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2007/07/17

『銭』

『銭』(鈴木みそ:作 エンターブレイン:刊)
コミックスです。現在連載中?で5巻まで出ていますが、5巻まで読了。

先日、声優事務所の社長が声優志望の16歳の少女と、「声優として採用してあげる」とナニをして、淫行で捕まったそうです。それからしばらくの間、声優の“枕営業”の話題でアニメ関係の掲示板は炎上していたようですが。
そんな折、この作品の一部が紹介されました。声優業界を扱った一編で、『まくら営業』を持ちかけてくるアニメプロデューサーがその社長そっくりだというので、作者はその件を知っていたのでは?という話でした。んで、いろいろ本作が紹介されているのを見てるうち、読みたくなってきた次第。で、買ってみました。

昔、15年くらい前まで『ファミコン通信』を買っていました。『銭』の作者の鈴木みそさんも執筆していて、おなじみの方です。いや、ほんと、鈴木みそさんの作品を読むのも久しぶりだけど。

教育テレビみたいな、お姉さんと男の子(それから途中で女の子も加わります)がいろいろな業界の“銭”にまつわるあれこれを見てまわるって趣向。三人とも幽霊ってのが面白いです。
ただ、男の子と女の子の幽霊は、完全に死んじゃったわけじゃなくて。生死の境をさまよっていて、ふと気がつくと幽体離脱していたというかたち。たぶん、クライマックスになるとふたりの生死が大きなエピソードになるのでしょう。
話はルポルタージュ形式じゃなくて、物語形式になってます。あるエピソードがあって、それが進行していって。そして時折うんちく話も挟まれるという感じ。

この、ナビゲーター役を幽霊が務めるというのがまさに“ミソ”でしょう。

登場人物に見えない状態、霊媒体質の一部の登場人物に見られる状態、そして、気力を集中して登場人物にメッセージを送る状態。オールマイティです。 ご都合主義とも言えますが。でも、そのおかげでお話に幅ができてます。お話の流れを彼らが誘導する事も、傍観者として起こった事を眺めてるだけという事も ありです。そういったご都合主義を受け入れられるかどうかがポイントかなぁ。

(以下ネタばれゾーンにつき)

アニメの話。アニメの動画パートが「原画」と「動画」に分かれてるなんて知りませんでした。
コンビニの話。コンビニのフランチャイズ料とかのあくどさの話も見かけた事がありますが。
しかし、さらにあくどく、ライバル店を潰すために赤字覚悟で“噛ませ犬”みたいな出店をするとも聞きましたが。
同人誌の話。同人誌がいかに儲かるかという話。そういうのって時々見かけたりしますが。
カフェの話。カフェの経営にまつわる内装工事費とか原価の話より、そういう水商売のお店に群がってくる、「家相が悪い」とのたまう自称霊能力者や経営コンサルタントの胡散臭さが面白いです。たぶん、水商売やってるとそういう手合いもやってくるのでしょう。

メイド喫茶の話。新スタイルのメイド喫茶をつくろうとして、最後に行き着いたところが「好きな本の話ができるメイド喫茶」だそうです。そのオチに笑っちゃいました。それなんて深夜+1?ま、向こうは探偵小説とか冒険小説じゃなくて、ライトノヴェルとかコミックなのでしょうが。でも、好きな本について語れる場ってのはいいですね。つうか深夜+1にメイドを入れて欲しいわぁ…、なんて書くと会長の“教育的指導”がオトロシイ。

声優業界の話。これも声優さんたちのシステムというのが判って面白かったんだけど…。登場人物のひとり、声優の駆け出しと卵の中間ぐらいの人が“まくら営業”をします。
枕営業。うぅむ…。私は…。

「デビューしたい!」って切実な人の気持ち、分かります。というか、“分かる”なんて軽々しく口にする資格はないって思うくらい分かります。そういう気持ちの人が、枕営業を持ちかけられたら…。うぅむ…。私に批判する資格はないです。

枕営業に応じた声優志望の女の子、無事にデビューを果たし、アイドル声優への道をたどり始めます。声優仲間からは「枕営業」の陰口を叩かれながらね、でも、ファンにはばれていません。そして、もうメジャーになって。そのプロデューサーとの関係も必要なくなったら、策を弄してそのプロデューサーとの関係もスパッと切ります。ま、そのくらいのしたたかさも必要なのかなぁ…。

いや、“枕営業”したアイドル声優たちに激高するアニメファンたちの気持ちもわかります。もう私は「アイドルは虚像である」くらいの分別はついている年齢ではありますが。でも、その“虚像”を自我の支えとしていってる人たちの気持ちも分かります。虚像、つまり、この世ならざるもの、それはつまり神なき社会の“神”でもあって。ま、だから、人は神にはなれないんだけど。三次元は裏切ります。二次元は裏切りませんが。

唾棄すべきなのは枕営業を持ちかけてくる連中、なのでしょう。でも、そういうのに、自分の地位を利用して若い子を抱こうと血道をあげる姿には、一抹の哀れさが漂います。

本書のお話はだいたいきれいにまとめ上げてられます。バッドエンド、鬱エンドはありません。カネにまつわるドロドロだけど。そこらへんがちょっと弱い部分でもあり、安心して読んでいられる部分でもあり。

5巻の後半はエロ本業界の話、途中まで。フォトショップで小じわどころか乳輪まで修正するそうです。そこまで行っちゃうと三次と二次の境界はあいまいですな。
全ては虚構、か…。

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