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2005/07/06

海洋堂クロニクル

海洋堂クロニクル(あさのまさひこ:編&著 太田出版:刊)
読了。

ずっと気になっていた本でした。でもちょっと高いので手を出してなかったのですが(その程度にはヘタレ、であります)。あぶく銭が少し手に入ったので購入しました。
やっぱり買ってよかった、読んでよかった本でありました。

私は元・モデラーです。ご飯を抜かして平気だったのはプラモデルを作っている間くらいでした。
受験あたりからプラモデルを作らなくなって、大学で安アパート暮らしを始めて、模型を作れる環境じゃなくなりました。シンナー臭をまき散らすわけにはいか ないし、たくさんの模型を置く場所もなかったし。それでも模型雑誌はしばらく買っていました。大学を出て、地元で就職をして実家に帰って、そしたら模型作 りを再開しようと思っていましたし。思ったようにはならなかったのですが…。そして模型雑誌も買わなくなって。

ちょうどあのころが模型業界の一大変革期であったと思います。

ひとつはキャラクター物へのタブーが無くなった事。かつて模型雑誌でアニメとか特撮とかのキャラクターモデルを取り上げる事はタブーでした。実在しない物の模型を取り上げるなんて事はありませんでした。そんなのガキのおもちゃという感じでした。それをホビージャパン誌が取り上げるようになって。最初は松本零士特集だったかな。松本零士の戦場マンガシリーズに出てきた戦闘機とか。作中に登場する“実在”の戦闘機に作中と同じマーキングを施したり、松本零士オリジナルの戦闘機をスクラッチビルドしたり。その特集は実機物とキャラクター物のボーダーライン上にスタンスを取るスタイルの特集だったと思います。それからホビージャパン誌はキャラクター物を少しづつ取り上げるようになって、スターウォーズ特集とかあって。機動戦士ガンダムを取り上げてブレイクして。キャラクター物がマニアックなモデラーの間でも市民権を得て。
かつて模型点においてある模型雑誌と言えばモデルアートで、ホビージャパンは、私の地元だと、大きい本屋さんに少し置いてあるくらいでした。あのころ私は模型店に出入りしていて、モデルアートを買っていたのだけど。模型店の常連の大学生くらいのお兄ちゃんたちがホビージャパンを買っているという話を聞いて、背伸びしてホビージャパンを買い始めました。モデルアートは作例記事が丁寧で、改造記事とかもきちんとプラ板を切り出す時の型紙とか、懇切丁寧な記事が載っていたりして、ビギナー向けだったのだけど。ホビージャパンはそういうのは載っていなくて、載ってても完成品の三面図くらいで、作りたい奴は自分で寸法を割り出せという辛口の記事内容でした。
で、昔はメジャーなモデルアート、マイナーなホビージャパンと言う区分けだったのだけど、ガンプラブームでその立場は逆転しました。

もうひとつは新素材が模型に導入された事。こしらえた模型の部品をシリコンで型取りして、レジンとかで複製する手法です。これもホビージャパンが模型雑誌として初めて特集を組んだものと記憶しています。
しかし、その特集記事が組まれた当時、地方都市では個人がシリコンだのレジンだのを手に入れるのはまず不可能だったのですが…。
最初は戦車の転輪とか、模型を作るのに複数要るパーツでも、ひとつ原型をこしらえれば複製できるから便利、という感じだったのですが。ま、自然な流れでその複製品を頒布するという方向に行って。それがガレージキット事始め。それ以前にもバキュームフォーム(真空成型)というガレージキットの流れもありますが。日本ではあまりなかったのではないかと記憶しています。

キャラクターモデルがマニアックなモデラーにも市民権を得る。そして、原型の複製が個人レベルでも可能になる。この二つのほぼ同時期に始まった流れがガレージキットの誕生、そして現在の食玩ブームにまで連なります。
その流れの中で重要な役割を果たした海洋堂にスポットを当ててそれをクロニクル(年代記)として著した本が本書という訳です。

いやしかし、本書はクロニクル(年代記)というよりサーガ(大河小説)を感じさせます。

最初の模型店として海洋堂が始まった話。いやほんとに近場にあったら行きたかった模型店です。大して広くも無い(失礼!)店内の2/3を使ってプールをこしらえたり。『サブマリン707』も楽しめると。『サブマリン707』、思い出深いプラモデルです。自走浮沈装置というのがついていて。潜舵と潜望鏡が連動して動くようになってます。で、最初は浮上状態で、潜舵が下向きになっていて、沈んでいきます。沈むと潜望鏡が水の抵抗で後ろに倒れ、連動している潜舵が上向きになって浮上すると。浮上すると水の抵抗がなくなった潜望鏡がゴムか何かのテンションでまた前に倒れ、連動している潜舵も下向きになり、潜行を開始すると。そうして潜行と浮上を繰り返す、そういうギミックです。動力はゴムと別売りのマブチの水中モーターが使えたかな。
ただですね、このギミックを楽しむのは家庭のお風呂レベルじゃ無理なんですよね。広い川とか池とかプールで走らせないといけない。とり・みきさんがマンガのネタにしてますが、川で走らせようとして行方不明になったり。この自動浮沈装置つきの潜水艦プラモは『サブマリン707』じゃなかったけど、私も作った事がありますが、結局この、それに惹かれて買った自動浮沈装置の効果は試せなくて、ずいぶん悔しい思いをしました。
まぁ、楽しめるような場所がないというのは水物プラモの宿命なんでしょうが。しかし、それを走らせられるプールを作った模型店というだけで本当にすごい、えらいお店だと思います。

そして社長の模型行脚、その凄まじいまでの情熱。いや、もうキ印の世界なのだけど(またまた失礼!)。
んで、模型店もそうだし、ミリタリーショップもそうなんだけど、個人経営のこの手の趣味の店には、たいてい店に溜まる常連さんってのができます。(まぁ、買いもしない人間がお店に溜まって駄弁ってるってのは店や普通のお客さんにとって迷惑な部分もあるわけですが。)やっぱり海洋堂はそれだけ“熱い”店だったせいでしょうか、凄腕モデラーが集まっていたようで。ガレージキットの時代になって、その梁山泊状態から著名な原型師が輩出する、と。ここらへんの空気、理解できます。読んでいてこちらまで熱くなります。

そしてアクションフィギュアブームに対抗するための中国への生産拠点進出。
海洋堂スタッフの熱が中国側のクラフトマンシップに火をつける様。
中国の生産拠点は中国レポートはあさのまさひこさんが書いていますが、こちらが持っていた先入観をやすやすぶっ飛ばしてくれます。

中国式接待。『中国てなもんや商社』では、それは最初、中国側がいい加減な品物を押し付けるために、こちら側を「まるめ込む」手段として使われていると描写されていましたが。海洋堂側の“熱い”スタッフはそれを乗り越え、かえって中国側を飲み込んでしまいます。日本じゃ下戸のスタッフも勧められる酒をがぶ呑みして。痛快です。

そして『チョコエッグ』を初めとする食玩ブーム。一般の人たちも巻き込んだそのブームも、その裏には超個性的な原型師がいた、と。
そう、ブームだろうがそうじゃなかろうが、海洋堂には『ガレージキットスピリッツ』が常にあったと。

もちろん、裏には、ネガティブな事も多々あったのでしょうが。だいたい、模型マニアとかミリタリーマニアとか、ちょっとした事でどうしてここまで行くんだろうというくらい反目しますし。やっぱり元々狭い業界のせいかと思うのですが。

いや、本書について書き出すとキリがなくなりそうなのでここらへんで。
ちょっと高くて手を出しあぐねてたけど、もっと早くに買うべき&読むべき本でした。
確かに高くなっても造本に凝ったからこそ「造型狂」集団・海洋堂の雰囲気が字面からもにじみ出てきているのだと思います。しかし、ビニールカバーはありがたいけど外れやすいのを何とかしてほしかったな、と。

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