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2007/04/12

ヘブン…

ヘブン…(鈴木志保:作 秋田書店:刊)
読了、コミックスです。
鈴木志保(http://shihosuzuki.com/)さんの作品は、以前、『船を建てる』を読みました。

いつもお世話になっている日本冒険小説協会・内藤陳会長は、本屋さんに行くと面白本が浮き上がって見えるそうです。私はそういう神通力はないけれど、時々「本に呼ばれる」事があります。本屋さんで見かけて、なぜだか理由が分からないのに、妙に気になって仕方がなくなって、買って開いてみて「あぁ、そうだったのか」と思うような本。

そういう本はコミックスに多いです。普通の本なら呼ばれるのに気がつく前に手に取って開いたりしますが。コミックスはビニールがかけられているので、中身は分からないけれど、でも気になってしょうがない気分がして、買ってしまったりします。
登場人物の年齢がそのときの自分と同じ、ってのは何度かありました。まぁ、それは偶然の一致としてはありがちでしょうが。しかし、ある少女向けホラーマンガ短編集なんか、ヒロインが母親と同じ名前でした。それにはちょっと驚きました。

『船を建てる』も書店で見かけて、妙に気になって仕方がなくなった本でした。表紙の擬人化されたアシカのイラストは可愛かったんですが。でも、表紙からはオサレな匂いがして。そのオサレな感じがどうも私のテイストではなかったんですが、なんか立ち去りがたく、買ってしまいました。
読んでみると、登場人物(アシカですが)のひとりがロバート・B・パーカーという名前でね、そうか、そのせいかと膝を叩きました。別に小説書いてるアシカじゃなかったけど。
しかし、最近ロバート・B・パーカーも読んでないなぁ。

あのころ、色々あって、ひどく落ち込んでいました。その気持ちに『船を建てる』の語り口がぴったりとはまって、何度も何度も読み返しました。そしてぼつぼつと買っていって、6巻ぜんぶ購入しました。マンガ専門店とかで探さないとなかなか見つからない本だったのですが。

『船を建てる』は擬人化されたアシカや動物たちの物語です。ほんと、スタイリッシュな作品。コマ割りとかもアートちっくに凝っていて、語り口も詩というか、多くを語らない事で多くを語っていて。あたしみたいなマンガ読みの力の弱い人間は、コマを追うのもお話を追うのもちょっと大変でしたが。
アシカの名前にロバート・B・パーカーとつけるとか、ペダンティックな部分がちょっと気になりますが、でも、それは作品世界と不可分のような感じ。

その作品の根底にあるのは哀しみ、だと思います。喪うことの哀しさ。いや、哀しい気分のときに読み始めたから、そういう印象がついてしまったのかもしれませんが。そして、その哀しみを包み込むような静かな優しさ。そういうのを感じました。

『船を建てる』の後半ぐらいから、ちょっと違和感のあるシーンが現れてきます。
そしてラスト、なぜ『船を建てる』の世界が生まれたか、その謎解きがあって。
泣きました…。

『船を建てる』を読み始めたとき、ネットで『船を建てる』を検索してみたんですが、数えるほどしかヒットがありませんでした。それもほとんどは本のリストみたいなもので。感想っぽいのはほとんどありませんでした。今では『船を建てる』で検索すると、たくさんの感想が読めます。嬉しい事です。しかし、『船を建てる』はただいま絶版中だそうですが…。

そして、『ヘブン…』。

(以下ネタばれゾーンにつきご注意)

そこは世界の果てのゴミ捨て場。
女の子がひとり、ゴミ捨て場の番人として暮らしています。黒いミニのドレス、ドレスの裾は煙のよう。それに穴だらけの日傘。そして、その女の子とぬいぐるみたちや小動物たちの紡ぎだす物語です。捨てられたぬいぐるみたち。

ああ、そうか。あの子はもういないのね。
大人になったり死んじゃったり
何千何万何億の
失われた小さな子供たち…
(24-25p)

失われた小さな子供たちの、捨てられたぬいぐるみたち。

作品のテーマについては、あとがきの鈴木志保さんの言葉が全てを語っているような気がします。

スターオブベツレヘム。「痛みと悲しみを癒し慰めるもの」。その花のエッセンスには悲しみを和らげ癒しをもたらす効果があり、創造的な解決方法に対して心を開き、新しい思考回路に導く。
だ、そうです。(「あとがき」)

本作もそう、スターオブベツレヘム。底に痛みと悲しみが流れていると感じます。

私は好きよココ。
すべてはもう終わったもので
なんにも
わたしを
傷つけないもの
(160-161p)

そしてその痛みと悲しみを鈴木志保さんのペンが優しく包み込み…。

たぶん、女の子は、子供と大人のあいだのエアポケットに入りこんでしまっていて。
“少女”は失われるもの。それが受け入れがたく、女の子はゴミ捨て場に落ちてきて。
しかし、やがて、その女の子は大人になることを受け入れて。

せかいはかなしいことばかり
だから いっぱいにしなくちゃ!
かわいいもので
(ワタシヲ)
キレイなもので
(キズヅケナイモノデ)
ねえ そうでしょ?
ねえ…
(167-168p)

彼女はゴミ捨て場から姿を消し。
(ゴミ捨て場を出て行くドアを見つめる彼女の眼のつよい表情がとても印象的です)
そして、彼女は母となる(と、私は解釈しましたが)。

そして、ゴミ捨て場には新しい女の子がやってきて、ゴミ捨て場の番人になって。
『船を建てる』と同じく、作品は環となり。

本作は『船を建てる』同様、哀しく、切ないけれど、心のどこかが暖かくなる本であります。
おススメであります。
しかし、まぁ、中年のキモメンが本作にはまってかっこ悪いかも、です。

いや…。

「ぼくはセンチメンタルな人間なんだ、バーニー。
暗闇にすすり泣きが聞こえれば、なんだろうか見に行く。
気のきいた人間はそんな事はしない。
窓を閉めて、ラジオの音を大きくするか、車にスピードをかけて遠くへ行ってしまう。」
(レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』)

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