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2005/07/22

召使いたちの大英帝国

召使いたちの大英帝国(小林章夫:著 洋泉社新書Y)
読了。タイトルを見て解る通り、英国における使用人に関する本です。

まぁ、世は挙げて(か?)メイドブーム。メイドの本家といえばヴィクトリア朝時代の英国。まぁ、メイド喫茶とかは行った事がないです。いや、正確には1度だけあるけど、満員御礼では入れなかったのですが。それがまず本書を手に取ったきっかけ。
あとは森薫さんの『シャーリー』とか、『エマ・ヴィクトリアンガイド』とかが面白かったのもあるかな。

あと、もうひとつ大きなきっかけが、岸田秀の本に書かれていた事。ヴィクトリア朝時代の性的抑圧が英国の発展の原動力であったという指摘。
当時、性的関係が認められるのは、神に認められた夫婦間においてのみ。婚姻外性交はもってのほか。処女は嫁入り道具であったと。結婚前に処女を失った女性は大きくその価値が減ずるものであったと。そして、女性は経済的に男性に依存しなくてはいけない立場に追いやられ。つまり、男は女性と性的関係を持ちたいと思ったら、バリバリ働いて、奥さんを養えるくらいのカイショができてから、妻として女性を迎えるしかなかったと。その“バリバリ働く”事が資本主義の発展の原動力になったと、そういう指摘です。もちろんヴィクトリア朝時代にも安全弁として婚姻外性交を担当する売春婦はいたけれど、彼女たちの存在は大いにタブー、かつてなかったほどに蔑まれる存在であったと。また、その性的抑圧の反動で、アンダーグラウンドでは性倒錯大流行だったと。

そして、性的抑圧のせいで精神に変調をきたす人たちも多くて。
そういう時代だったから、フロイドの何でも性と結びつける精神分析療法が、つまり、精神の変調の根っこには性的ストレスがあるとする精神分析療法が妥当性を持っていたと。つまり、逆に、性的にかなり自由になった現代社会においては、フロイド的な精神分析療法の手法は妥当性が少なくなってきていると。

その指摘、面白く読みました。私は以前はこの恋愛資本主義(しろはたによる)、消費型恋愛の時代は資本主義の末期症状として現れていると思っていましたが、資本主義はその始点から恋愛資本主義だったのだなぁと解りました。

とまれ…。

『召使いたちの大英帝国』は英国における使用人についての概説と挿話集が主な内容です。
入門書に近い位置づけです。時代としては18世紀から現代あたりまでです。
こういう英国の使用人に関しての本を読んだのは『エマ・ヴィクトリアンガイド』に次いで2冊目。(『エマ~』は使用人に関してだけじゃなくて、包括的なヴィクトリア朝時代の解説書でありますが)なので、『エマ~』との比較も含めて書いてみます。

本書は8章に分れています。
第1章「広大な使用人の世界-執事から従僕まで」では、どのような男性使用人がいたかが紹介されています。家令(スチュワード)から執事(バトラー)といった管理職、料理人といった技能職、そして従者(ヴァレット)・従僕(フットマン)といった下っ働きまで。
第2章「女使用人たちの仕事」は、お好きな方には堪らないメイドさん達の紹介ですね。
ここらへんの分類は『エマ・ヴィクトリアンガイド』の方が詳しいです。
しかし、『召使いたちの~』で紹介されている、往復50キロを足りない食器を取りに徒歩で2時間で往復したり、主人の手紙を届けるために一夜で100キロ以上往復したフットマンのエピソードって、ちょいと眉唾ですが。

そして第3章「使用人部屋の世界を覗いてみれば」では、使用人の世界の実態が紹介されています。当時の上流階級の人たちは使用人を雇うのにいくらぐらい遣っていたかとか、使用人たちの生活はどうだったかとかです。
ちなみに森薫さんの『シャーリー』には13歳くらいの少女メイドが出てきますが、10歳くらいでもう奉公に出るのは普通だったみたいです。だから、シャーリーはくらいの年齢のメイドは普通だったのかな?ただ、シャーリーは家事全般こなせて料理も得意、かなりの腕前みたいだし、他所の家からの?転職みたいだし、それは珍しいことだったかもしれませんね。シャーリー、雇いたいぞ。

第4章「主人もさまざま、使用人もさまざま」、この章は主人や使用人を巡るエピソード集です。いちばん面白い章であります。使用人に2キロものトンネルを掘らせた主人の話。掘らせる主人も主人ですが、それだけのトンネルを掘れるだけの広大な土地を持っていたというのも凄いです。

第5章「貞操の危機-主人と使用人の緊張した関係」、章題、モロ過ぎですよぉ…。
世に曰く「一盗二婢三妾四妻」とか。つまり、抱いて味がいいのは先ずいちばんに他人の妻、次が女中、3番目がおメカケで、最後が妻と。まぁ、そういうエピソードを集めた章です。
もちろんそういった(どういった?)話だけではなく、主人がメイドを見初めて玉の輿といった話も紹介されています。

第6章「使用人と新天地」では、黒人使用人の話、そして、海外へ出て行く英国の使用人たちの話が収められています。黒人使用人、“買えた”とか。そして、見せびらかし用として黒人使用人が使われたとか。ただ、英国における黒人使用人は18世紀後半には奴隷ではないという判例が出されているようですし、米国における黒人奴隷よりは待遇がよかったようですが。そして、国外へ進出していく英国使用人の話。ここらへんは『エマ・ヴィクトリアンガイド』ではあまり触れられていない部分で、興味深かったです。

第7章「貴族の没落と召使いの変化」。かつての貴族、広大な地所を所有し、そこからの収入で莫大な富を得ていた貴族達が時代の流れの中で没落し、それに替わって台頭してきたのが商業、工業、貿易で富を築いた人たちだったと。その時代の流れと使用人事情の変化が取り上げられています。ここらへんは『エマ・ヴィクトリアンガイド』にも詳しく書かれています。というのもそういった時代背景を元に『エマ』が描かれているのです。(ちなみに『エマ』はまだ1巻しか読んでないけど)『エマ』に出てくる青年ウィリアムはその新興富裕層の出身で、両親はある貴族の娘との結婚を望んでいると。貴族の娘と結婚すれば、爵位が手に入る訳で。しかし、ウィリアムが想いを寄せいているのはメイドのエマであると。そういうお話です。

で、最終章・第8章「現代使用人事情」。さすがに現代では住み込みの使用人はほとんど姿を消し、使用人が必要な家でも通いの使用人を使うようになっているのだけど。でも、いまだに残っている使用人。その代表的な例、女性ならナニー(乳母)、男性ならバトラー(執事)が取り上げられています。英国にはナニー養成校とかバトラー養成校とかあるそうです。一流のナニー養成校をでた女性は引っ張りだこで、結婚相手としても引っ張りだことか。
そう言えば、故・ダイアナ元皇太子妃も結婚前は保母さんだったと日本では紹介されていましたが、そういう一流のナニー養成校を出て、超一流のナニーとして働いていたのかしら?

『召使いたちの大英帝国』、面白く読みました。また、『エマ・ヴィクトリアンガイド』と合わせて読めたせいもっと面白く読めたと思います。

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