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2007/01/26

そよかぜ

昨日もフィルムセンターに行って、『日本映画史横断(2)歌謡・ミュージカル映画名作選』の1本『そよかぜ』を観てきました。
のちに戦後流行歌第1号として大ヒットする『リンゴの歌』はこの映画の劇中歌だったとか。

『リンゴの歌』は、オープニングからエンディングまで何度も出てきます。面白いのは「リンゴの気持ちはよくわかる…」のサビのくだりになるとテンポがスローになるところ。これがオリジナルスタイルなのですね。

あと、音響でエコーがかかってるところが何箇所かありました。歌のシーンだけじゃなくて、台詞のシーンにもかかるので、ちょっと変な感じがするのですが…。エコーって当時からあったのか。(それとも機材の関係でエコーがかかってしまったのかもしれないけど)

日本映画データベースによるスタッフ&キャスト表はこちらhttp://www.jmdb.ne.jp/1945/bu000270.htm
驚いたのが1945年10月11日封切り作ということ。敗戦からわずか2ヶ月足らずに公開された作品とか。よく敗戦前後の混乱期に映画が作れたものだと思います。

さて、お話は…。

舞台はレビューをやってる小さな劇場。そこの照明係をやってる“みち”(並木路子)。同じく劇場の事務をやっている母親とふたり暮らし。彼女は歌好きなのだけど。彼女が劇場の楽団員たちの応援を受けてその劇場の舞台にソロデビューするまでの物語と、その楽団の若い楽団員との不器用な恋の成長を描いた物語です。
ほんと、暖かい物語。ハッピーエンド。悪意のある人間は基本的に出てきませんし。みちと他の劇団員とのライバル争いとかもありません。

当時なら、あたし程度の歴史知識なら、「戦後の混乱期」なのだろうけど。そういう空気はおくびにも出てきません。登場人物たちはつつましいけれど、窮乏にはさいなまれず、普通の暮らしを送っているように見受けられます。戦争のあとを感じさせるのは、台所シーンでまな板の上に乗ってる食材がカボチャだけみたいなのと、男性の徽章類の取り外された軍服姿くらいです。
当時のお客さんたちは世知辛い世の中をちょっとだけでも忘れて、映画館の中でひと時の夢を見ていたのでしょうか。

みちを探しに、彼女の故郷の農村にやってきた楽団員たちのひとりが、「これが平和の匂いだ。」と言うシーンがありました。その台詞ひとつ、そのひとつだけが終戦直後の作品だという本作の「重み」を伝えてくれます。「寸鉄人を刺す」であります。

本作は上映時間1時間。昔の日本映画にしても短めだと思います。たぶん、フィルム自体も不足していたのではと。

本当に敗戦直後の作品とは思えないです。たぶん、製作者の側も人員や物資、いや、それ以前に自分自身の生活自体に苦労しながら作ったのではないかと察します。
http://www.ishicoro.com/uresi/no295.htm
によりますと、主演の並木路子さんご自身、空襲で母親を亡くされてるそうです。
そういう意味で印象に残る作品でありました。
やっぱり、どういう時にでも、人は夢を見なくちゃいけない、夢を見せなくちゃいけないものなのでしょう。そして、夢を見せるためにがんばった人たちがいて。

しかし、帰りの電車の中、思わず『リンゴの歌』を口ずさんでいました。
今はもう終戦直後のような混乱の時代、下手したら餓死さえ隣り合わせの時代ではないけれど。やっぱり今も混乱の時代、人心が荒廃している時代じゃないかとふと思いました。今の時代には『リンゴの歌』はないけどね。

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