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2006/07/10

未來のイヴ

未來のイヴ(ヴィリエ・ド・リラダン:著 齋藤磯雄:訳 創元ライブラリ)
読了。

演劇実験室◎万有引力公演『未来のイヴ』を観たのはいつだったか。もうどんなお芝居だったかも忘れているのですが。やっとこさ元ネタ本に手を出してみました。

英国の青年貴族のエワルド卿、彼は恋人アリシヤを熱愛しているのだけど。外見は申し分ないアリシヤ、しかし、その心は卑俗で、彼はその事に苦悩し、自殺を考えるほど思いつめている。
そのエワルド卿に窮乏の時を救われたエディソンは、その恩返しに、アリシヤと外見寸分たがわない人造人間をエワルドのために拵えようとする。
というようなお話です。

ちょっと手を出しかねていた本でした。ひとつの理由は旧漢字・旧仮名遣いという事。で、パラパラとめくってみましたが、旧漢字・旧仮名遣いではありますが、古語は出てこないようなので、何とか読めそうです。しかし、旧漢字が扱えるところに特注したりしたのでしょうか?そのせいか、余り売れ行きが見込めそうにない本と判断されたせいか、500ページ弱の文庫本なのに千五百円とチトお高くなっています。それも手を出しかねていた理由なのだけど。

しかし、「人間と人造人間との恋」は、『ブレードランナー』から最近のゲーム・アニメまで良く取り上げられているテーマですし、そのルーツとして読めるかもしれません。それに、しろはたさんでも紹介されていますし。で、買ってみる事にしました。

(以下ネタばれゾーンにつき)

本書はSFとして読みました。ちりばめられている衒学的な部分も抜かしてね。それでいいと思うのだけど。
で、意外に思ったのは、エワルド卿とその人造人間・ハダリーが一緒に暮らすところはほとんどなくて、お話の大部分がエワルド卿とエディソンの問答であるってところです。
人造人間との暮らしながら、そしてその愛を戸惑いつつも受け入れる、あるいはやっぱり受け入れられなくて悲劇に終わらせる、そういうお話を予想していたのですが。

そしてその問答が、リラダンの思想の表明でもあります。
愛も虚構であるのなら、相手が生身だろうと人造人間だろうと同じ、というところとか。

わたくしをお選びになるか……それとも、日毎にあなたを欺き、あなたにつけ込み、あなたを絶望させ、あなたを裏切る、あの昔ながらの「現実」をお選びになるか、それはあなたのご自由でございます。(p410、人造人間・ハダリーの台詞)

引用したい所はたくさんありますが、付箋を付け忘れてしまったのでこのくだりなど。

人造人間との恋。たとえば『ブレードランナー』あたりで当たり前になったような気がします。
『ブレードランナー』の原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』では、主人公・デッカードには奥さんがいます。で、デッカードはアンドロイド製造会社からあてがわれた女性アンドロイドを捨てて奥さんの元に戻るのだけど。しかし、『ブレードランナー』では、デッカードはアンドロイドとの愛を受け入れる、と。その間の時代の流れというのを思い知らされる改竄です。

本書はある種のテクノロジー礼賛でもあり。ハダリーの内部メカニズムについて紙幅を割いて解説されています。ただ、あまりよく解りませんでしたが。
イメージに浮かんでくるのはフィリッツ・ラングの映画『メトロポリス』に出てくるアンドロイド・マリアです。マリアと同じくハダリーも、最初は金属の甲冑のような体で現れ、あとからモデルとなった女性をコピーした“肉”体を持つようになります。発表年から考えて、たぶん、ハダリーはマリアの元ネタなのでしょう。

エワルド卿の苦悩するアリシヤの卑俗さ。たぶん、底意地の悪さ、あるいは二股女か何かだと思ったのですが。ただ単純に世の中に打算的である、形而上的な美を認めないというだけみたい。さすが高等な苦悩であります。

まぁ、ほんとうに、実際ハダリーと暮らし始めてからのエワルド卿との物語の方が読みたかったです。その、人造人間と恋愛関係になる、という戸惑いは事前にエディソン相手にさんざんやりましたし、初対面にはだいぶショックを受けたようですが。ここら辺、頭が先みたいな感じです。体が先の物語の方が慣れてはいるのですが。

やっぱり何回か再読して、その思想部分を理解しないと片手落ちになると思います。
という訳で、初読としての感想であります。

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