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2008/01/23

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A  Lollypop or A Bullet』(桜庭一樹:著 富士見ミステリー文庫)
読了。桜庭一樹、今回の直木賞受賞作家ですね。

先日、お世話になってる映像作家の かわなかのぶひろ先生とちょっと呑む機会がありました。米子からお見えになったかわなか先生の昔の教え子さんという方もいらして。で、その昔の教え子さんが「“さくらばかずき”はいいですよ。」って話を伺って。ま、ほんと酔眼朦朧中の会話だったのでよく憶えてなかったのですが。でも、“さくらばかずき”という名前は憶えていて。翌日ググってみました。

“桜庭一樹”という名前の小説家が見つかりました。ウィキペディアの桜庭一樹の項によると桜庭一樹は米子出身の方だそうで。で、あ、この人の事かなと膝を叩きました。その教え子さんとの関係はよく解らないのですが。同郷というくらいか、同級生とか先輩後輩とか。それとも別方面の友人でいらっしゃるか。

で、桜庭一樹を読んでみようと思って。いろいろ調べてみたら本作は文庫ですし、手ごろな感じなので、試しに読んでみようと思いました。AMAZONから本書が届いたのと同時に桜庭一樹の直木賞受賞を知って驚きました。

いや、本音を言えば佐々木譲さんか馳星周さんが受賞して欲しかったのだけど。

届いた本書を見るとライトノヴェル系の作品みたいです。“ライトノヴェル”ってなんだかあまりよくは解ってないけど。出版社が普通の文庫や新書小説と違うレーベルで出していて、表紙とか挿絵とかアニメ風の絵の、若い人向けの小説、というくらいの認識しかありませんが。じゃ、ジュヴナイルとどう違うの、とかよく解りませんが。

本書の表紙も、登場するふたりの少女がゴスロリドレスを着て抱き合ってる姿が描かれていて、カラー口絵があって、本文中もアニメ調の挿絵があります。(実はそういうほんわかイラストには似合わないお話しだけど)

舞台は日本海側の海沿いの小さな町。たぶん、桜庭一樹の出身地の米子あたりの町がモデルかな?

主人公は山田なぎさ。13歳、中二。父親は漁師だったけど、ある突然の嵐の日、遭難して死んでしまって。今は母親がスーパーのレジ係をして生計を立てて、そして彼女が食事の用意とか家事をしています。4歳上の友彦という兄がいるけど引きこもり。怪しげな通販に一家のわずかな稼ぎを無駄遣いしています。なぎさは中学を卒業したら自衛隊に入って稼いで、一家の生活を支えようと決心しているようです。

9月の3日か4日ぐらい、彼女のクラスに転校生がやってきます。海野藻屑。アニメとかでは「登場人物が変な名前でも突っ込まれない」法則というのがあると思いますが、本書ではその名前、思いっきり突っ込まれます。

藻屑、不思議な女の子。自分を人魚だとクラスのみんなに自己紹介します。ペットボトルのミネラルウォーターを離さず、いつもグビグビ飲んでます(糖尿なのか?)。ぼくっ娘、美少女。そして毒舌家。その毒舌が“砂糖菓子の弾丸”、“現実”を撃ちぬけずに溶けて消えてしまう弾丸。

本作は海野藻屑がやってきてからの1ヶ月間のお話し。

本作は最初スラスラと、中ごろはページを繰るのが苦しくなってきて少しづつしか読めなくなって、そしてラストは目が離せなくなってグイグイと読みました。気がついたら思わず降りる駅を乗り越していて、久しぶりの「乗り越し本」でした。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』。救いのないお話しですし、読む人を選ぶ本かと思います。でも、ある一部の人にとってはとても感銘を受ける作品かと思います。
あなたがもしそうでありましたら、ゼヒ。

さて、お話は…。(以下ネタバレゾーンにつき)


本作は冒頭いきなり海野藻屑がバラバラ死体で発見されたという新聞記事から始まります。10月4日に。

だから、山田なぎさと海野藻屑が出会ってから、藻屑がバラバラ死体になるまでの1ヶ月間のお話しなんです。また、途中途中に藻屑の死体を心当たりの場所に見つけに行くなぎさと友彦の描写も挿入されます。

海野藻屑は父親の海野雅愛(まさちか)とふたり暮らし。母親は離婚して不在。雅愛は元流行歌手、今はVシネとかに出てるようです。表向きの暮らしはお金持ちのセレブな暮らし。
しかし、藻屑は雅愛に虐待を受けていて。藻屑の制服の下は痣だらけ。虐待のせいで足もびっこになってしまっています。そしてとうとう父親に殺されてバラバラにされるのだけど。

藻屑が自身を人魚だと主張するのも、このやりきれない“現実”から“虚構”の世界に逃れようとしているからだと理解します。

やりきれなかったです。それは藻屑が虐待を受けているということ自体よりむしろ、藻屑がそういう父親でも愛していて、それを受け入れていたという事。ひょっとしたら殺されてしまう事も受け入れていたのでは。

「ぼく、おとうさんのこと、すごく好きなんだ」
「好きって絶望だよね」(59p)

藻屑となぎさが通じあえたこと。友達になれたこと。それは。

なぎさも引きこもりの兄を責めるでなく、逆に、兄を「神の視点を持つ貴族」と思ってそんな引きこもりの兄を受け入れようとしていて。そして、中学を卒業したら自衛隊に入って一家を、兄を支えていこうと決心していて。
たぶん、ふたりはそういう部分、自分にとってダメ人間な存在をかえって“受け入れよう”としていたという部分において、通じ合えたのかと思います。

「ねぇ、山田なぎさ」
「なに……?」
「子供に必要なのは安心、って、担任が言ったんだよね?」
「うん」
「だけど、安心って言葉の意味、わかんないね」
「そだね……。あたしもわかんないや。安心できたら幸せなのかも、わかんない」
「うん……。だけど、いつか」(179p)

なんか、やりきれないです。虐待を受けている側が虐待する側を愛すること。その機微もある程度は理解しますが…。業田良家の『自虐の詩』なんかも好きですし。
そして、世にはそういう関係に陥っている人たちもたくさんいると理解しています。逃れにくい親子関係や兄弟関係ならいざ知らず、逃げようと思えば簡単に逃げられそうな男女関係においてさえ。それは人としての“業”かも知れません。

しかし、虐待している海野雅愛もまた、哀しい人物です。なぎさの描写によると、

凶暴で、
どこか狂っていて、
だけど弱い(53p)

人物。

いや、相手の“弱さ”を認め、受け入れる事が“愛”だとしたら、自分に暴力を振るう父の“弱さ”を認め、暴力どころか殺される事さえ受け入れる藻屑、引きこもりの兄の“弱さ”を認め、受け入れ、兄を養っていこうと決心するなぎさ、ふたりこそほんとうの「愛の人」なのかもしれませんけど。

でも、そう考えるのもやりきれないです。
あぁもう藻屑を引き取りたい、引き取って思いっきり可愛がりながら暮らしたいです。

ただ、ラストの、藻屑の死体が見つかるシーン、そのシーンが出てくるのにドキドキしてきて、藻屑の死体が見られるその直前、寸止めされそうなのに一瞬あれっときたのも認めます。そういう部分が自分にもあるって認めます。

また、私もそういうDVや引きこもり世界の人間になる素質があると思っています。DVを扱った馳星周さんの『楽園の眠り』やジャック・ケッチャムの『隣の家の少女』もゾゾ毛を立たせながらもグイグイ読んだし。

私はおかげさまで恋人とか家庭とか持てなかったけど。もし持ったとしたら恋人や家族に暴力を振るう人間になっていたでしょうか?それはほんとに持たないとわかりませんが。でも、ひょっとしたらそういう人物になるかもしれないなぁと自分を畏れている部分もあります。
たぶん、ある程度は私もこの世界の住人に近い部分を持っていると思います。

ま、雅愛や友彦みたいなイケメンキャラなら暴力を振るったり引きこもりでも、それを受け入れてくれる女性が現われるでしょうが。あたしみたいなキモメンならまずそんな事はないしね。それはよい事なのでしょう…。

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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない―A Lollypop or A Bullet 桜庭 一樹 このテのタイトル、なんか気になってしまうのだわ。 ってことで、甘くてハードボイルドでそして長いタイトルで選んだ一冊。 昨日読んでたのが、なんともアタシの思考能力では理解不能なものだったため、これもまぁ適当に読むつもりで開いた。 殺人事件だ。しかも最初のページで結末が登場するというパターンの。 そしてこの結末を示す冒頭部分から、1ヶ月さかのぼったところから、物語が始まる。 出てくるのは13... [続きを読む]

受信: 2008/02/19 14:05

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