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2008/03/15

桜庭一樹『少女には向かない職業』

『少女には向かない職業』(桜庭一樹:著 創元推理文庫)
読了。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』に続き、私にとっては2冊目の桜庭一樹の本です。
まず直木賞受賞作の『私の男』あたりを読むべきでしょうが、まだちょっとどう考えたら良いか解らないので、文庫にしました。桜庭一樹の本を読んでいると、部外者の中年男である私が、ふらふらとゴシック&ロリィタイベントに紛れ込んでしまったような心持ちがするので。

『私の男』が直木賞を受賞した時の、選考委員であった北方謙三さんのコメントが面白いです。
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080116/acd0801162125005-n1.htmより)

「桜庭作品は人間は書けていないし、リアリティーもない、細かいところの整合性もおかしなところが多々あって、反道徳的、反社会的な部分も問題になったが、非常に濃密な人間の存在感があって、ほかの2作品に比べるとわずかながら上をいくことになり、あえてこれを受賞作として世に問うてみよう-という結果になった。

 9人中、桜庭作品だけが過半数に達した。こんな作品を世の中に出していいのかという論議もあったが、それも覚悟してあえて受賞作とした。選考委員のほとんどが桜庭作品に作家的な資質を感じてしまった。こういう世界も書ける作家的才能の豊かさというか、これまでの文学になかったもの、選考委員会が知らなかったものを持っている。次に何がでてくるか分からない作家の、とても不思議な作品だった。われわれは大きなばくちを打ったのかもしれないが。」

何か、桜庭一樹という、あるいは桜庭一樹が代表する、ある種の新しい「才能」というのに触れた北方謙三さんの戸惑いというものが現われているような気がします。
私もどちらかというと北方謙三さん側の人間であります。デビュー当時の北方謙三さんの作品は出るが早いかそく買って読んでいました。第1回だったか第2回だったかは忘れましたが、日本冒険小説協会全国大会で北方さんと撮った写真が宝物でした。ずっと財布に入れていました。数年前、財布ごと失くしてしまったのが痛恨の極みですが。
北方謙三さんも最近は読まなくなってしまっていますが。

さて、本書は。

舞台は下関の島。たぶん彦島あたりがモデルと思いますが。ただ、彦島は本書に出てくるような自然の豊かな島っていう印象はありませんが。どうだったかなぁ。もう憶えてないや。さんごは無いと思いますが…。

主人公は大西葵、13歳で中二。母親と義父(「血は繋がってないよ。ここ重要」)と三人暮らし。父親は漁師だったけど、仕事で怪我をしてからは家にいて、呑んだくれのアル中。心臓病。母親が水産加工場で働いて、家を支えている、と。

葵はある日、ふとしたきっかけで同級生の宮乃下静香と仲良くなる。学校では図書委員の目立たない静香。しかし、学校を離れた彼女はゴスロリドレスを身にまとう、一風変わった女の子。

アル中の父親を抱える葵、なにやら複雑な家庭の事情を抱える静香、ふたりの女の子の夏から冬にかけてのお話です。

(以下ネタバレゾーンにつき)

本書も『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』と同じく、悲劇的な結末が最初にごろんと提示されます。その、避けられない結末に向かって進んでいく物語。

葵に暴力を振るい、葵のなけなしのバイト代まで酒代にしようとする義父。
つらい毎日に疲れ、葵に当たる母親。やりきれない日常。

葵は静香の助言によって、義父を殺そうとします。裡にある「バトルモード」を発動させて。

結局、葵の義父は死にます。葵が殺したというより、病気の発作に苦しむ父親の薬を隠して、見殺しにするという形。あたしだってそういう義父だったら見殺しにするかと思いますけど。しかし、人を殺したという自責の念が、葵には重くのしかかってきて。
そして、義父殺しに加担した見返りに、こんどは自分の殺しに協力してくれと頼む静香。

静香が殺したい相手とは?そして、ミステリアスな静香の秘密とは?というお話。

ゲーム場面が出てくるのが好きです。私もゲーマーだし。あの、鬱屈した十代後半からしばらく、ゲームセンターがいちばん和む場所でした。私は葵みたいにゲーム仲間の、そして、葵自身も気がついてないだろうけど、秘かに恋心を抱いている異性はいませんでしたけど。私は独りでゲームしてました。

あの頃、「ドルアーガの塔」っていうゲームがあって。なんか攻略がとても難しいゲームみたいでした。その攻略を考えるゲーム仲間のサークルみたいなのが行きつけのゲームセンターにできて。彼らがわいわいゲームを研究しているのを「ケッ!」と見ていたのを思い出します。

あ、それと、鎌倉への修学旅行の場面で、山海堂というお店をモデルにしたらしいお店が出てきます。刀剣類の模造品を置いてあるお店ですが。今度鎌倉に行く機会があったら覗いてみたいと思ってるお店なので、面白かったです。ま、今なら秋葉原に同じようなお店があるみたいですが。

中世やファンタジー世界の武具を模した、刃のついてない武器たち。私だったらハンズでナイフやナタや斧を買うでしょうが。これも「砂糖菓子の弾丸」かもしれない。ま、大ぶりの刀剣や斧の模造品なら、刃がついてなくても鈍器として十分使えるでしょうし、刃のついてないナイフも先が尖っていれば刺突には使えるでしょうが。

旧軍の施設が出てきます。実は母方の祖父は、軍隊に入って下関で高射砲陣地を造る仕事をしてたみたいですが。作中モデルになった場所が実在するなら、それも祖父がやった仕事かなぁ。

しかし、桜庭一樹の作品には不思議に惹かれます。読みさしで放り出してるこの冒険小説、あの探偵小説を差し置いて、一気に読んでしまいました。

巻末の解説は杉江松恋という方がお書きになってるんですが、ちょっとだけですが、寺山修司への言及もあって、おっと思いました。やっぱりどこか繋がってるのかもしれません。

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