『ブラッドハーレーの馬車』
『ブラッドハーレーの馬車』(沙村広明:著 太田出版:刊)
コミックスです。全1巻。読了。
沙村広明作品は去年、イラスト集『人でなしの恋』を買いました。それから先日ヴァニラ画廊での『人でなしの恋』原画展にも行きました。コミックスならまず代表作の『無限の住人』を読むべきなのでしょうが、本書から先に手を出しました。1巻ものだから手軽かと思ってね。
『人でなしの恋』の私の感想は
http://buff.cocolog-nifty.com/buff/2007/01/post_d99b.html
にて。その責め絵の世界、私の琴線のどこかに触れました。
ただ私はリアルなスプラッタは苦手です。スプラッタ映画とか見られません。
『人でなしの恋』はモノクロの、責められ、シュールを、“非現実”を、感じさせるくらいに歪まされた、しかし“二次元”的にはリアルな感じのイラストだから魅かれたのだと思います。
これが“三次元”的なリアル指向のカラーイラストだったり、特殊メイクやSFXだったり、あるいはほんとうのそういうシーンだったら退いたと思います。
筒井康隆の短編『問題外科』は大興奮して読みましたし(オカズにした事もあります)、友成純一のスプラッタ小説をゾクゾクしながら読んだりしたこともあります。しかし、ほんとうのリアル指向はダメ、そういう感じであります。
さて、『ブラッドハーレーの馬車』ですが。
あとがきによると舞台は特定してないようですが。爆撃用の飛行船が出てくるのを見ると、だいたい第1次世界大戦ころの英国あたりがモデルのようです。
ブラッドハーレー卿。この国第4位の資産を有する公爵家。貴族院議員。
しかし、それよりも、「ブラッドハーレー聖公女歌劇団」のオーナーとして有名。
「ブラッドハーレー聖公女歌劇団」、孤児院から集められ、ブラッドハーレー卿の養女となった少女達の歌劇団。
「ブラッドハーレーの馬車」とは、歌劇団から団員に選抜された少女を孤児院に迎えに来るブラッドハーレー家の馬車。しかし、その実態は…
(以下ネタバレゾーンにつき)
ブラッドハーレー卿から贈られた素敵なドレスを身にまとい、期待に胸を膨らませて迎えの馬車に乗りこむ少女達。
しかし、ほんとに歌劇団に入団するのは一握りの少女達。ほとんどの少女はその馬車に乗ったまま、刑務所に送り込まれ、無期懲役囚をなだめるための慰み物にされる運命。大勢の囚人に陵辱される少女たち。陵辱だけではなく、慰み物に責めさいなまれ。指を折られ、乳首を毟りとられ、目玉を抉り出され。少女達は死んでいきます。
その設定を軸に様々な人間模様を1話完結の短編形式で描いています。
う~ん、物語としてはどうかなぁ。「巻を措くあたわず」というほどではかなったですが…
いやストーリーよりも何よりも、私は沙村広明の描く“少女”たちの風情、雰囲気が好きなのです。どこか魅かれます。それはダークサイド感覚、あるいは“ゴ ス”感覚を刺激する、少女たちのような気がしますが…。ちょっとだけ“ゴス”イベントとかも行ってますけど。あぁそうだ、桜庭一樹の世界にも通じる少女達 のような感触がします。
至福のときから一気に奈落の底に落とすような酸鼻を極めるこの世界観。
吐き気のしそうな嫌悪と、クラクラと魅かれる感覚が同時にします。
『ブラッドハーレーの馬車』では、殺された少女達は、天使となって屋敷の大広間の天井画として描き加えられるようです。『人でなしの恋』の原画展は「娘たちへの贖罪」というタイトルでありましたし。少女達を自分から凄惨な目に遭わせて、天使に描いたり赦しを請うたり。そこらへんの感覚が沙村広明世界を理解する何かのキーのような気がしますが。それは良く理解できません。ただのエクスキューズかもしれないけど。
少女たちを傷つけて悦ぶ部分と、傷ついた少女たちをかわいそがる部分、それが同居しているのでしょうか?最強のエゴ?
それとも、自らの裡の獣性を抑えきれず、気がつくと彼女たちをその牙の贄にしてしまう哀しみ?愛していたはずの少女、しかし気がつくと自らの手でズタズタにされた少女が目の前に横たわっている、と。
『ブラッドハーレーの馬車』、まったくおススメはできません。たぶん、“普通の人”が、正気を嘯く普通の人が本書を読めば、最初の数話で嫌悪感を感じて読み進められないかと。
しかし、妙に魅かれてしまうようでしたら…
ただ、その性向は秘めておいて、けっして表には出さないように…
人は心に闇を持つもの、時として闇に魅かれてしまうもの。
そしてそれは“二次元”に閉じ込めておかなければいけないもの。
けっして“三次元”に持ち出してはいけないもの。
それを解る方にだけ本書をおススメします。
ところで、カバーを外すと本書の表示は銀色ですし、『人でなしの恋』もカバーは銀色でした。沙村広明は銀色がお好きのようです。
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