』的な作品集だと思いますが。そのぶん、エッセンスや萌芽が散見されるような気がします。

表題作の『ベイビーの卵』。主人公は中学生くらいの女の子(ぶかぶかの制服に埋もれたような姿がらぶりー)。
月経の講習中に倒れてしまうような女の子。『ヘブン…』に通底していると思うのですが。“大人”になることを怖れ、拒んでいる女の子かと。そして、彼女は時の停まってしまった世界に迷い込み。(『ヘブン…』の女の子は“世界の果てのゴミ捨て場”に迷い込みますが、)彼女が迷い込んだのは時間の停まった世界。でも、彼女がその世界で出会ったのは“ベイビー”。彼女はその世界で“ベイビー”を守らなきゃいけないと、“母”のように。そういう読み解き方でいいのかどうか解らないのですが。

本書には『ヘブン…』の短編版も収められています。長編版の前身版とか。
本作では主人公の女の子の母親の幻影が出てきます。巨大で、壊れかけた人形のような、朽ちて骨になりかかっている死体のような。

それはたぶん、彼女から見た“大人”の姿。

巨大さは、「私はああはなれない」という彼女の気持ち、壊れかけた、骨になりかかった姿は、「大人は醜悪」という気持ちなのかな。ほんと、低レベルの読解と思いますが。

短編版の彼女は包帯でグルグル巻きの姿。まるで筋肉少女帯の歌、『何処へでも行ける切手』の少女のように。
彼女が包帯姿なのはたぶん、“大人の男”の姿のネズミにかじられたせい。

そして、彼女は大人になれないことで自己否定をしていて。それで彼女はゴミ捨て場に身をおいていて。
「お母さん/お母さん!」
「どうしてなんにも/言ってくれないの?」
「あたしが」
「ゴミだから/かなあ?」

ゴミ捨て場にやってきたおばあさんが言います。おばあさんだから、お母さんよりさらに上位の存在でしょうか。
「もし世界にオマエの居場所なんかなかったら」
「無けりゃつくりゃあいいじゃないかね」
「川でも」「橋でも」「運河でも」
「ユーラシア大陸でもさ」
彼女と、彼女を傷つけていたはずのネズミは手に手をとって。青空。
(ここらへんは『船を建てる』に通じるスピリッツですね)

いや…。

本書の腰巻に「可愛くて、残酷で、強く儚く、美しい世界。」とありますが、「残酷」はちょっとニュアンスが違うと思うのです。それは、鈴木志保が残酷なのではなくて、「世界」が残酷なのだと思うのです。

前にも書いたけど、鈴木志保は“ハードボイルド”なのではと思ってます。ロバート・B・パーカーというキャラがいたせいかもしれませんけど、その印象がずっと残っているせいかとも思うのですが。

ロバート・B・パーカーはレイモンド・チャンドラー系の“ハードボイルド”作家だと思いますが。その、レイモンド・チャンドラーの『プレイバック』に"If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive."という台詞があります。「厳しくなければ生きていけない、優しくなければ生きていてる甲斐がない。」というような意味だと思いますが。

私は、“世界”そのものが残酷だと思っています。どうやら私は基底欠損領域(世界に対する「基本的信頼感」の欠如だそうですが)を抱え込んでいるようですが、そのせいかもしれませんが。だから、"If I wasn't hard, I wouldn't be alive. "かと。厳しくなきゃ生きていけないと。でも、"If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive."ですよね。優しくなけりゃ生きている甲斐がありません。その危ういバランスが人生かと、人生の醍醐味かと。

いやいや…。いろいろとっちらかっちゃいましたけど。

面白く読みました。鈴木志保初読の方にはどうかな?やっぱり『船を建てる』がお勧めなのかしら。よくわからないけど。でも、本書も面白く読みましたし、お好きな方にはお勧めできると思います。

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