『斬る』
昨日は京橋のフィルムセンターで岡本喜八監督の映画『斬る』を観てきました。
「日本映画データベース」によるスタッフ&キャスト表は
http://www.jmdb.ne.jp/1968/cr001540.htm
です。
今、東京フィルメックス映画祭というのをやっているそうです。その企画の一環としてフィルムセンターで岡本喜八監督映画の特集上映をやってます。その一本として観ました。
フィルムセンターの映画の入場料は500円なんですが、今回は800円。ちょっとお高くなっていますが、まぁ、800円で映画が見られるのは破格ではあります。
岡本喜八、ファンであります。と言っても、最初に観た岡本喜八作品は『大誘拐』の劇場封切りだったから、そう古いファンでもないです。
『大誘拐』を観にいったきっかけは、あのころよく読んでいた景山民夫さんがご出演だったからかなぁ。
『大誘拐』、ラスト近く、短いカットバックの積み重ねで、誘拐された大富豪のおばあさんがなぜ誘拐犯たちに協力したか、その“想い”が伝わってきて、圧倒的な“ちから”に感動しました。
それから岡本喜八作品のファンになり、作品を拝見するようになりました。
岡本喜八作品の魅力は、エンターティメント性とその裏の強烈な反骨精神の融合にあるかと思います。お客さんを面白がらせて、そしてまたその反骨の想いを伝える、ナカナカに大変なことだと思います。どっちかに偏るか、どっちつかずになって、けっきょくつまらない作品になるか。
ただ、岡本作品についても、その反骨精神がちょっと暴走したんではないかと思える作品もあって。『江分利満氏の優雅な生活』になると、その、反骨精神が小林桂樹の長い演説シーンになって、その前の軽快でユーモラスな作品のテンポが崩れたりしていました。『江分利満氏の優雅な生活』も好きなんだけど。
そういった作品作りって、ほんとうに難しいのだろうと思います。
まぁ、ファンと言ってもそんなにたくさん岡本喜八作品を観ている訳じゃないです。
「日本映画データベース」による岡本喜八作品リストhttp://www.jmdb.ne.jp/person/p0050510.htm
を見ても、ビデオで見たのも含めて観てない作品のほうが観てる作品よりはるかに多いし。
今回、国際的な映画祭での上映ということで、『斬る』は英語字幕つきの上映でした。英語のタイトルは"Kill"であります。そのまんまですな。
客席にはガイジンさんの姿がちらほら。パスみたいなので入場されている方もいらっしゃいました。ナフタリンの匂いのする着物姿の女性の姿もあって。
外国でも岡本喜八ファンが増えてくれたら嬉しいなと思いました。
さて、映画の感想は…
(以下ネタバレゾーンにつき)
舞台は江戸時代後期。(映画では和暦で、字幕で西暦が入っていました。助かります。)
国境のゴーストタウンと化した宿場町。そこで男たちが出会う。
ひとりは武士になりたい元・百姓・田畑半次郎(高橋悦史)。
ひとりは流浪の渡世人・兵頭弥源太 (仲代達矢)。
ひとりは、一揆の先頭に立ったため、親分郎党を皆殺しにされたヤクザの一家の生き残り。
ひとりは、城代家老の圧制を止めるため、その家老の暗殺を企てている若き武士・笈川哲太郎(中村敦夫)。
やがて、笈川哲太郎の同志たちも到着し、宿場町にやってきた悪家老の一行を待ち伏せ、襲撃し。悪家老の暗殺には成功したのだけど。しかし、彼らを援けるはずの彼らの上の者たちは、彼らの正義感にあふれる行為を自ら権力争いに利用するだけのつもりだったと。
裏切られた笈川哲太郎たちは山の砦に篭り。江戸屋敷へ事の次第を報告しに出た仲間の帰りを待つ事にする。
しかし、追っ手たちは、彼らのこもる砦へと兵を進め、さらに荒尾十郎太(岸田森)率いる、腕利きを集めた手勢がさらに彼らを捕らえようとやってくる。その、荒尾十郎太の率いる者たちの中に田畑半次郎の姿もあった。手柄を立てれば士分に取り立ててやるという約束のもとに。
しかし、彼らもまた、権力争いの使い捨ての駒とされることを知らなかった。
彼らの運命はいかに、というお話でした。
悪家老の暗殺に成功し、「これで終った。」と喜ぶ及川に、兵頭は「いや、これが始まりだ。」と告げます。その予言の通り、ひとつの“斬る”がまた新たな“斬る”を生み、さらにそれがエスカレートしていく、と。
岡本喜八監督作の仲代達矢、好きです。どこかトボけて、飄々としているんだけど、でも、守るべきものを守るためには断固として戦う強い“芯”をもっています。かっこいいです。かくありたいです。
「ルパンⅢ世」をこのころの仲代達矢、そして岡本喜八監督でやったのを観たいなぁなんて常々思ってます。幻想映画館ですな。
そしてラスト。岡本喜八はウェスタンを常に意識していた、という話を聞きましたが、オープニングの音楽、そして土ぼこり舞うゴーストタウンと化した宿場町はウェスタンのイメージでした。しかし、ラスト、その宿場町は土砂降りの雨で、日本的な景色でした。
星由里子演じる千乃。ヒロインだけど、典型的なバカ女。及川哲太郎の許婚で、彼を追って砦に向かうのだけど。しかし、及川の同志には、彼女を取り合った恋敵もいて、砦の雰囲気をややこしくしてくれます。行っても足手まといになるだけなのに。情の激しいあまり、状況を考えられないタイプなんだなぁ。つぅか、わざと状況を悪化させてないか?ほんと、斬られりゃ良かったのに生き残ってしまいます。『鼠たちの戦争』に出てきた女性兵士に次ぐ、「お願いだから死んで」と思うヒロインであります。
う~ん、残念ながら出来はいまいちだったでしょうか。
でも、佳作ではあると思います。最後まで楽しく観られましたし。
仲代達矢、中村敦夫、岸田森といった役者たちの個性がビンビンに立ちまくっていましたし。喜八節であったと思います。
ロビーには映画の台本や岡本喜八愛用の帽子、そしてポスターとかが飾られていました。
いい感じでありました。
岡本喜八作品、もっとたくさん拝見したいと思ってます。
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