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2007/09/21

『END&』

『END&(エンドアンド)~鈴木志保自選単行本未収録作品集~』(鈴木志保:著 WAVE出版:刊)
読了。コミックスです。副題にあるように鈴木志保の自選単行本未収録作品集だそうです。

何度か書いているけど、最初に読んだ鈴木志保の作品は『船を建てる』でした。もう10年以上前になります。本屋さんで見かけて、まぁ、私の読むような世界の本じゃないっぽかったんですが、なんか呼ばれたような気がして、気になって仕方なくなって買った本です。

擬人化されたアシカたちの物語でした。で、物語にロバート・B ・パーカーっていう名前の老アシカが出てきてね、別に探偵小説を書いてるって訳じゃないけど。あ、これに呼ばれたのかなぁと思いました。あのころはロバート・B・パーカー、新刊が出るたび読んでた大好きな作家だったし。

ちょうどそのころ、ちょっと悲しいことがあって。その気持ちにもぴったりだったから、はまって。ボツボツと揃えていきました。途中からなんか変なシーンが挟まるようになって、あれあれと思っていたら、最終巻、その「船を建てる」世界の舞台裏が明かされて、涙。でありました。

ネットを始めたころ、「船を建てる」で検索してもほとんどヒットがなかったけど、近年はお好きな方がいろいろお書きになっていて、嬉しい限り。どうやら『船を建てる』は絶版になっていたようですが、最近復刊したみたいで、これもまた嬉しい限りです。

鈴木志保の作品は独特のタッチであります。詩的というか、スタイリッシュというか、普通のマンガのコマ運びとはまったく違う大胆で繊細なコマ運びです。小さなコマのちょっとした描写を読み落とすと???となる作品です。ただでさえ漫画読みのリテラシーのない私にとって、読むのはちょっと大変なのですが。

その作品を読んでいると、何か不思議な「かなしみ」を感じます。懐かしい、どこか暖かみもあるかなしみというか。『船を建てる』に出会った時、そのかなしみに感じ入って読み進むようになったのですが。

『END&』に収められた作品は、
「END&」、
「ロータス1-2-3」、
「たんぽぽ1-2-3」、
「たんぽぽ1-2-3 主よ人の望みの喜びを」、
「テレビジョン」、
「チルダイ」、
「DONADONA」、
「受胎告知」、
の8作品です。
「END&」、「DONADONA」、「受胎告知」はカラー。
「END&」は書き下ろしです。

「END&」は『船を建てる』世界の後日談といったお話。後日談といっても百年後、しかも百年前のお話。『船を建てる』の登場人物たちは出てきませんし、「END&」の登場人物たちも今はいない。
『船を建てる』のテーマをぎゅっと凝縮した感じ、あるいは解題というお話です。

「ロータス1-2-3」、「たんぽぽ1-2-3」、「たんぽぽ1-2-3 主よ人の望みの喜びを」は、擬人化された子猫みたいな生き物、鈴木志保の巻末の解説によれば“こにゃこ”のノラが主人公のお話。そう言えば、ロータス1-2-3という表計算ソフトがありましたな。
「ロータス1-2-3」。死んでしまった飼い主のおじいさんを探すノラの姿。おじいさんのシーンに入ったとたん切れてしまったヴィデオテープ。そういう切なさ。

『船を建てる』を十年くらい前に読了して。最近また興味を持って『ヘブン…』を読んで、それから本書を読んだんですが。

それでやっと気がついたけど、鈴木志保って“ハードボイルド”じゃない?
だからロバート・B・パーカーってキャラクターも出せたのでは?

"If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive."(レイモンド・チャンドラー『プレイバック』)

"If I wasn't hard, I wouldn't be alive. "
生きることは、戦うこと。
失い、時には失わせ。奪い、時には奪われ。
それを受け入れること。逃げずに、ない振りをせずに、それを受け入れ、それに耐えて生きること。

"If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive."
しかし、時に優しくなくては生きている甲斐がない。

人の世は厳しくなくては生きていけないし、優しくできなければ生きている意味がない。その二律背反の危ういバランスの中、生きていかなくてはいけない。その危うさこそが生きていくことの難しさであり意味じゃないかしら。

『船を建てる』、最後に明かされる悲しい出来事。しかし、世界はまだ続いていく。「END&」にあるように、新しい花が咲く。
『ヘブン…』、“少女”を失う事を畏れるあまり、世界のはてのゴミ捨て場にたどり着いた少女。しかし、いつしか彼女は失う事を受け入れ、人生を先に進めることを決意する、と。
そういう意味では本書に収められた「ドナドナ」は、『ヘブン…』のテーマをぎゅっと濃縮した作品かと。
「ロータス1-2-3」はその鈴木志保さんのテーマを明確に表した作品かと思います。

ただ、鈴木志保さんのそのテーマは、個のレベル、個の命を超えているんですよね。だから、個のレベルでの「苦あれば楽あり」という感じじゃない。例えばそれは「受胎告知」に出ているように思われます。

壮大な感じがします。また逆に言えば、それが鈴木志保の世界を受け入れられるかどうかになるのですが。つまり、「今は嫌な事ばかりでも、いつかいい事があるよ」というようなレベルの慰めではない、と。それはつまり私の死後に咲く花であるかも知れず。“私”が慰められなきゃヤダというのでしたら、ちょっと受け入れるのが難しいかもです。

「失うこと」のいたみを、かなしみを、優しく、美しく、しかしどこか「それはしかたのないこと」と厳しく、胸の深いところに響くようにうたいあげ、しかし、「それでも花は咲くよ」と続ける。それが鈴木志保のタッチではないかと思います。

う~ん、どうかなぁ、あたし自身鈴木志保の世界をどれだけ読み解いているか自信がないと思うし、好みが分かれる作風だと思いますが。でも、私的にはおススメです。
あたしが読むには似合わないと思いつつも…。

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